【保存版】カスタマーサクセス業務の全体像を紐解く
0. カスタマーサクセスとは
ここ数年で急速にその重要性が認識されてきたカスタマーサクセス。
今回はそんなカスタマーサクセスが取り組むべき業務の全体像を整理してみた。
ちなみに、その前段の問いとなる「カスタマーサクセスとは何か?」については、前に書いた以下の記事に詳しく纏めてあるので今回は解説の座を譲るとしよう。
1. サクセスジャーニーマップの策定
ゼロからカスタマーサクセスを立ち上げる場合も踏まえて書くと、まずはサクセスジャーニーマップの策定を取り上げたい。
これは契約後の顧客が成功に至るまでのプロセスを描いたものだ。カスタマージャーニーの既存顧客版と捉えてもいいし、ロードマップやライフサイクル(表)と呼んでもいい。
前述のとおりカスタマーサクセスとは、顧客を成功に導く支援をすることが求められるため、その工程表を描く必要がある。
「カスタマーサクセスを始めたが、何をすればいいか分からない」という場合は、「顧客が成功に至るまでに何をしなければいけないか」と問い直してみて欲しい。その過程で顧客が何かしら困ることや悩むことがあるはずだ。
カスタマーサクセスはそれらの障壁を取り除いていく活動と捉えれば、自ずとやるべきことが明確になる。それを明らかにするために、サクセスジャーニーマップを作ることは有効な手段だろう。
何より、顧客がプロダクトを契約・購入してから、どのようなステップを経て成果を得られるのか?を明確にしなければ、顧客は今どこにいて、これからどこに導けばいいのか、が分からなくなってしまう。
このステップやフェーズの切り方は会社によって様々なため、一律の決まりはないが、よくある分け方としてこの3段階がある。
導入期(オンボーディング)
定着期(アダプション)
拡大・更新期(リニューアル・エクスパンション)
ここから1つずつ各ステップの解説をしていきたい。
1-1. 導入期(オンボーディング)
導入期はオンボーディング(期)とも呼ばれる。
これはプロダクトを使い始めたばかりの時期で、使えるようになるための助走期間のことだ。
車で言うと、教習を受けて運転免許を取るまでをイメージすると分かりやすいだろう。
導入期にやるべきことは大きく分けて3つある。
1つめは「初期設定」だ。
アカウントを開設する、ユーザー登録する、必要な情報やデータを入力する、自社に合わせた機能設定をするなど、導入したばかりの時に行うべきシステム設定のことである。
(初期設定という表現は少々乱暴だが)システムだけでなく人の側面では、顧客側の導入目的やゴールの設定、認識合わせなども行おう。
なお、プロダクトが非常に簡単に使えるものだったり、BtoC(一般消費者向け)である場合は、ここはほとんど無い場合もある。
2つめは「基礎理解」だ。
これはシンプルに、顧客にシステムの操作方法や使い方などを理解してもらうこと。ハイタッチ(対面で個別指導する手法)であればレクチャーの実施になるだろうし、テックタッチ(遠隔でデジタルに対応する手法)であればWebマニュアルをメールで送るなどの打ち手になるだろう。
3つめは「操作習得」だ。
使い方を理解した後は、実際に自分でプロダクトを操作できるようになってもらう。また、単にシステムの画面操作に慣れるだけでなく、実際の業務と紐付けて使ってもらえるようにしなければならない。
1-2. 定着期(アダプション)
定着期はアダプション(期)とも呼ばれる。
活用期などとも呼ぶ場合もあり、これは導入期を終えてプロダクトを自ら使いこなして成果を出しに行く自走期間だ。
車で言うと、自分ひとりで公道を実際に走ってみたり、時々親が助手席に乗ってアドバイスを受けながら長距離を走行して、運転に慣れたり技術を磨いていく時期だろう。
薄々お気づきかもしれないが、導入期と定着期には決定的な違いがある。
導入期はある程度やることが同じだが、定着期は顧客によってやることがガラっと変わってくる。
(これはもちろんプロダクトが同じであることを前提としている。普通の車の運転免許とトラックの運転免許では、当然導入期の内容も全く異なる)
そのため、導入期はある程度その内容や進め方の型を作りやすいが、定着期は街乗りしたいドライバーから長距離ドライブ旅行をしたい人まで様々なため、活用方法をいくつかパターン分けをしていく必要がある場合も多い。
そんな定着期にやるべきことも3つ挙げてみたい。なお前述の理由から、定着期の3要素については、必ずしも全てが必要とは限らない。
1つめは「運用習慣化」だ。
プロダクトを実際の業務や生活で日常的に当たり前に使っている状態に持っていかないといけない。
