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農業体験から考える地球にやさしい生活。野菜の地産地消でCO2を削減する「中嶋農園」 

京都市では、世界の平均気温の上昇を1.5℃までに抑えて、「将来の世代が夢を描ける豊かな京都」を実現するため、2050年までに二酸化炭素を出さない社会・経済活動への転換を目指しています。そのためには、市民の皆様一人ひとりの生活が、二酸化炭素を出さない、脱炭素なライフスタイルに変わっていくことがとても大事です。でも、脱炭素なライフスタイルって言われてもよくわからないし、めんどくさそう……と思われる方も多いのではないでしょうか。

連載「こんな取組が始まっています。あなたも参加しませんか?」では、参加することで日々の生活がちょっと脱炭素に近づいていくような、身近な取組をご紹介します。

今回ご紹介するのは、株式会社中嶋農園の中嶋直己(なかじま なおき)さん。小さな子どもから大人まで気軽に農業を体験できる「いもほり体験会」や、田んぼのオーナーになって自分が食べるお米を自分で作る「わたしの田んぼプロジェクト」(以下「田んぼプロジェクト」)などに取り組んでいます。

さまざまな取組を実施する中嶋さんですが、その背景にはどのようなビジョンがあるのか、今後の展望などをお伺いしました。

京都の食は京都の農地で支えたい

ーー中嶋農園では、どのような野菜を育て、どこで販売しているのでしょうか。

サニーレタス、キャベツ、レタス、さつまいも、黒枝豆、ニンニク、玉ねぎなどを育てています。

販売先は主に二つあります。一つは、全国規模の大手小売店への販売です。もう一つは、餃子屋や弁当屋などの飲食店に直接、野菜を配達しています。

気をつけていることは、お客様とのコミュニケーションからニーズを汲み取ることです。例えば、餃子屋はキャベツの提供から始まりましたが、「ニンニクと玉ねぎもほしい」という意向があったため、中嶋農園でニンニクと玉ねぎも作り、年間で提供できるよう準備しています。

ーー中嶋農園では野菜の販売以外にも、「いもほり体験会」や「田んぼプロジェクト」などを実施していますが、どのような取組なのでしょうか。

3年前に始めた「いもほり体験会」は、子どもたちや親御さんたちと一緒に、苗植えから収穫、食べるまでの一連の流れを参加型のイベントで行います。また、飲食店に野菜を届ける帰りに、飲食店で出た生ごみをもらい、堆肥化したものをさつまいもの畑に使用しています。昨年からは参加者の家で作った堆肥を畑に入れる活動も始めました。そのように、化学肥料や農薬ではなく、飲食店や一般家庭から出た生ごみを堆肥として活用する「循環型農業」でさつまいもを育てていることを参加者に伝えています。

いもほり体験会の様子

また、NPO法人木野環境と共同で運営している「田んぼプロジェクト」は、1畝(100㎡)から田んぼのオーナーになることができます。グループで1反(1,000㎡)オーナーになってもらうと、より「わたしの田んぼ」感が強くなると思います。お米は、無農薬、無化学肥料栽培で育てます。田植え、草取り、収穫などを私たちがサポートしますので、安心して米作りに参加していただけます。2022年も募集するので、ぜひご参加ください。

わたしの田んぼプロジェクトの様子

ーーどのような想いで、この取組を実施しているのでしょうか。

2050年までに「京都の食を、京都の農地で支える」、つまりは自給率を100%に近づけたいという気持ちがあります。

私は農業を始める前は洋服を作っていました。その時に、生地のサンプルを15時までにネットで注文すると、次の日に届けてくれてすごいなと。同じように農業でも、採れたての野菜が次の日に届く仕組みを作れないかなと思いました。

仕組みを考える中で、全国各地の遠い場所から野菜を運びたいかというと、しっくりこなかったんです。野菜を遠くまで運ぶとすごくコストがかかりますから。そこから、京都の食を、京都で採れた野菜で支えていくのがいいのでは、と考えるようになりました。

