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スポーツカーオーナー創生サイクル [TOYOTA 86]

エンジンをかけてみると、まぁハッキリ言ってフィーリングはスバルそのものだ。当たり前だが…

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一速に入れて発進し、エンジンを吹かしてやると、たちまち頬がゆるんでしまう。どすの効いたボクサーサウンドが唸りをあげて力強いトルクをもってして後輪が地面をける。なんと、なんと気持ちの良いことだろうか…

1”走り”

はっきりいってわたしのような素人が講評するまでもなく十二分に良い走りをしてくれる。FRクーペ。この時点でもはや今日においては、非の打ち所がないだろう。つづら折れの道を走ったわけだが、日本のヘボすぎる制限速度を遵守して週末に峠を流す程度ならこの足、このパワーで十分楽しい。寧ろ、ちょうど良い。レーシングカーのエンジンはリッター百馬力なんて言われていたことが信じられないほど当たり前のように、ターボだ過給だとも言わずに自然吸気の2リッターで200馬力ちょっととは、なんとも贅沢で良いエンジンだ。ボクサーエンジンを載っけているだけあって、”心臓”がスバルのアイコニックなものなもんで、ハッキリ言ってTOYOTAという感じがほとんどしないが、車の鼻がまるで自分の鼻を別の方向に向けるのとなんら遜色なく、同じように気持ちよく曲がってくれる。またエンジンの重心が低いことも相まって、それなりの速さで舵を切っても車が地べたに強く強くへばりつき、怖さが感じられないのは、メーカーがなんであれ、気持ちが良いものだ。曲がるという動作に関してはこの機械の右に出るものはいないのではないのかというほど気持ちがよろしい。

足もスポーツカーにしては硬すぎずしなやかに仕事をこなしてくれるもんで、万人受けを狙ったような足であるが、その目論見通りであり、サーキットなどでは分からないが、ほとんど公道しか走らないのであれば、交換しなくても本当に十分な足である。下手に安い中華製パーツを使うよりよっぽどよろしい。

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この車を運転していて気になったのはシフトフィールだ。これは好みの問題ではあるが、指摘させてもらいたい。ショートストーロークなのはいいのだが、シフトレバーを動かしている時の感覚、反力の感じがどうも気持ちが悪い。たとえるなら、胡麻豆腐をすりこぎ棒で切ってやってるような感じで、常に全く一定の反力がやってきていて、ゆっくり動かしていると、スコっとハマる感覚がなくて、ギヤが入っているか不安になる時がなんどもあった。常に操作するものが、このような妙な感覚であると非常に気になってしまう。


2”デザイン”

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86/BRZのデザインはハッキリ言って見事である。この車は二つのかけ離れた年齢層のどちらにも刺さるデザインにしなければならなかったわけだが、このデザイナーは見事にその難題をやってのけたと思う。一つ目の層は、子育てがひと段落し、時間とお金に少しだけ余裕ができてもう一度スポーツカーと戯れたいと考えている50代以降の層だ。この人たちに向けては、近所の知り合いに白い目で見られないように格好は良くありながら、ある程度上品で抑えめなデザインが必要であろう。次に考えられる層は、スポーツカーで遊びたいと思う20代の層だ。彼らは若者らしくバッチリキマっていて刺激的なデザインを欲しがるだろう。このほぼ真逆とも言えるニーズのどちらにもしっかりと説明のつき、かつ、そこそこササるデザインしてきたもんだから、よくやったもんだなと個人的には大変関心している。

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3”インテリア”

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インテリアは私個人がこの車に対して持つ不満の溜まり場、巣窟である。

まずガッカリしたのはペダルのオフセットだ。この車はハッキリ言って実用性は割り切って、運転という動作を目標にする手段、道具である。その運転に向けては命をかけてでも最強の環境を提供するという気概が欲しかったが、このペダルの置いてある位置をみるとそこが疎かになってはいないかと思う。アクセルペダルが前輪駆動の自動車を思わせるほど左に寄せられていて、これはいただけないなと強く思った。