ただし、もちろん利用頻度や利用シーンはプロダクトによって様々なので、日常的に使うものではない場合は、その会社の考える「顧客にプロダクトが使われている」のあるべき姿を描いて実現する必要がある。
2つめは「活用習熟」だ。
「使われている」の先にある「使いこなされている」を目指す部分である。例えば、複数の機能を組み合わせて使ったり、他ツールと連携したり、より深い分析をできるようになるなど、その形は様々だろう。
ちなみに「顧客の利用レベルを上げていくことで、より成果を出せるようになる」タイプのプロダクトであれば、この要素は極めて重要になる。
例えば、深く分析すればより良い示唆が出るなら分析職人の育成のようなことが大事になるだろうし、PDCAを回すほど成果が出る確率が高まるなら利用頻度(PDCAサイクル)を増やす働きかけが効きそうだ。
3つめは「利用者浸透」だ。
これは顧客の社内のユーザー数、適応業務数、利用部署数などを増やしていく(=プロダクトを顧客社内に浸透させていく)ということである。
はじめは少数のユーザーで使って、良さそうであれば利用者を広げるというタイプのプロダクトや、利用者が増えれば増えるほど成果が出る(例:業務効率化が進むなど)ようなプロダクトなら、利用者を広げていくことが求められる。
もちろん導入当初から全社員が利用登録するプロダクトもあれば、ユーザー課金型のプロダクトで利用者浸透は拡大期に当たるという場合もあるだろう。その場合は必ずしも定着期で実施しなくても良さそうだ。
1-3. 拡大・更新期(リニューアル・エクスパンション)
拡大期はエクスパンション(期)、更新期はリニューアル(期)とも呼ばれる。拡大期と更新期は分ける場合もあれば、フェーズとしては設けずに代わりに成功期など顧客視点のフェーズを設ける場合もある。
これはプロダクトの利用による成果が得られていて、利用契約を更新したり、利用する機能や人数を拡大(アップグレード)したりする期間だ。
拡大・更新期のやるべきことも3つある。
1つめは「成果実感」だ。
顧客がプロダクトの契約更新をしたり利用拡大をするには、当たり前だがプロダクトの利用を通じて成果を感じていたり、それに満足している必要がある。
ものによっては成果が見えづらい・測りづらいプロダクトもあるだろう。その場合は「このような成果が出ました」と顧客に実感してもらうアシストをしなければならない。(もちろん成果が出ていれば、の話だが・・・)
2つめは「契約更新」だ。
ここは文字通り顧客の利用契約を更新すること。もちろん顧客から解約されない限りは自動更新という場合は何もしないこともある。
ただし、契約金額が大きかったり、大口の顧客にはしっかり更新営業をかけに行くなど、確実に更新してもらう働きかけが重要だ。
3つめは「利用拡大」だ。
カスタマーサクセスの役割とは、顧客の成功を実現するだけでなく、自社の収益アップに貢献するという二刀流である。そして収益向上とは単に解約を防いで契約更新率を上げるだけでなく、アップセルやクロスセルなどで顧客の利用金額を拡大していくことも同様に重要なのだ。
ではカスタマーサクセスは、これらをどのように実現するべきなのか?
その答えとなる「顧客対応」の業務について解説していきたい。
2. 顧客対応
悲しいことに上記のようなサクセスジャーニーマップを描いても、必ずしも全ての顧客が順風満帆に歩みを進めてくれるわけではない。
顧客が成功に向けてプロダクトを使っていくと、必ず何かしら困りごとや悩みごとが出てくる。それを解決したり支援していくこと、あるいは未然に防いだり後押しすることが必要なのだ。それをここでは「顧客対応」と呼ぼう。
言うまでもなくカスタマーサクセスのコア業務となるのがこの顧客対応の部分だ。そして顧客対応はそれぞれ、導入期の支援、定着期の支援、そして拡大・更新期の営業活動に分かれる。
ここでそれぞれの支援におけるポイントを、システム、オペレーション、スタッフの観点から考えてみる。
カスタマーサクセスのよくある落とし穴として、システム(プロダクト)の観点からしか支援を行わず、顧客支援の芯を外してしまうことだ。
例えば、フライパンとキッチンのカスタマーサクセスをする場合に、プロダクトの観点からだけで支援(説明など)を行えば、コンロの火の付け方やフライパンの握り方などの操作方法を丁寧に説明するだろう。
もちろんそれ自体が悪いわけではない。問題なのはプロダクトの操作方法だけで話しが終わってしまい、カスタマーサクセス側はそれでオンボーディング完了と謳うが、顧客側は「え、それだけ・・・?」となってしまうことである。
顧客が本当に教えて欲しいことは、このフライパンとキッチンでどんな美味しい料理をどうやって作れるか?日々の食生活や食卓がどう良くできるか?の方ではないだろうか。
