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また来週、この時間に #8

<これまでのあらすじ>

環かえでは人と話すことで何かが変わると信じて人と話し続けた。人と話すのが苦手だったかえでが少し慣れ始めた頃に思いつく人とは話し尽くした。しかし、話して変化があったのは苗羽小豆だけだったので何とか小豆と話そうと思った。しかしどれもうまくいかなかった。

その時気づいたのは複数のきっかけで変化しているのではということだった。唯一小豆に声をかけられた週をできるだけ忠実に再現しようと思った……

ーーーーーー

ビンゴだった。きっかけは複数あるというかえでの推理は見事的中したのか火曜の朝、教室で新聞を広げていると小豆に声をかけられた。

「へい、かえでちゃん。何読んでるの」

「新聞だよ」

「勉強するような子じゃないでしょうに」

「まぁ、たまにはね」

数週間に及ぶ「思いつく限りの人と話す週間」を乗り越えたときは無駄足を踏んだと心が折れそうになったが、あのおかげで今は小豆と緊張せずに話せている。

「そう?それに昨日も珍しく授業ちゃんと受けてたでしょ」

「あ、うん」

「なんで?」

「なんで、ていうか……やっぱりなんとなく、かな」

「そっか……あ、本鈴。じゃ、勉強頑張ってね」

そういって小豆は立ち去った。これで何かが変わる、とかえでは確信していた。



変わるはずだった。しかし、何も起こらなかった。先週聞き逃したラジオはまた同じ話をしていた。そろそろオープニングトークくらいなら空で言える気がするところまで来た。とは言え、小豆に話しかけてもらえる条件は判明した。



『月曜日にトイレに抜けず授業を受けて火曜日の朝新聞を読む』


これが条件だとかえでは結論付けた。新聞はやはり必要な行動だったのだ。

「でも、苗羽さんに話しかけてもらうことが正しい行動なのかな?」

話しかけてもらったうえで何かする必要があるのか、それともそもそもこの行動が間違っているのか。

かえではこの行動が間違っていると結論付けたくはなかった。

今までの行動がおじゃんになる苦痛には耐えられなかった。だからこそとりあえず、来週も同じようにして小豆に声をかけてきた理由を聞こうと決めた。

それによって小豆と自分の行動の接点を見つけ出そうと思ったのだった。



しかし火曜日。話しかけられなかった。先週は朝教室に入ってきた小豆は荷物を自分の机に置くとそのまままっすぐにかえでのところに来た。

それなのに今日の小豆は教室に入るとそのまま自分の机に座ってしまった。


ただ教室に入ってきたときに一瞬かえでと目が合った気がした。


だからかえでは思わず立ち上がり小豆の机に歩み寄った。これまでのかえでからは考えられない行動だった。

「おはよう」

「お、おはよう。なんだよ、急に」

「あ、えっと……屋上ってよく行く?」

なんでこんな質問が出たのかわからない。ただ、奇跡的にこの質問がかえでの推理を一歩前進させる答えが出た。

「いや、たまに行くくらい。あぁ、昨日も行ったな。それがなんだよ」

「あぁ、うん。ありがとう。ごめん、変なこと聞いて」

「あぁ、いや。別にいいけど」

かえでは自分の机に戻った。



『昨日も行った』


小豆の言葉が耳に残っていた。そこでかえでは思い出したのだ。先週の月曜日の昼休み、かえでは屋上に上っていた。

もちろんそこでは小豆に会っていないから関係ないと思っていたが、事実として今週は行っていなかった。

「そっか……そこか」

気になったことは片っ端から検証していくほかなかった。


<続>

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