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NorthStarMetricを作った話

こんにちは。SNS領域プロダクトのプロダクトマネージャーをしている別所 (@gb_pdm)です。

この記事はプロダクトマネージャー AdventCalendar 2022の19日目のエントリーになります。

そもそもNorthStarMetricとは?

NorthStarMetric(NSM)とは、プロダクトを成長させる上で最も重要なただ1つの指標のことです。

売上、受注数といった事業価値のみにフォーカスした指標ではなく、その値が向上することで「ビジョン」「顧客価値」「事業価値」の全てに影響を与える指標を設定すべきです。

NSMは通常、KGIとKPIの間に設定される指標になります。

有名なテック企業も各社このNorthStarMetricを設定しており、プロダクトの成功にかかせない考え方になっています。

■NorthStarMetricの例
Facebook・・・加入後10日以内に7人の友達を追加したユーザーの数
Twitter・・・登録後30人の他のユーザーをフォローしたユーザーの数
Dropbox・・・1つのファイルをアップロードしたユーザーの数
Slack・・・2000個のメッセージをやりとりしたチャンネルの数

なぜNorthStarMetricを作ろうと思ったか

NorthStarMetricが必要だと感じていたのは主に下記理由からです。

①合意形成の基準がない
②アウトカムの評価ができない

①合意形成の基準がない
各ステークホルダーに対してなぜそのロードマップなのか?を説明していましたが、ステークホルダーの立場によって優先度も異なる中で明確な基準がなかったため議論が長引くことが多かったです。

②アウトカムの評価ができない
新規機能をリリースした際にすぐに売上に影響を与えられるようなことはほとんどありません。売上は最終的なKGIであることが多いため、先行指標となるKPIまでブレイクダウンしそのKPIへの影響を確認する必要があります。
NorthStarMetricとそれに紐つくKPIがなかったため、リリースした機能がプロダクトにどういった影響を与えているのかアウトカムの計測、評価ができていませんでした。

NorthStarMetric策定プロセス

NSMの策定は以下のプロセスで進めていきました。

プロセス①:現状把握

現状把握では3C分析(自社分析、競合分析、顧客分析)を通して情報整理を行いました。

カスタマージャーニーマッップ、バリュープロポジションキャンバスについては事前に実施したインタビュー結果をもとに整理を行いました。

ここでは顧客セグメントを3つに分けそれぞれで情報整理を行いました。顧客セグメントは事業規模や業界などで分けるのではなくどんなジョブを達成したい人たちなのか?という視点で分類しました。

プロセス②:プロダクトのWhy/Whatの言語化

このプロセスでは整理したデータをもとに著書『プロダクトマネジメントのすべて』に出てくるプロダクト の4階層にならってWhy/Whatの言語化を行いました。

現状把握で見えてきた課題や顧客を端的に表現する言葉を用いて「誰」を「どんな状態」にしたいのかという構成の1センテンス を15パターンほど出しました。

そこから「エンドクライアント」「代理店」「エンドユーザー」の共通の価値がないかという視点で収束を行なっていきました。

最終的には以下のようなフォーマットで言語化しました。
(Rettyさんのフォーマットを参考にさせていただきました)

Core/Howの言語化を行わなかった理由についてですが、

Coreについてはより会社のミッションと密接に関わってくるもので、現状の会社の規模でここを擦り合わせに行くことに一定のハードルの高さがあったことと、Why以下がしっかり整理できていればNSMの策定は可能だと判断したため後回しにしました。

Howについても開発チーム、ステークホルダーと対話しながら作っていくことが重要だと考えていたのでこの時点で作成する必要はないと考えていました。

プロセス③:NSM / KPIツリーの構築

ようやくここから本題に入っていきます。

[STEP1]プロダクトの型を分類する

まずは担当プロダクトがどの型に分類されるかを考えました。
ユーザー行動分析プロダクトを提供しているAmplitdueの調査によると、顧客12,000社以上の全てのプロダクトが以下3つのいずれかの型に分類されたそうです。

- Attention型
  - より多くの時間を費やしてもらうプロダクト
  - 重要指標は時間
  - プロダクト例: Facebook,NETFLIX
- Transaction型
  - コンバージョンをより多く実行してもらうプロダクト
  - 重要指標はトランザクション数
  - プロダクト例:airbnb,amazon
- Productivity型
  - より多くのタスクを効率的/効果的に実現してもらうプロダクト
- 重要指標はタスク数
- プロダクト例: salesforce,Microsoft