そのため、単にシステム(プロダクト)の設定や説明をするだけでなく、オペレーション(業務や生活)をどう良くしていくか?その中のどんなシーンにおいてプロダクトをどう使えばいいか?を伝え、それをスタッフ(ユーザー)が理解し、実践し、成果創出していく手助けをしていかなければいけない。
2-1. 導入支援
導入支援のポイントとしては2つある。(※システムの部分は割愛)
まずは、前述のとおりオペレーションの部分で、いかに顧客の日常業務におけるプロダクトの利用シーンを想起させられるかが重要だ。
そして、スタッフの部分でプロダクトの導入目的やゴール、利用方針などを定め、決裁者、管理者、利用者など様々な関係者間できちんと合意を取っておく必要がある。
特に規模の大きい企業が顧客の場合は「上に言われたから」という理由で、キックオフ会議に状況も分からず引っ張り出されるような現場担当者も少なくない。
そのため、自社と顧客の間での目標設定や合意形成だけでなく、顧客の社内の関係者間でも同じことをした方が安全だ。
なお、カスタマーサクセスが行う導入支援の内容の例としては、次のようなものがある。
2-2. 定着支援
次に定着支援のポイントだが、ここもシステム面はサクセスジャーニーマップの箇所で触れているため、オペレーションとスタッフの観点から見ていきたい。
カスタマーサクセスの定着支援の肝とも呼べるべきものは、プロダクトを顧客の業務に深く組み入れて、プロダクトを顧客にとってなくてはならないインフラのようなものにする(=Must have化)ことだ。
「既存の重要な会議や報告の場で使ってもらうようにする」、「日常の業務の一部と置き換えたり組み合わせる」、「プロダクトを使うと業務が非常に楽になるなどの圧倒的なメリットを実感してもらう」など方法は様々だが、カスタマーサクセスとしては、これをどう実現するかを考え抜かなければならない。
そして、そのためにという意味もあるが、やはり顧客社内の現場ユーザーを巻き込んでいくことも同様に大事になってくる。特に熟練の社員などは「オレ流」が染みついていて、なかなか新しいやり方に切り替えようとしなかったり、既存の手法(紙、FAX、エクセルなど)に慣れているとそこから脱却することが非常に大変だったりする。
ここで、いわゆるチャンピオンやスターユーザーと呼ばれる顧客社内で影響力を持つプロダクトの利用推奨者を生み出せると、この現場を巻き込むという部分が格段に進めやすくなるだろう。
なお、カスタマーサクセスが行う定着支援の内容の例としては、次のようなものがある。
2-3. 更新・拡大営業
最後に更新・拡大営業の3つのポイントに触れていきたい。
まずシステム面については、将来への期待感を醸成することが重要だ。
特にスタートアップなどの場合は、プロダクトが未成熟でまだまだ発展途上という場合も少なくない。そのため「現状ではこの欲しい機能が足りないから契約は更新できない」などと言われた経験もあるのではなかろうか。
(もちろん真実であることが前提だが)ここで半年後1年後にはその機能が開発される旨や、中長期的にどのくらい便利になるかなどのビジョンを示せるかが成否の分かれ目になる。
次にオペレーション面については、サクセスジャーニーマップでも触れたとおり、いかに成果を可視化できるか、ROIを証明できるかが重要となる。
特に成果が出ていたり、業務が改善されているのに、数値化されていないがために「顧客が気づいていないだけ」という場合も往々にしてある。
こういった場合は、カスタマーサクセスが成果の計測や可視化を手助けしたり、アンケートで定性情報を集めて集計して定量化するなどの支援が有効だ。
ただし、成果の可視化は導入期や導入前あたりからBefore/AfterのBeforeの状態を計測しておかなければいけない場合もあるため、このフェーズになってから焦って成果を可視化しようとしても手遅れなことも・・・。
最後にスタッフ面だが、これは言うまでもなくいかに決裁者にアプローチできるかがポイントとなる。上記と同様に導入期や定着期の早い段階から決裁者を巻き込んでおく、あるいは少なくとも接点を持っておくなどの事前準備が重要だ。
四半期報告会などの場を設けて、定期的にプロダクト利用の成功事例や現場の喜びの声などを決裁者に届けておけると、更新・拡大の交渉を行う時も説得材料が揃っているため、話を進めやすいだろう。
次は、顧客対応の実践に必要な「コンテンツ開発・整備」の部分について解説しよう。
3. コンテンツ開発・整備
上記のとおり顧客対応と一口に言っても、その内容や方法は様々だ。
