レーザポインタの使い方

職業柄、他人のプレゼンテーションを見る機会が非常に多い。ベテラン研究者やベテラン講師から、まだ経験の少ない学生まで、プレゼンの内容も質も上手さも様々であるが、PowerPointに代表されるプレゼンテーションソフトウエアで作ったスライドを液晶プロジェクタを介してスクリーンに投影し、それを見せながら喋る形式のプレゼンが圧倒的に多くなって以来、とても気になっていることがある。スクリーン上を指し示すレーザポインタや指し棒の動かし方である。

プレゼン慣れした年長のベテラン研究者なら上手に使いこなしているかと言えば、そうでもない。話が上手で、話している内容が素晴らしくても、レーザポインタの動かし方が成っていないとがっかりする。そもそも、レーザポインタという道具が普通に使われるようになったのは比較的最近のことだから、ベテランといってもその使い方を習得したのはごく最近なのかもしれない。

しかし、PowerPointの登場以前は、OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)やリバーサルフィルムで撮影したスライドが使われていたし、さらにそれ以前は模造紙で作った巨大な掛け図が使われていた。その当時から指し棒という道具は存在し、これは黒板への手書きの板書を指すのにも用いられていたわけだから、レーザポインタを指し棒の進化形とみなせば、新しい道具というわけでもないのだが、とにかく指し棒を含めて使い方が成っていないプレゼンが多い。

具体的によく見かける「悪い使い方」は、レーザポインタの光をスクリーンに照射して、強調したい部分を中心にやたらに動かしたり回転させたりするやつである。レーザポインタの光は、直視すると眩しいので、強調するためにぐるぐる回しても、見る側は目を背けたくなるだけである。つまり逆効果である。これは指し棒の場合も同じであり、スクリーンや黒板を棒で指した上でぐるぐる回してみたところで、本当に見て欲しいところから目を背けさせる効果をもたらすだけだ。

おそらく、レーザポインタをぐるぐる回す人は、意図的にそうしているのではない。大勢の前で話すと緊張するタイプの人に多く見られるので、半ば無意識にぐるぐる回してしまうのだろう。スライドを操作するPCのマウスカーソルを同様にぐるぐると回している講演を見たことがあるが、やはり直視できない。

ぐるぐる回さずとも、次のようなのも正しいようで実は良くない使い方である。スクリーン上に投影されたキーワードを強調したいとする。レーザポインタの光をそのキーワードの「ほぼ中央」に当てて話をする。強調したいのだからキーワードを指していいような気もするが、そうではない。なぜなら、キーワードそれ自体にレーザポインタの光を当ててしまうと、肝心のキーワードが眩しくて見えないからである。

正しい使い方はこうである。レーザポインタは、必要以上に使わない。ずっとonにしたまま、スクリーン上を光が行ったり来たりするのは、見ている側にとって迷惑である。要所要所で短い時間(ほんの1秒程度)onにして強調すべき箇所を指す。人間の目は残像を捉えるので、1秒も光らせればじゅうぶんである。

指す位置も大切で、強調したいキーワードや図表の中央ではなく、ややずらしたところ、文字列ならば下、図表ならばタイトルの左付近をそっと指すのがよい。

こういう作法は誰も教えてくれないのだが、多くのプレゼンを観察していると上に書いたようなことに気付く。私の授業では、ときどき上に書いた「レーザポインタの使い方」を学生達に解説しているが、一度聞けばすぐに理解できる程度の簡単なことなので、皆すぐに実践してくれる。これを教えた学生のほうが、研究者歴何十年の教員よりも上手にレーザポインタを使う様子を見ると、爽快でもあり哀れでもある。

(2014年4月14日執筆;2016年2月2日修正)

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