ーー京都の食を、京都の農地で支えることと、「いも掘り体験」と「田んぼプロジェクト」はどのような繋がりがあるのでしょうか。

「京都の食を、京都の農地で支える」ことを達成するためには、中嶋農園だけでは難しいです。自分で食べる野菜は自分で育てられるようになったり、次世代に農業を担う人たちを増やしたりしなくてはいけません。

そのため「田んぼプロジェクト」では、最初はサポートしつつ、参加者の方が慣れてきたら徐々に関わりを減らしていこうと思っています。

「いもほり体験会」では、次世代を担う子どもたちに「いもほり楽しかった!」という思い出が残ったらいいなと思っています。参加した大人たちからは、「持続可能な生活を考えるきっかけになった」と言われることもあります。そして、活動に共感した人が「どこで中嶋農園の野菜は買えますか?」と聞いてくださることも増えてきました。いもほりを通して、中嶋農園や地域で育てた野菜を購入するきっかけになったら嬉しいです。

中嶋氏

ーー自分の食べる野菜は自分で育てたり、地域で育てた野菜を買う「地産地消」は、間接的にCO2削減に繋がりますね。

そうです。外国産の野菜を購入すると、それだけ運搬時にCO2が排出されてしまいます。たとえば最近では、食料が生活者の手元に届くまでに、どのくらいの環境負荷がかかったかを「距離×農作物の重さ」で測る「フードマイレージ」があったりします。住んでいる地域で採れた野菜を購入することが、地球に優しい行為なんですよね。

とはいえ、残念ながら、たった1人が地域の野菜を買っても、劇的なCO2削減にはなりません。それでも、「田んぼプロジェクト」や「いもほり体験会」に取り組むのは、参加した人たちが農業を通じて「地球に良いことはなんだろう?」とライフスタイルを考え直すきっかけになってほしいからです。

エネルギーをつくり、移動販売に挑戦

ーー「京都の食を、京都の農地で支える」ために、今後どのようなことに取り組む予定でしょうか。

一つは、消費者に直接野菜を届ける「移動販売」に力を入れようと思っています。現在は、伏見区南部にある「向島ニュータウン」で、月に1回、朝市に出店していて、近隣の方から好評です。「いもほり体験会」などを通して、「中嶋農園の野菜を直接購入したい」という声に応えるためにも頻度を上げたいです。また、近くの朝市にも行けない高齢者や足の不自由な方がいます。そういった人たちのために、家のそばやマンションの下まで販売しに行こうと考えています。

もう一つは、農業で排出されてしまうCO2をゼロにしたいと思っています。まだ検討段階ですが、倉庫の屋根にソーラーパネルを設置したり、重機にバイオ燃料を使用するなど、色々なことに取り組みたいと考えています。

ーー地産地消の機会を増やすだけでなく、エネルギーもまかなう農業にしていくんですね。最後に、活動に対する想いをお聞かせください。

農家に生まれて、私で4代目です。現在、95歳になる祖父は、昔は祗園まで下肥(人糞尿)を回収しに行き、肥料として使っていたそうです。農業をするに至り、「私は畑を預かっただけで、私の畑だとは思ったことがない」という祖父の言葉がいつも心にあります。長い歴史を積み重ねている農地からしたら、私が関わる期間なんて「通過点」でしかないと思っています。その中で、これからの長い未来に向けて、いかによい形で農地を次世代に渡せるかが私の使命だと思っています。

レタスの栽培の様子

「いかによい形で農地を渡すか」を考えると、農地を渡す担い手を育てないといけない。また、野菜がすくすくと育つためにも、自然環境も考えないといけません。例えば、今年は地球温暖化の影響もあり、例年よりも寒波に。そのため、レタスの収穫がよくなかったです。より新鮮で、多くの野菜を育てるには、自然の変化にも目を向け、地球温暖化防止のために活動しなくてはなりません。

これから、移動販売やエネルギーを作ったりさまざまな活動を通して、次世代に良い農地を渡す準備をしていきたいです。

関連リンク

・中嶋農園ホームページ

​​https://nakajima-nougyou.com/

・わたしの田んぼプロジェクト

https://www.kino-eco.or.jp/mytanbo/

・畑活×食の循環~足下からサステナブルな食を考えよう~

https://www.youtube.com/watch?v=vl8yTCp7-8c


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