その中で重要なことは、顧客対応の効果や成功確率を上げること、それをなるべく効率的に行えること、そしてCSM(カスタマーサクセス担当者)が誰でも出来るようにすることである。
そのために、顧客対応で使うコンテンツは、効果的なものをある程度の型に落としておく、用途別に整理しておくなどが必要だ。
今回はカスタマーサクセスが顧客対応関連で使うであろうコンテンツを(無理やり)5種類に分類してみた。
3-1. 説明・育成
これは文字通り汎用的なプロダクトの説明資料などや、その利用に必要な知識の学習教材などだ。
育成については、顧客がプロダクトを利用したり、成果を出すために、顧客の知識やスキルの向上が求められる場合、カスタマーサクセスは顧客を育成しなければいけない。
例えば、会計ソフトなら、顧客に経理や会計の知識がないと使いこなせないということが発生する場合がある。あるいはフリマアプリなら物を上手に売る方法や商品説明文の書き方のノウハウを伝授する方がユーザーが稼げる、などもあるだろう。
その場合は、会計を分かりやすく解説するセミナーや動画教材を提供してもいいし、アプリで物を売る方法をまとめたノウハウ記事やFAQを用意してもいい。
そういった資料、動画、記事、FAQなどをまとめて、ここでは「説明・育成コンテンツ」と呼ぶことにする。
3-2. 状況把握
これは顧客の状況を把握したり、情報を引き出すためのコンテンツを指している。例えば、ヒアリングシートやアンケートなどは分かりやすいだろう。あるいは3ヶ月に一度の状況確認のための架電のトークスクリプトでもいいかもしれない。
あえてコンテンツとして整備する必要はあるのか?そんな疑問が浮かんだ方もいるだろう。ぜひ整備してほしい。
理由としては、顧客から情報を引き出すという行為は、属人的に行うとCSの担当者ごとにかなりブレが生じてしまうからだ。特にヒアリングなどは個々人の質問力や構造的思考力によって、確認項目にかなり差が生まれるだろう。
3-3. 課題解決
これは顧客の困りごとを解決するための個別対応を行うコンテンツだ。顧客への課題解決や成果創出などの提案書や、各種情報を取りまとめて可視化した報告書などが挙げられる。
あるいは、導入時などに顧客社内の偉い人と現場担当者の意見が食い違い、認識あわせのためのワークショップを行う場合などは、そのコンテンツも該当するかもしれない。社内用に顧客の困りごとと解決策をまとめたプレイブックなどの資料があれば、それも課題解決のカテゴリーに入るだろう。
3-4. 関係構築
顧客と関係を築いたり、満足度を上げたり、決裁者を紹介してもらったりなど関係を広げる・深めるためのコンテンツである。なお、ここはコンテンツというよりは、飲みに行くなどのアクションになる場合も多いため、あくまでコンテンツにできそうなものは整備しておくくらいで良いかもしれない。
例えば、ユーザーコミュニティの事例や企画資料、表彰や認定系の企画資料、決裁者の紹介を依頼するメール文面の雛形などだ。
前述の報告資料なども、現場担当者の活躍を上長に伝えることが目的の資料であれば、こちらに分類されるかもしれない。
3-5. 販売・広報
更新や拡大営業に使う提案書や、顧客の稟議突破用のROI算出シート、新機能リリースの告知メール文面の雛形、キャンペーンのお知らせLPの雛形などが当てはまる。
会社によっては、営業時の期待値コントロールを目的として、カスタマーサクセスが新規営業の資料やマーケティングの導入事例を作っている場合もあるため、その場合はそれらも含まれるだろう。
次に、カスタマーサクセスが管理・活用すべき顧客情報について紐解いていく。顧客情報の管理は、顧客対応の成否を左右する非常に重要な業務のひとつだ。
4. 顧客情報管理
前述のコンテンツを使って顧客対応を行うとしても、ただ闇雲に行えばいいわけではない。
カスタマーサクセスとは顧客の成功を科学する活動だ。つまり再現性高く顧客が上手くいくように支援する仕組みを整え実行することが求められる。
そのため、定量・定性情報を駆使してデータドリブンに顧客対応を進めていかなければならない。
管理すべき顧客情報は大きく7つに分類できる。
4-1. 基本情報
顧客名、所在地、連絡先、担当者名などの基本情報を指す。
もちろんそれだけでなく、導入目的や事業課題、契約の内容や金額、利用拡大余地、決裁者を含めて関係者の情報、売上や従業員数、企業規模や業界などの属性情報なども含まれる。
場合によっては顧客の顧客(エンドユーザー)の情報を持っておく必要もある。顧客がエンドユーザーに喜んでもらうことが顧客の成功だった場合は、自社のカスタマーサクセスも、顧客だけでなくエンドユーザーを意識しなければならない。
