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銭湯と僕①

※この物語は半分フィクションで半分ノンフィクションみたいな話です。
小説とエッセイの間くらいと思ってもらえると嬉しいです。


特に思い返してみても、切っ掛けなんてものはなかった。
はっきりと、僕の記憶に残っているのは子どもの頃のこと。

「今日、給湯器が壊れちゃってお湯が出ないんだよ」
母親が困惑した顔で僕に言った。
「ええーじゃあお風呂入れないの?」
中学生の僕は、毎日部活をやっていたから汗だくで家に帰ってくる。
だから、お風呂に入れないというのは死活問題だった。
「近くに銭湯があるから、夜は銭湯に行くことになるよ」
母親は僕にそう言って、登校の時間になった。

部活を終えて、家に帰って、ご飯を食べると父親から声をかけられた。
「よし、風呂入りに行くか!」
僕は思わずきょとんとした顔をしてしまった。
「どうした。朝、お母さんから聞いたと思うけど今日は給湯器が壊れてお湯が出なくなって銭湯に行くんだよ」
「あ、そうだった!」
学校に行って授業を受けたり、部活をしていたりしたらすっかり忘れていた。僕自身は銭湯にちゃんと行った記憶が中学生の時にはなかったから今も含めて記憶にある最初の銭湯だった。

「必要なものは用意してあるから、着替えだけ持ってきな」
父親にそういわれて、着替えを持って家を出る。
もちろん、母親も一緒だ。それから妹も。
家族全員で夜に地元を歩くのは何となく不思議な気分だった。
家から歩いて10分程度のところにあったのはビル型の銭湯。
もう今は廃業してしまっていて、無いけれども当時は地元の人たちでにぎわっていた。

「下駄箱に靴を入れてな。じゃあ1時間後くらいにまたここでな」
父親がそう言って、母親と妹と別れて男湯の暖簾をくぐる。
正直脱衣所がどういう造りだったかはほとんど記憶がない。
浴室には強めの電気風呂と半露天風呂があったことは覚えている。
父親はそそくさと自分だけさっさと動いて行ってしまったので、あとから必死についていく。カランからお湯の出し方も分からなくてくるくるずっと回してしまった。

「それはな、押すんだよ。赤い方がお湯で青い方が水だよ」
父親にそういわれて押してみるとお湯が出てきた。
それで身体を洗って、湯船に入ってみる。
温度がどうだったかは、覚えていない。
でも、凄く気持ち良かった記憶がある。
半露天も凄く気持ち良かった。
家のお風呂も好きだったが、それ以上に銭湯って気持ち良いんだなって初めて思ったのがこの時だった。それは僕の記憶にはっきりと刻まれている。

お風呂上りに待合室で父親が言った。
「何か飲むか。」
既に父親はコーヒー牛乳を持っていた。
なぜかは知らないが、父親はコーヒー牛乳が昔から好きだった見たいで家でもよくコーヒー牛乳を買ってきて飲んでいた。
僕は色々と迷った結果、いちご牛乳を買ってもらった。
「腰にな、手を当ててグイって飲むと上手いぞ」
「腰に手を当てるの?」
「そうだ。腰に手を当ててグイって飲むんだよ」
「やってみる!」
父親と同じ格好をして、一気にいちご牛乳を飲む。
身体の中に甘い味と冷たいものが流れていくのをはっきりと感じる。
さっきまで暖かいお湯に包まれていたからか、冷たい一いちご牛乳が凄く美味しい。

「あー!凄く美味しい!!」
「だろう。やっぱりお風呂上りはこうじゃないとな」
父親も満面の笑顔だった。その後、出てきた母親と妹にも父親は飲み物を買っていた。二人もやっぱり腰に手を当てて飲んでいた。
不思議な光景だったと思うけど、銭湯だと当たり前の後光景なのかもしれない。

この日以降、給湯器が修理されるまで3日程度銭湯に行った。
そのたびに、コーヒー牛乳や牛乳、フルーツ牛乳を飲んだ。
やっぱりどれも美味しかった。
これが、僕の記憶にある一番古い銭湯に行った記憶。
これ以降、銭湯からは僕は少し離れてしまう。
高校生の時は部活と勉強ばっかりしていたので、ほとんど接点ができなかった。またお小遣いも限られているので、そもそも銭湯に行くという発想もなかった。

そんな僕がまた、銭湯に出会うのは大学生の時。
それはまた次回に書こうと思う。
これは、僕が日常を過ごし銭湯でのなんてことないことを記録していく物語。ゆるいものだけれども、感じたものはそのまま素直に書いてきたい。



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