13日の金曜日
「ねぇ、知ってる?ジェイソンって実は1回もチェーンソー使ってないんだって」
ポップコーンを口に入れようとした彼はポカン、と私を見つめて少し固まった後、そのポップコーンを口に放り込んで答えた。
「まめしば?」
「私の話聞く気ないでしょ」
「ごめんて。知ってるよ、有名じゃん」
「え。有名なの」
「うん」
彼は頷きながら脇にあるコーラをストローで吸い上げた。
「ねぇ。拗ねてる?」
「……別に」
「拗ねてるじゃん!」
「別に拗ねてはいないけどさ……なんでホラー?」
「えー?……吊り橋効果?」
私は目一杯の笑顔で両手をほっぺたに当てて彼を上目遣いに見る。
「僕がホラー苦手なの知ってるでしょ?それにそんなもの無くたって好きだしさ……」
「はっ!」
私の顔はきっと真っ赤だろう。
「うぅ……でも、ホラーでいいって言ってくれたじゃん」
「そうだけどさ……」
話は昨夜に遡る。
「ねぇ、明日はどこ行く?」
『また行くの?』
「うん。先週はボウリングでその前は遊園地だったから……」
『……映画とかは?』
「うん!それいい!それにしよ!」
『あれは?最近公開された恋愛の、あれなんだっけ?』
私がラブロマンスが好きなのを知ってくれていて少し嬉しかった。が……
「いや、ホラーがいい!」
『僕がホラー苦手なの知ってるでしょ?』
「……知らないよ?」
すっとぼけてみたけどこういう時の彼は冷たい。
『じゃあ、今教えるね。僕はホラー嫌いなの』
「いやだ!絶対ホラーがいい!」
『なんでそんなに頑ななんだよ』
「今日は何の日でしょうか?」
『サンドイッチの日でしょ?』
「そうなの!?」
『うん』
彼がすっとぼけたのかと思ったけど、彼はこういう人間だ。
「へぇー…………いや、そうじゃなくて!13日の金曜日でしょ!」
『あぁ、そうだねぇ』
「なんか起こりそうじゃない?」
『……はぁ』
「あー!ため息ついたでしょ」
『さすがにつかざるを得ないよね』
「ねぇひどいよ……きゃあぁ!」
『なに!?どうした?』
「…………へへ、心配した?」
電話の向こうが沈黙した。
『…………切るね』
「わわぁ、ごめん。許して」
『……とりあえず明日は映画ね?』
「うん!楽しみだね」
『そうだね』
「ポップコーンとコーラ買ってもいい?」
『いいよ、好きにしな』
「怖かったら手を握ってもいい?イチャイチャしても……」
『いやだ』
……即答だよ。
「どうしてもダメ?」
『だめ』
「えぇー……おねがい?」
『いやだ。もう切るよ』
「むぅ……うん、おやすみ」
『うん、また明日』
ブツッ……
…………うん。絶対明日は手を握ってやる。怖いシーンがあったらしがみついてやる。
そうすればあの彼でも愛が伝わるでしょ。言葉じゃ伝わらないけど……
あぁ、楽しみだな。ドキドキするなぁ。
「きゃあぁーー!」
クッションに顔を埋めて大声を上げる。
これは恋のハラハラか、それともホラーのハラハラか。
今日は何か起こりそうだもんね。だって今日は
13日の金曜日だから。
<完>
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