もちろんエンドユーザーの個人情報や詳細を受け取れるケースは少ないので、ざっくり「どのような属性か」や「どのようなニーズ・課題があるか」などを把握しておくだけでも良い。
4-2. 会話履歴
これは導入前の営業時のやり取りや、導入後のCSMとの打ち合わせや電話の議事録、お問い合わせと回答の履歴などのことで、カスタマーサクセス的には非常に重要な情報が詰まっている。
意外とこのコミュニケーションの履歴のデータは重要なはずなのに、軽視されたり、取得・蓄積されていなかったりする。
特に契約や購入の前後で、カスタマーサクセスに営業から顧客が引き継がれるタイミングでは、基本情報とあわせてどのような経緯ややり取りで導入に至ったかの情報を漏れなく受け取る必要がある。
4-3. フェーズ情報
前述のサクセスジャーニーマップで触れた、顧客のライフサイクル(フェーズ、ステップ、状態、成熟度など)の情報だ。
現時点で顧客がどのような状態にあるかを分かりやすく把握するためにも、フェーズ情報はしっかり管理する必要がある。
そのためにも、各フェーズの完了基準などは明確にしておきたい。例えば何がいつまでにどうなれば導入期(オンボーディング)は完了なのか?などを明確にしておかないと、CSMによっては「この顧客はまだ導入期だ」「いやいやもう定着期だよ」なんていう会話が起こりかねない・・・。
また、顧客が現在どのフェーズにいるかだけでなく、過去にどういう変遷を辿ったかなども記録として残しておくべきだ。例えば、現在定着期にいる顧客も順調に導入期を終えた場合と、通常の2倍くらいの時間を要してもの凄く苦戦に苦戦を重ねて導入期を終えた場合とでは、全く対応の仕方が変わってくる。そういった情報も蓄積しておくことが、カスタマーサクセスの対応の品質向上に繋がるのだ。
4-4. 導入完了度
上記とも繋がる話だが、顧客が導入時に完了すべき設定やタスクを終えられているか、サービスの使い方や導入目的を理解しているかなどの情報だ。
一言でいえば、プロダクトを利用するための環境が整っているか?利用を開始するための準備はできているか?の判断指標と思ってもらいたい。
4-5. 関係性
ここは文字通り顧客との関係性が良好な状態かを示すものだ。
分かりやすい例だと、NPSやCSAT(満足度)の点数などが挙げられる。また、決裁者やキーマンと接触できているか?頻繁に会えているか?などや、顧客社内のユーザーとの接点数、商談や電話などのコミュニケーション頻度、イベント参加率、事例インタビューの実施の有無などでも測れるかもしれない。
4-6. 活用度
顧客がプロダクトをどのくらい利用しているかを測るものだ。
ログイン頻度、利用人数、利用機能数、顧客による情報の入力・出力された回数や量など、「使われている」を広さと深さで見ていく。
もちろん、ここもその定義によって見るべきデータやその見方は大きく変わる。
もう少し幅広く見るならば、前述の会話履歴(コミュニケーションログ)に対して、活動履歴(アクションログ)と捉えても良い。
注意点としては、活動が行われる場所がプロダクト内だけとは限らないことだ。例えば、売上アップを謳うデータ分析ツールの場合、分析自体はプロダクト内で行われるためもちろん計測可能だろう。しかし、分析結果から施策を立案したり実行する部分は、売上を左右する重要な活動にも関わらず、プロダクトの外で行われているため、活動履歴の計測ができない場合がある。
そのため「活用度」はプロダクトから取得しやすい情報であるものの、上記のような落とし穴がある点は見落としてはならない。
4-7. 費用対効果
ROI(顧客が支払っている費用に対してどれだけ成果を出しているか)を指す。とは言え全てのプロダクトが定量的に成果(R)を計測できるわけではないので、シンプルに顧客がどれだけ成功しているかを定性的に判断したり、導入時に立てた目標の達成状況を見るなどで判断する場合もある。
【参考】ヘルススコア
ちなみに、4-4~4-7の4つの指標は、よくDEARフレームワークなどと呼ばれて、ヘルススコアの構成要素として取り上げられることも多い。
ヘルススコアとは顧客の健康状態を表す管理指標のことで、カスタマーサクセスが顧客の解約危機を予測したり、売上拡大の機会を察知する目的で使われることが多い。
ヘルススコアも含めて、こういった顧客情報の取得、蓄積、分析、活用をきちんと設計し、運用していくことが、カスタマーサクセスにとっては極めて重要な業務のひとつとなる。
5. CSツール導入・運用
上記のような顧客情報や、CSMの業務データ・タスク管理など、カスタマーサクセスが管理すべき要素は多岐に渡る。
