宝塚歌劇におけるスターシステムのメリット

宝塚歌劇には明確なスターシステムが存在する。

花・月・雪・星・宙の各組にはそれぞれ男役、娘役のトップスターが存在し、全ての演目はトップスターを中心に構成される。

トップスターはあらゆる場面で常にセンターを務め、公演ポスターも男役、娘役の両トップが掲載される。

トップスターは、まさに組の顔である。

公演の成功は、演目の良し悪しなどの要素もあり、すべてがトップスターの力量だけで決まるものではないが、明確なスターシステムを敷くことで、かなりの部分がトップスターに依存することになる。

だからこそ、誰よりも大きな責任と多くのスポットライトを浴びるのである。

一方で有望な若手生徒(宝塚歌劇では団員のことを生徒と呼ぶ)は、新人公演と呼ばれる若手主体の公演や、宝塚バウホールなどの小劇場公演での主演を務め、経験を積みながら、将来のトップスター候補生としてキャリアアップを目指す。

どんなトップスターもはじめは小さい劇場で場数を踏んでから羽ばたいていく。

そして男役の場合は、トップスター以下は、さながら相撲番付のように、2番手スター、3番手スターとだいたい5番手くらいまで、序列が決まっていることが多い。

この序列は生徒の人気・実力・将来性などを加味して決められる。

序列に応じて、配役の良さや出番の数、舞台での立ち位置など、その待遇はわかりやすくもあり、同時にシビアでもある。

序列があることは、当然そこに競争が生まれる。

そして序列を明確にすることは、競争に対して一定の答えを出すということでもある。

このスターシステムは当事者にとっては大変ハードな仕組みだが、悪いことばかりではない。

まず観客にとってのメリットは、わかりやすさである。

公演を見るのは宝塚ファンだけではなく、初めて劇場に足を踏み入れる観客もいる。

演者の前情報がない観客にとっては、誰が主演で、誰が準主演なのか明確になっていることで、演目が格段に理解しやすくなる。

例えば海外の映画でキャストを誰も知らない場合は、誰が主役なのかはっきりわかると物語への感情移入もしやすくなる。

明確な序列は、観客へのわかりやすさの提供である。

ファンにとってのスターシステムのメリットは、未来のトップスターがわかることである。

多くの場合トップスターへの道は、3番手スターから2番手スターへ、2番手スターからトップスターへと階段を1段ずつ上ることが多い。

すなわち未来のトップスターは、現在の2番手スターが務める可能性が高いと
ファンも心づもりができる。

トップスターは組の中心であり、公演の中心である。

誰がトップスターを務めるかはファンにとって大きな関心事なのである。

他方でトップスターを中心とした明確なスターシステムは存在するが、それだけが宝塚歌劇の全てではない。

会社組織が管理職だけで成り立っているわけではないように、公演もまたトップスターだけで成り立っているわけではない。

3番手以下のスターの魅力も公演の魅力を大きく左右し、脇役を演じるベテランやまだ後ろの方にいる若手の存在も重要だ。

舞台は演者全員で作り上げるチームプレーなのである。

チームプレーである舞台芸術に明確なスターシステムを敷いたことが、宝塚歌劇のシステムの強みなのである。


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