[STEP2]WhyとWhatを定性指標で表現する
次にWhyとWhatの状態を計測しようとした場合にどういった指標が重要になるかを定性指標で考えました。これをNSMとそこに紐つくKSF(Key Success Factor)と位置付けました。

いきなり定量指標に落とし込むと重要なコンテキストが抜け落ちる可能性があるのでまずは定性状態で整理を行いました。

例えばカレンダーアプリなどで、「予定忘れが発生しない価値」を提供したい場合に、いきなり「平均ログイン日数」という定量指標を持ってくるのではなく「毎日予定を確認してくれる状態」という定性指標を挟むことでそのプロダクトが目指したい状態がよりクリアになります。

[STEP3]Input Metricを洗い出す
次にKPI/NSMになりうる定量指標を4つの観点で洗い出しました。

  • Breadth(幅):グロースの土台となる量指標

  • Depth(深さ):ユーザーのエンゲージメント率を測る指標

  • Frequency(頻度):ユーザーがどれくらい頻繁に価値を享受するための行動をしているかを測る指標

  • Efficiency(効率):効率よくユーザーに価値を感じてもらえているかを測る指標

■ECサイトにおけるInput Metricの例
・Breadth(幅)
総売上金額 , 会員数
・Depth(深さ)
購買ユーザー率(購入ユーザー数 / 訪問ユーザー数)
・Frequency(頻度)
訪問頻度 , 購入頻度
・Efficiency(効率)
訪問から購買までの時間

[STEP4]定量指標でのKPIツリーの構造化
最後にSTEP2で定義した定性状態のNSM/KSFをSTEP3で洗い出したInputMetric(定量指標)に変換した上で構造化していき作成しました。

KPIツリーを作成する際のポイントとして以下を意識しました。

  • 数式上の因数分解ではなく重要な価値や体験がまとまっていること

  • 自分たちでコントロール可能な指標であること

  • リリースや作る量が目的にならないこと

  • 極力シンプルにすること

KPI設定について是非こちらの記事も見てみて下さい。

ここで公開できないのが残念ですが以上のプロセスを経てNSM/KPIツリーが完成しました。

策定過程で意識したこと

こまめに伝える
NSMを作る目的の1つである「合意形成の基準を作る」を達成するには、ステークホルーダーがNSMに納得感を持っていることが重要なため、中間生成物をこまめに共有し細かくフィードバックをもらうようにしました。

思考のプロセスを残す
後から見返した際になぜそういう結果になったのか?を見返せるように思考のプロセスをなるべく残すようにしました。

中間生成物のバージョン管理や収束する際の基準や理由やドキュメントに残しました。また言葉の言い換えによってニュアンスが変わることもあるため、言い換えが発生した場合は言い換えの理由も残すようにしました。

NorthStarMetricを作ってみて

よかったこと

  • 開発優先度が判断しやすくなった

  • Biz / マネージャーとのコミュニケーションコストが減った

  • アウトカムでプロダクトを評価する土台ができた

同じNSM/KPIを見ながら議論をすることができるようになったことで優先度をつける際や議論の際の論点が明快になりました。

また新規機能も先行指標にまで分解したKPIに紐つくものを企画するようになったため、リリース後のアウトカムが計測しやすい状態になりました。

大変だったこと

  • よりどころになるものがないと収束できない

今回のプロセスは全て仮説の積み上げになります。正しい根拠がない状態で指標を決めていく中で「これで本当にあっているのか?」という不安に何度も襲われました。

この不安と闘っていくには小さな事実を積み上げていくしかなく、定性、定量でのデータ収集、分析がとても重要になります。

ただそれでも確証が持てる状態にはならないため、その上で自分が納得できるロジックを組み立てるまで考え抜くことが大切でそこが大変だった部分でもあります。

さいごに

いかがだったでしょうか。
今回、公開できる情報が少なく申し訳ありませんでした。。

NorthStarMetricは作って終わりではなくむしろそれをしっかり運用していくことが一番重要であり難しい部分だと感じています。

例えばNorthStarMetricの向上がどれだけKGIに寄与しているかについてはまだ仮説段階なので定量分析を通して証明する取り組みも必要だと思います。

また、今回作成したNSMは指標の特定までしかできておらずFacebookやTwitterなどで設定されている細かな条件までは定義できていません。

ここについても因果関係、相関関係を発見しポイントを絞っていく必要があると感じています。

というわけで今回は以上となります。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

参考

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