そういった情報をExcelやスプレッドシートで管理している会社も少なくない。ただExcelやスプレッドシートはカスタマイズ性が高く使いやすい一方で最初の設計、そして更新や連携、アクションへの接続などはかなりの工数がかかり、結果として業務効率化が進まないのもまた、よくある落とし穴だ。
役割や役職にもよるが、本来的にカスタマーサクセスは顧客対応というコア業務にリソースを集中投下することで、成果や生産性を最大化しなければいけない。
なので、CRMやSFAなどの情報管理ツールや、蓄積した情報からタスク生成や顧客対応を自動化してくれるカスタマーサクセス向けのツールを使いこなすことで、上記を実現することをお勧めする。
なお、上記のような情報の整備やツール導入など、カスタマーサクセスの業務効率化やコア業務に集中できる環境作りを行う「CS Ops」という職種も近年では脚光を浴びている。カスタマーサクセス組織の人数が一定数以上になってきたら、CS Opsを配置するのも一考だ。
【参考】CS Opsの活動内容
ここからは、ゼロから始める場合も鑑みて、カスタマーサクセスの戦略立案の業務について解説していきたい。
6. 戦略立案
カスタマーサクセスの人数が増えて、組織の拡大に伴い、特に重要さを増してくるのが、この戦略や方針策定の部分だ。逆に言えばここが強固な組織は、人数が増えてもCSMが自走して着実に成果を出してくれるだろう。
その中でも特に重要な4つの要素を取り上げたい。
6-1. 目標設定
ここはカスタマーサクセスが組織として、個々人の担当者として、何の数値を追うか、どれくらい達成すべきか、という定量的な数値目標の話と、ミッションやビジョンのような定性的な目標(存在意義や役割と置き換えてもいいかもしれない)の話の2種類に分けられる。
まず定量的な数値目標は、皆さんお馴染みのKGI、KPI、KAI(Key Action Indicator)だ。
呼び方は会社によって様々だろうが、今回はこの3つの呼称を使おうと思う。
KGIは、ゴールとなる指標で、NRR(Net Revenue Retention)や解約率、既存顧客の月次売上高などが例として挙げられる。
KPIは、ゴール達成のために重要となる指標で、オンボーディング完了率やNPS(KGIになる場合もある)、ヘルススコアなどがある。
KAIは、上記の数値を達成するために必要なCSMのアクションを洗い出し、分解して、数値目標に落としたもので、商談数や架電数などが分かりやすいだろう。
次に定性的な目標についてだ。
ここは完全に筆者個人の独断と偏見に基づく主観的な意見だが、定量的な目標「だけ」を掲げているカスタマーサクセス組織は、働く側の視点に立つと、正直面白みに欠ける。
日々業務に明け暮れる現場のCSMの視点で見れば、商談数を100件達成する、NPSを30にする、解約率を1%にするという目標を、歯を食いしばって、お尻を叩かれ、どう達成するか頭を悩ませ追いかける毎日には、わくわくしない。そんな日々の先に自分のキャリアの将来も見えない。
だからこそ、自分が何のためにこの数字を追っているのか?自分のキャリアは今日頑張った先にどうなるのか?を示してくれる、日々ワクワクしながらそれを頑張れる定性的な目標がある方が良いと、個人的には思う。
それは例えば「建設業界SaaSの中で一番顧客の成果を出せるCSのプロ集団になる」のような将来像でもいいし、「日本から会計を知らないビジネスパーソンをなくす」(=教えまくるぞ!!)という目標でもいい。
そういったカスタマーサクセス組織としてのミッションやビジョンがあれば、チームのエンゲージメントはさらに高まるはずだ。
6-2. 顧客分類
ここはカスタマーサクセスを推進していて、よくある落とし穴の一つだ。
マーケティングの領域では当たり前のようにセグメンテーション(顧客分類)というものが行われている。
それはもちろん、お客様と一言にいっても様々な属性、ニーズ、課題感のなどのお客様がいて、それぞれの分類のお客様に対して適切なアプローチを行ったり、優先順位を付けられるからに他ならない。
これはもちろん契約後の既存顧客にも当てはまることで、顧客の特性ごとに分類を行うべきである。
しかし、契約金額やプランのみで顧客を分類していたり、顧客を一口に顧客と扱ってしまうと、プロダクトの活用方法が顧客ごとにバラバラでカスタマーサクセスの支援が個別対応にならざるを得ないだったり、ヘルススコアの傾向が掴めないなどの問題が発生してしまう。
そのため、顧客の属性、導入目的、プロダクトの活用方法など、様々な軸で顧客の分類を行い、その分類ごとに支援内容や方法を変えていくのが良いだろう。そこに前述の顧客情報を組み合わせることで、優先順位や支援のタイミングなどの最適化も図ることができる。
6-3. 支援方針
