_取材_吉玉さん_山小屋ガール-01

未来への選択は直感。山小屋スタッフからライターに。偶然を活かした,しなやかな生き方

GCストーリーでは「正解はない」という価値観を大事にしています。
情報過多の現代では、刺激が多く「20代のうちにあれもやらなくちゃ」「○○歳までにこれをやらなくちゃ」と無意識の内に急かされてしまいます。当然ながら人生や生き方に正解は存在せず、人それぞれではないでしょうか。

今回のインタビューは山小屋で偶然働く事になり、その後ライターへ転身された吉玉サキさんにお話を伺いました。偶然を味方にするしなやかな生き方のヒントになれば嬉しいです。

まずは3か月。短期の山小屋バイトが人生を変えるきっかけに

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ー社会人の初めはどんなスタートだったんですか?
都内にある広告代理店が初めての就職先でした。飛び込み営業をやっていましたが、そこはすぐ辞めちゃいましたね。 この時は、めちゃくちゃつらかったのをよく覚えています。あそこは、ホントしんどかったです。。

ーお話聞く限り飛び込み営業は大変そうです。。
その後は北海道の実家に帰ってホテルのレストランでバイトをしていました。ただ、そこも長くは続かず結果的にすぐ辞めてしまって。

そのタイミングで私の幼馴染が、山小屋で働いていて地元に帰って来たんです。幼馴染から、山小屋を勧められて翌年から私も行くことになりました
今、思えばそこがターニングポイントになりました。

山小屋で働かれていた当時の内容は「山小屋ガールの癒されない日々」に書かれています

ーちなみに、それまでに登山のご経験はあったんですか?
それが、全然経験なかったんです(笑)

ー結構思い切った経験ですよね(笑)
最初は3ヵ月の短期契約で入ったので、3ヶ月ぐらいだったら耐えられるかなと思い軽い気持ちで参加しました。

ちょうど働かないとな、とも思っていたタイミングでしたし。
「期間」で終わりが見えていたので勇気を出して参加出来たのは大きいと思います。

どこか申し訳ないと感じてしまう。「役に立っている」感覚が薄かった最初の3年間

ー吉玉さんのnoteを拝見して印象的だったのは、山小屋を自分の居場所だと思えるまで3年かかったとおっしゃっていた部分です

私の思考の癖なんですけど、自分がその場所に価値を提供出来ないと「いていいと思えない」んですよね。 もちろんお給料分の仕事をしていたつもりですが、当時は少し自分に大きく期待し過ぎていました。

職場にあまり貢献できていなかった、というか役に立っている感じがしませんでした。
常に「私がいていいのかな」ってぼんやりとした不安がありました。

後になって分かったんですけど周囲は、そんなに求めてはいませんでした。
山小屋も十分、会社組織なんですけれども1年目や2年目の子は言われたことをやってくれるだけで全然大丈夫なんですよね。

そこまで自己否定しなくても良かったなって、振り返ってみて思います。

ー昔の自分に、今ならなんて声をかけますか?
私が後輩を指導する立場になり、そのように考えてしまう子にはふざけて「本当に役に立ってなかったらそう言うから大丈夫」って言ってました(笑)

真面目に仕事してる女の子に多いんですよ。
逆に全然仕事出来ないのに、自信満々の子もいるのが不思議ですよね。

ー居場所と感じられるって本当に主観ですしね。吉玉さんの場合はどうやってその感覚を抜け出したんですか?
山小屋で働くようになり4年目から分かりやすく役に立てることがあって、その感覚が抜けていきました。
私だけが把握してる在庫だったり、仕事を任せてもらう経験を積んだり本当にちょっとしたことなんですけど、ここにいていいんだ、と思えるようになっていったんです。

ー 「信頼されている感覚」が大きいのかもしれませんね
山小屋での仕事は、求められたことをやる仕事だから自分がどれだけ出来ているか、分かりにくいんですよね。

自分の職場に対する貢献度が分かりにくい、というか。仕事は料理や掃除だったりするので数値で見えにくいですし。
4年目ぐらいから、支配人に任される仕事が増えて、仕事をしている感覚が得られるようになりました。

