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これからの採用市場を考察してみる

GCP Xの小野です。日経平均は一時的に2万円台を回復しましたが、全体的な景気局面としては、ダウントレンドに突入したとみています。そんな折、これからの、スタートアップ業界を取り巻く情勢は、どう変わっていくのでしょうか。今回は、人材マーケットについて、考察をしていきます。

私は、08年のリーマンショック、11年の震災の時期を、エゴンゼンダーというエグゼクティブ人材特化のサーチファームで過ごしました。

やや特殊なクライアントと候補者をターゲットにした仕事でしたが、少し引いてメタ認知的に当時のことを思い返してみますと、今回にも当てはめられそうな、中途採用市場にまつわる事象が、いくつか思い出されます。

ポイントを一言で言いますと、中途人材市場にまつわる、様々なプレイヤーの行動パターンは「不安」をトリガーに、大きく変化していくでしょう。


1.エージェント・サイドの変化

採用エージェント業界では、またも大きな逆風が吹きます。
この仕事の本質に向き合っている人しか、残らないでしょう。

よく、採用関連事業は、上がるときも下がるときも、景気の先行指標と言われます。そういう事業的宿命を持っていますので、過去のダウンの時も、経験を積まれている方々にとっては、「いやはや、また来ちゃいましたね」てなもんでした。

一方で、好景気に、とにかく何も考えずマッチングを繰り返してきたような、トランザクション志向が強かった方々や、この仕事に思い入れのなかった人たちは、サーっと居なくなっていきました。

とにかく、ダウントレンド下では、いろんな方面から「お断り」されることが増えていくのですが、そんな中、粘り強くクライアントと候補者のニーズに寄り添う人たちは、しっかりと残っていかれ、その後回復期を迎えてからは、盤石のポジションを築いていました。

例えすぐにお金にならなくても、いつこれは自分に返ってくるのかと「不安」にかられたとしても、誰かのお役に立ちたいと願い、毎日の「徳」という石を積み上げていく。

そんな、人生修養のような日々を送ることを楽しんでおられるエージェントさんと、もし出会うことがあったら、企業側も候補者側も、じっくりお付き合いしてゆくと、大きなリターンがやがて得られるのではないでしょうか。


2.候補者サイドの変化

人材側の変化としては、ジュニア層は、ドリーマーとリアリストの両端へ二分してゆきます。

シニア層は、不可解な動きをする候補者が増えてゆくので、注意が必要でしょう。

今回の危機は、エモーション面での一般社会へのインパクトという意味では、リーマンよりも11年の震災に近いものがあると考えています。

振り返りますと、震災を多感な時期に経験した当時の若者たちの中では、社会貢献や大義を掲げた、大小の企業や、より生活に密着した農業や生活関連産業のもとへと、馳せ参じるようなムーブメントがありました。

そんな彼ら彼女達は、きっと「不安」を覚えたドリーマー体質の若者だったのではないでしょうか。

しかしこの世の中は、リアリスト体質の人間の方が多数でしょう。そういったリアリスト体質の若者が「不安」を覚えるときに、どんな就職先を選んだかの結果は、近年の人気就職先ランキングでの、公務員志向、大企業志向にみてとれます。

私は、これからジュニアの中途市場においては、ドリーマー体質の有望な人材達の動向に注目していきたいと考えていまして、彼ら彼女達が、より極端で、過激な選択をしてゆくことを願っています。そういうエネルギーが、社会をよりよく変えてゆくことは間違いないので。

社会的意義を持ったスタートアップ企業においては、本当に優秀で情熱にあふれた若者たちを見つける、大チャンス到来となるのではないでしょうか。


さて、問題は、シニア層です。30代半ば以上、一定の経験値を積んで、マネジメントもこなしてきたような。転がり始めたボールに、しっかりと慣性が加わったな。というくらいの社会人のイメージです。