上記にも繋がるのだが、何の目的で(Why)、どの顧客に対して(Who)、カスタマーサクセスとして何の支援をするか(What)、どういう方法を取るか(How)を、あらかじめ定めておくことで場当たり的・属人的な対応になるリスクを低減でき、組織としてのカスタマーサクセスの在り方を明確にできるだろう。
例えば、ハイタッチの支援は上顧客に難易度の高い作業をスムーズに進めるために行う「ロイヤルコンサル」なのか、あるいは活用が止まってしまった全顧客に救済措置として例外的に行う「エマージェンシーレスキュー」なのか、を決めるようなイメージである。
また、何をするか決めるのと同じく、何をしないかを決めておくのも重要だ。特に顧客側がカスタマーサクセスを無償のコンサルのような期待値で契約してくる場合などは、例えば「設定方法のレクチャーはできますが、弊社側での設定の代行はしません」のような期待値コントロールを事前に行っておくのは必須だろう。
上記のようなカスタマーサクセスが、いつ、どの顧客に、何の支援を、どのように行うかなどの顧客対応をまとめた戦術書を「プレイブック」と呼ぶ。
前述のサクセスジャーニーマップと同様に、このプレイブックを作っておくことも極めて重要だ。
6-4. 資源配分
最近のカスタマーサクセス業界ではリソース不足の問題が声高に叫ばれている。各社とも人材採用と業務効率化に力を入れている様子だが、やはりどうしてもすぐに解決できるわけではない。
そのため、限られたCSMのリソースをどう振り分けるか、何に注力するかを考えるのは組織単位でも個人単位でも重要な論点になっている。
組織単位であれば、前述の支援方針の部分で重要な顧客(Who)に支援を集中させたり、工数の大きいハイタッチ(How)を減らしてロータッチやテックタッチ(How)に一部を置き換えたり組み合わせることを検討したり、支援の個別対応(What)を制限するなどを決めていく必要がある。
また、個人単位であれば自らのKAI(行動量の数値目標)を変更して注力すべき行動を決めたり、ヘルススコアなどを見ながら戦略的に月ごとに支援しない顧客を決めるなどのリソースコントロールが重要になるだろう。
そして次に、戦略と同様に重要な組織づくりや人材育成の話に移りたいと思う。
7. 組織・人材開発
ここまで見てきたとおり、カスタマーサクセスの業務範囲は相当に広い。そのため人数が増えてきた場合は、役割や支援対象などの軸によって、組織を分ける必要が出てくる。
よくあるカスタマーサクセス組織の分け方は次のようなものがある。
大きく分けると社内向けの活動で切る場合と、社外向けの活動で切る場合だ。
例えば、左上の「業務支援・効率化」などは「CS Opsチーム」として切り出される場合が多い。右上の「企業規模・売上額 別」などは「大企業(エンタープライズ)チーム」「中小企業(SMB)チーム」・・・などで分かれたりする。どこまで細かく分けるかは会社の方針や組織の規模にもよるだろう。
逆に企業の規模が大きく、カスタマーサクセスの組織がまだ小さい場合などは、まず社内にカスタマーサクセスの認知や重要性を広めるための啓蒙活動から始めなくてはならない時もある。
特に経営層や管理職がカスタマーサクセスを重要視し、その組織や活動に投資をし、全社的にカスタマーサクセスに取り組むべしという文化を根付かせることは、極めて重要なステップなのだ。
また、カスタマーサクセスの採用は言うまでもなく、採用した後の育成に力を入れることも大切だ。カスタマーサクセスは会社によってその在り方が異なるため、会社ごとに人材要件が変わるのだが、適切な人材を採用することと同じくらい採った人材に必要なスキルを身につけてもらう支援をすることが求められる。
下図はカスタマーサクセス担当(CSM)のタイプ別のスキルマップだ。
例えば、顧客数が膨大で客単価が低く少数精鋭でテクニカルサポートに近い支援を行う場合は、IT知識や課題解決力などを持っていた方がいいかもしれない。あるいは、プロダクトを使うのは簡単で、かつ解約リスクも低い場合は営業色が強いカスタマーサクセスの形になるかもしれない。その場合は、とにかく活用を後押しするという意味で、プロマネ力(プロジェクトマネジメント)や提案力など求められる可能性もある。
【参考】カスタマーサクセスのタイプ別スキルマップ
そして理想を言えば、自社のカスタマーサクセスに必要な知識やスキルの種類とレベルの定義付けを行い、その内容に沿って各メンバーの現状の能力値を可視化できる仕組みが整っていると良さそうだ。
管理職視点で見れば各メンバーの現状のレベルを一覧化でき、担当者視点で見れば目指すべき能力水準や、今の自分に不足している能力やレベルが明確に分かる。組織として人材育成するという観点でも、個人として自己研鑽するという観点でも、成果を出すためにどう成長すればいいかが分かるのは重要だろう。