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ー山小屋で10年働いてみての一番の気づきは何ですか?
同じ場所で長く働くと、見えてくる景色が違ってくる
事ですかね。
私は10年山小屋で働きましたが、新人の頃はモノの見え方が局所的でした。

例えば、雨が続いて客足が伸びないなと思っても過去のデータを考慮すると、こういう年は後半晴れが続いてお客さんが来て結局トントンになったりします。
焦らなくても大丈夫だと思えるようになる感じですかね。

知ってることが増えるとそれが自信になって仕事のやりがいにつながっても来ます
1年目のあのしんどさは、分かってないしんどさもあるかもしれないですね。俯瞰的になれば、自分の仕事の意味も分かったりしますし。

ー10年仕事をされていた山小屋を辞めたきっかけはなんでしたか?
自分の中で次にやりたい事が見えていたのと、山小屋での仕事をやり切ったからかもしれません。

私は2017年に辞めていますが、辞めようと思ったきっかけは2013年に行った旅行でした。この旅行についての文章を書くようになって、書く仕事がしたいなと思ったんですよね。

その文章が、たまたま小さい出版社から出版出来ました。
ただ、その時期は山小屋の売上が良いシーズンではなかったんです。
その前年から管理者を任されていた事もあり、やり切ってから辞めたいな、と。

その翌年の2017年が過去最高の売上になり、いい仕事が出来た感覚があったので、辞める事を決めました。

選択は直感で。未来を決める軸

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ー最初は3か月と思っていたつもりが、10年働くって不思議な縁ですよね
私としては、3ヶ月の短期バイトだし大きな決断をした意識は全くなかったんです。
ただ、結果的に私にとって人生の大きな意味を持つことになりました。

ー選ぶ際は何を軸として選択されていますか?
それが直感なんです
よね(笑)
もっと言うと「決まっちゃってる感覚」が近いかもしれません。

ー決まっちゃってる、ですか?
もう、ここしかない、みたいな(笑)
進路選択で専門学校を選んだ時もパンフレットを見た時点で「ここに行きたいじゃなくて、ここに自分は行くんだな、とその瞬間に思い込んだ」ことがありました。

そうすると、他の情報が入ってこなくなっちゃうんですよね。

ー直感での選択で後悔はしたことありませんか?
選択に後悔はない
ですね。
「あの時できなかったこと」は戻ってもできないと思うんですよね。

山小屋の後輩に店番を任せていたら人生でやりたいことリストを黄色い付箋に書き出していたんです。仕事中なのに(笑)
「選択」と訊くとその黄色の付箋を思い出すんです。

その後輩は他にも、「選択」の際にメリットデメリットを書いていました。
条件を頭で考えるタイプなんだな、と。自分の人生をメリットデメリットで取捨選択するという選択肢が私にはそもそもない発想なんですよね。

ー今は未来を逆算で考えている人も多く、条件やメリットで羅列して選択する人も多いのかもしれませんね。かつ「ゴールを設定して逆算で考えなければ」といった考えに苦しんでいる人もいらっしゃる印象です。
未来って分からない部分が多いですよね。
逆算の考え方が悪い事とは思わないけれども、 正しく逆算できる人だけではないと思います。少なくとも私はその考えはあんまり向いてないかも。
逆算で考える事が苦しければ、そもそもその考えは向いていないのかもしれませんね。
自分が苦しむ事を選択する意味はあるのか、と思ってしまいます。

ー吉玉さんのご経験を伺っていると、未来をしなやかに受け入れている気がします。
人間、自分の信じたいものを信じてますよね。
「未来に向けてキャリアアップしていかなくちゃいけない」その概念を信じる根拠は何なんでしょうね。

結局「何を信じる、信じない」は自分で決めていくしかないのかもしれません。

【プロフィール】
吉玉サキ
ライター・エッセイスト。札幌市出身。得意なテーマは多様な生き方、働き方、人間関係。著書に「山小屋ガールの癒されない日々」。

取材・文・編集/佐藤政也  撮影/熊谷怜史 デザイン/髙橋啓花

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