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パリ・オペラ座の日々1993~1994:11月6日 東京バレエ団「M」


11月6日

今日は東京バレエ団の「M」を見た。先日のジェローム・ロビンスプログラムの最終日の客席に、東京バレエ団の団員の皆さんがちらほら来ていて、この公演にも期待が高まっていたのだが…。結果的にあまり良い舞台とは思えなかった。ベジャールなんだから良い悪いと簡単には語れないけど、どうにも楽しめなかった。M=ミシマ M=モーリス・ベジャール なんでしょうけど、鹿鳴館のシーンでは鹿鳴館のでっかい写真が、金閣寺のシーンでは金閣寺のデカい模型が…というのでは、ちょっと興ざめというか。

でも客席はやんやの大喝采で、フランス人にとっては響くところがあったのかもしない。日本人で三島由紀夫をよく知っているからこそ、ちょっと先入観が先行してしまったのかもしれない。

その後オペラ座近くの「ひぐま」でラーメンを食べたが、こちらもなんだか今一つだった。贅沢言っちゃいけないけど。京子食品、カフェなど行って過ごす。Bataの不良品の靴が返品できたのは良かった。

オペラ座プログラム 50F
ヒグマラーメン 76F
京子食品 53F
カフェ 32f
パン 4F
プリズニック 158F


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東京バレエ団発足30周年記念のパリ・オペラ座公演でした。

演目はモーリス・ベジャールが東京バレエ団のために手がけた新作「M」。この年の7月に上野の東京文化会館で世界初演があり、その後パリでという流れでした。


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土曜日のマチネですね。おそらく夜も公演があったのだと思います。この後10日まで5夜連続で公演が行われました。


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振りはベジャール、音楽は黛敏郎さんが担当。

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高岸直樹さん、小林十市さん、首藤康之さんなど


日記にもハッキリと気持ちが書いてありますけど、あまり楽しめなかった記憶があります。日本のバレエ団が持ってきた日本的なテーマの演目を、パリで日本人が観るというのは、あまりにもヒネリすぎのシチュエーションだったのかもしれません。その証拠に、僕の気持ちとは裏腹にフランス人で埋まった客席はブラボーの嵐で、みんな心からの賞賛を贈っていました。

ベジャールですから、良い・悪いの単純な反応を書くべきではないのですが、単に自分にとっては響かなかった…そんな感じです。それ以前からベジャールの作品には直球で良いと感じるものと、首を捻ってしまうような作品とがありました(ピラミッドとか…)。「第九」「ボレロ」「春の祭典」、こういった作品は、強力な音楽の魅力に導かれて作品にも素直に入っていけたのですが、この日の黛敏郎さんの音楽はなんとも微妙で(笑) 

インスピレーションの源は三島由紀夫の詩であることがパンフレットに明記されています。他にも「金閣寺」、「禁色」、「仮面の告白」などの代表作のイメージが随所に挿入されつつ、武士道、切腹、神道などの要素がわりとダイレクトに表現されていきます。そこに呼応するように帝政ローマ末期に迫害を受け全身に矢を受け殉教した聖セバスティアヌス(古くからゲイのアイコンとする見方もある)が登場して… 

良く言えば日本文化の神髄を三島の世界観を通じて舞台上に表現しているということになるんでしょうが、1990年代を生きる自分たちにとって、これはあまりにステレオタイプなイメージではないか、という疑問が残りました。フランス人のベジャールは三島が大好きで、その世界観をそのままバレエにと考えたのでしょうが、戦前の軍国主義、二次大戦の歴史を踏まえれば、三島由紀夫が掲げた理想を無批判に展開してしまう舞台構成は、あまり関心できるものではありませんでした。

まあ三島はそういう作家でしたし、生き様もまさにそのままだったわけで、それをベジャールが良しとするのであれば、それはそれで納得なのですが。なんとなくのモヤモヤが舞台を観ている間中ずっと頭の中に渦巻いていました。良くも悪くもフランス人がイメージする日本文化とは、こういうことなのかもしれません。終演後にお隣のボックスで観劇していた品の良いフランス人のマダムが、僕に向かって「あなたはミシマを知ってるか?私は大好きなのよ!」とご丁寧に声をかけてくれました。ベジャールの新作でしたし、このとき会場に来ていたフランス人のほとんどは満足していたと思います。

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写真はすべて公式パンフレットから。「M」で展開される舞台。

この公式パンフレットに書かれている解説文を事前にある程度読んだうえで観劇したら、少し印象が違っていたかもしれませんね。当時はネット不在の時代ですから、とにかく情報が少なかったんです。

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