【参考】CSM診断(CS担当者の能力診断テスト)
【参考】上記を実施した成功事例(株式会社タイミー様)
ここからは、カスタマーサクセスがいかに他部署と連携して、全社で顧客の成功を目指す体制を整えていくべきかを解説していく。
8. 社内の他部署連携
前述のとおり、カスタマーサクセスとは自部署だけで実践すべきものではなく、他部署とも連携して全社的に顧客の成功の実現にコミットしていく体制を築かなくてはならない。
ただ、いきなりカスタマーサクセスの活動に力を貸してくれと言っても難しいだろう。他部署にはそれぞれの目標数値もある。そのため、彼/彼女らの「やりたいができないこと」をいかに実現し、結果としてその部署のKPIに貢献する形で、巡り巡ってカスタマーサクセスにもプラスに働くようにする必要がある。
例えば、営業部やマーケティング部であれば、分かりやすいのはカスタマーサクセスが主導して生み出した成功事例コンテンツの供給だろう。特にBtoBであれば事例はリード獲得や受注に効く。
そして、もしその成功事例の内容が、適正なプロダクトの活用方法で、典型的な成果の内容とよくある成果レベルであれば、それを営業やマーケ担当から受け取った顧客は、期待が変にズレたり上がりすぎることもなくなるはずだ。
あるいはカスタマーサポート部であれば、難易度の高い顧客対応の一部を巻き取ったり、お問い合わせ情報をもらい分析結果を返すなども良さそうだ。代わりにカスタマーサポート部に渡せる業務を切り出したり、分析結果から顧客対応に活かせるヒントが得られるかも知れない。
また、開発部に対しては「プロダクトフィードバック」と呼ばれる、顧客の声を届けることで新機能開発や機能改善をアシストするという貢献もできる。
顧客の課題解決や難所はプロダクトを改良することで解決する場合も多い。しかし顧客が具体的にプロダクトを何の業務でどのように使っているか、そこで何に困っているかなどは、開発部のエンジニア側ではあまり見聞きする機会が少ない。そこでカスタマーサクセスがエンジニア側の目となり耳となり、顧客の声を届けることで、結果として顧客のニーズや課題感に沿った改良が行われることを実現することを目指そう。
そして、カスタマーサクセスが連携すべき相手は社内だけとは限らない。
9. 社外のパートナー連携
最近ではパートナーサクセスと呼ばれる、社外のパートナー企業と連携して、カスタマーサクセス活動を進める動きも活発になってきている。
社外のパートナー担当者に、自社のカスタマーサクセスの実践方法を伝え、コンテンツや仕組みを共有し、自社に変わって顧客対応を依頼するといった形だ。もちろんパートナー企業にとっても事業成長に繋がるなどのメリットを提供しなければいけない。顧客を支援するより、顧客支援ができる人を育てる方が難易度は高いが、実現すれば絶大な効果を発揮することだろう。
自社のカスタマーサクセスの在り方に応じて、既存顧客への営業部分を委託するのか、カスタマサポートの業務を外注するのか、あるいは難易度の高い専門領域のコンサルティングの部分だけを切り出すのか、など設計の仕方は多岐に渡る。もちろん自社のカスタマーサクセスをそのままコピーして実践してもらうという方法も有り得るだろう。
10. 2023年のカスタマーサクセスの先駆的企業事例
以上のようなカスタマーサクセスの業務や取り組みについて、国内のカスタマーサクセスの先駆者である6社様にご登壇いただく「2023年カスタマーサクセス国内事例 総括発表会」を、SuccessHub様とCSカレッジで12/14に共同開催する。
IBM様、シスコ様、HubSpot様、Adobe様、セゾン情報システムズ様、SmartHR様から、2023年の1年間で実施したカスタマーサクセスの取り組みの総括をお伺いし、その中で生まれた成功事例や直面した課題などを紐解いていく。
カスタマーサクセスの業務の具体的なイメージや取り組みのヒントを得たい方は必見のイベントとなっている。
日時:2023/12/14(木) 19:00〜22:30
会場:ハイブリッド(Zoom / 目黒テクノビル)
参加費:無料
お申込み:下記のサイトにて受付中
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イベントに関するお問い合わせ(CSカレッジ)
記事・その他に関するお問い合わせ(レクシエス株式会社)
筆者情報(丸田 絃心)
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