この層に強い「不安」が加わった時、中途市場で、どんなビヘイビアを引き起こすかは、いくつかのパターンを見い出すことができます。

今回は、人が「不安やプレッシャー」を覚えたときに立ち上がってくる、「隠されたアイデンティティ」を、心理学的な見地から三つのタイプに分けたものをベースに、説明を試みます(参考)。

A. 不安を覚えると、コンサバ、帰属、受け身体質になる人たち:現職OK(業績悪くない、待遇も強い不満ない)であれば、転職市場に出てきません。現職NG(業績下り坂で将来性ない、待遇悪い)であっても、基本、残りますよね。こういう大変な時に、会社を支えることが大切だよね(というスタンスを示すことで現職の仲間から喜んでもらおう)と考えたり。

しかし、たまに、パニック状態になり、不可解なほど急いで次を探そうとする人も出てきますが、早く着地をしないとまずいと焦ってしまい、あまり良い転職をしないことが多いので、個人としても企業としても、注意が必要です。

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B. 不安を覚えると、批評家、客観的、傲慢体質になる人たち:現職の事業傾向、待遇OKであれば、やはり転職市場に、あまり出てきません。

ただし、現職OKであっても、この体質があって、承認欲求が強い人は注意が必要です。不安にかられたこのタイプの人は時に、スカウトに乗って、転職の応募を何社かすることがあります。たとえ本音では、転職する気はないとしても。

ところが、この傾向の方々は、オファーが出ると、自分はまだ市場価値があるんだと安心し、なんだかんだ理由をつけて辞退をすることが多いのです。

面倒なことに、悪意を持ってそうする人は多くなくて、本人も無自覚に、そういうビヘイビアをとることが多いので、やっかいです。こういった候補者に、使った時間とリソースをかけてきたエージェントと企業は、激しく消耗しがちですので、注意が必要ですね。

この批評・客観体質の人が現職NG状態の場合は、割と淡々と、自分に合う先を探して、現実的な解を得ることが多いです。ただ、オファーを出してから、本人が意思決定をするまでの検討時間が、不可解なほど長くなる傾向が出てきます。

特に、優秀な人へはオファーが複数出ることが多いのですが、このタイプの人たちは比較検討に熱心です。企業側もそれに付き合わされるため、どうしても獲得したい場合は、採用オファーを出すと決めた後も、二重三重の打ち手をぶち込む必要が出てきます。

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C. 不安を覚えると、野心的、独断的、過剰意欲体質になる人たち:このタイプの人たちは、たとえ現職OKの場合も、不安にかられてというよりも、こういう時こそ、チャンス。逆張りだ!と盛り上がって、アクティブにイケている転職先を探しはじめます。現職がNGな状況であればなおさら。

ここで、優秀な人の場合は、自信と思い込み先行型の、衝動的なゴールインが増えてきます。こういうタイプの場合、応募からオファー受諾まで、不可解なほど早く着地することが増えてきます。

特にスタートアップ経営者は、オーナーの想いを熱く語ることが多いと思うのですが、それが少し当人への過剰な期待という形で伝わってしまうケースもありますよね。そうした場合、双方ともに、入社後のハネムーン期と、その後で、大きなギャップを生んで、苦しむのも、よく見られる光景です。

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おわりに

このように、これからは「不安」という感情が、人材マーケット活動の様々な領域に影響を及ぼしてくることでしょう。

ワクチンが早期に普及する。思ったよりもウイルス耐性を獲得できる。などなど、ポジティブニュースが重なり、また元通りの世界に、早期に戻るシナリオも否定はできませんが、ポジティブであり過ぎることによる蹉跌にも、我々は留意しないといけません。

そもそも、社会というものはフラジャイルなわけですし。これから、さらなる経済的難題が襲い掛かってくるであろうことを、ビジネスリーダーは認識し、それでも、様々なプレーヤーの心理的背景の洞察を持ちながら、踏むべきアクセルは踏み、獲得すべきポジションで、素晴らしい人材を得ることに、努力してゆくべきなのではないでしょうか。

次回は、企業サイドがとるべきアクション、心構えについて書いていこうと思います。

GCP X 小野


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