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ゲージクラスターの中も微妙だ。レブカウンターがど真ん中においてあるのはいいが、スピードメーターとゼロの位置が違っていて指針があっちゃこっちゃに向いていて、個人的にはこのようなメーターは大嫌いだ。アナログメーターの良いところは指針の角度を一瞬見るだけでどのあたりであるかがすぐに分かることだが、こうもあっちにこっちにとなると基準となるゼロの位置が全く違うところに存在することになり、いちいち数字まで見てやることが多くなる。慣れれば問題はなくなるだろうが、実用面、見た目、どちらの視点から見ても良くないであろう。それから、スピードメーターの目盛りの入れ方もどうかと思う。日常で良く使う日本のしょぼい制限速度、40〜60km/h近辺がスピードメーターのほぼ底の部分に位置しているのだ。スピードメーターのたかが8cmぐらいどうでも良いことかもしれないが、速く動いている機械をコントロールしているときに視線の移動というのは、非常に気になるものだ。もっとも、スポーツカーを運転されているような立派な方々は、速さなんてのは体感で分からなければならないと、お叱りを頂戴するかもしれないが、私はまだそのような境地に達していないので、スピードメーターを見る必要がある。申し訳ない。

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トヨタというのは元々、織機で大きくなった会社であり、布に関することは多少なりとも他のメーカーよりは詳しく、シートなんかは上手に作れそうなイメージがあるが、何故か僕が今まで乗ってきたトヨタのシートで当たりはほとんどない。この車も例に漏れずそうだ。スポーツカーという割には体のホールド感がかなり緩い。もっとも、私自身の体がチンチクリンだからというのも大きいかもしれないが…それから、シートの素材そのものもイマイチだ。反発力がないのか、クッションとなる素材が薄っぺらいのか、座ってみると硬いなぁと…とにかく疲れを感じやすかった。とにかく私の体型には相性が良くないシートだった。今回試乗したのが廉価グレードだったということもあり、交換を前提にしているからかもしれない。

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それから、ナビゲーションを置く位置もどうにかならなかったものであろうか。2012年頃に新しい自動車として出てきたとは思えないような馬鹿みたいなレイアウトである。2012年ぐらいともなると、今とそんなに変わらず、ほとんど全ての車がナビゲーションを持っていた頃である。ところがこの車は分厚いエアコンのベントを上に持ってきてその下にナビゲーションをおいている。おまけにスポーツカーらしく傾斜が一切なく、垂直にそそり立つ壁にへばりついてるもんだから、近いこと近いこと。操作は確かにしやすいが、実際に運転していて、視線の移動がとても大きい上にかなり手前にピントを合わせてやらなければならないものだから、私のように目のピントを調整する筋肉が腐ったような、視力のを悪い人間には運転中に一瞬目を向けるにはかなりしんどい。こんなレイアウトを平気で8年前にやってしまうそのセンスが信じられない。


4”スポーツカーオーナー創生サイクル”

この車の、最も大きな役割と言ったらなんと言っても若い奴らにスポーツカーを持たしてやるということだろう。その為には価格を下げてやる必要があったわけだが見事に安くなっている。中古車で。

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この車は出た当初から良く売れていたとおもう。なんてったって、あのトヨタの有名すぎるアイコニックなスポーツカーAE86と同じ名を冠する自動車が出てきたのだ。広告をするまでもないだろう。週末になると各地の峠の駐車場によくよく現れてきた。が、よくよく見ると、ドライバーは革製の指の出てるドライビンググローブをはめたええ歳こいたオッサンだ。その名のもとになった当時のトレノやレビンに乗っていたような人たちが青春を取り戻すかのように生き生きとドライブしていた。しかし、最近になるとそのオッサン達が新車で買って手放してくれたおかげで今や安い個体だと、100万円を切る価格で中古車市場に出回るようになってきた。その甲斐あって、最近では86のドライバーの多くは若者たちだ。パーツもくさるほどある。モリゾウさんをはじめとした”悪い”大人達は若者達を見事にクルマという沼に引きずり込むことが出来、一つのスポーツカーオーナー創生サイクルを作り出すことに成功したのだ。

そういった意味だけでも、この車は大成功と言えるだろう。あっぱれトヨタ、スバル。

5”次期86”

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新しい86は巷の噂によると発表はそこそこ近いらしい。このご時世にFRクーペを出しっぱなしにせず、後継の新型まで出していただけるのは非常に喜ばしいし、ありがたい。しかしながら、次の代の86もスバルとの共同開発らしい。出してもらえるだけでありがたいとは言ったものの、そろそろトヨタには他メーカーとの馴れ合いで作ったスープラや86といったスポーツカーではなく、GRヤリスのように、このセグメントで他メーカーと競合する完全に自前のFRクーペを一つ出していただきたいなと思う。やはり技術の進歩は競争で生まれることが多く、ユーザーの選択肢も増えることで、企業もより一層商品に磨きをかけてくれるだろう。

スポーツカーというのはそのメーカーの思想が最もと言って良いほど色濃く出るものである。そろそろまっさらな現在のトヨタの”色”が見られることに期待したい。

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