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城の崎にて

大阪駅から3時間。ビル群はすぐになくなり、トンネルを抜ければ山、渓谷、畑、色あせた自販機。窓の外を一定の感覚で流れる鉄柱の影が窓際の焦茶色のコーラの水面に映る。

イヤホンから流れる音楽と時々流れる車内の女性の車掌さんのアナウンスを聞きながら小説を読む特急コウノトリの自由席。

目的地は温泉街・城之崎。

グングンと後ろに流れる景色を見ながらそこに住む人、動物、機械がどんなことを考えているのか想像する。後ろを振り返り、座席に持たれながら眠る人やスマホでゲームをする人を見ながらなぜこの人たちはこの列車に乗っているのかを想像する。そうやって短編小説のきっかけを探す。

志賀直哉もこうやって『城の崎にて』を書き上げたのだろうか。もちろん読んだことない。志賀直哉も川端康成も芥川龍之介も夏目漱石も読んだことない。こんな話を友達にすれば「銀河鉄道の夜は読んだ方がいい」と言われた。それは宮沢賢治だ。

今どんな話か、Google先生に尋ねたら聞いたことある話だった。小学生か中学生の時に少し触ったのかもしれない。とにかく僕は電車にはね飛ばされてもいないし、逗留じゃなくてただの旅行だ。

途中の駅で降りていく人達が大きなキャリーケースとこれまた大きなお土産袋を提げているのを見て今日が三連休の最終日だということを思い出した。大人達は「大学生のうちにやりたいことは全部やっとけ」と口をそろえるが、やりたいことが出来るのって改めて贅沢だなと思った。

城崎温泉駅に到着。話が違う。曇りだって聞いてきたし、コロナの影響で観光地からは人が消えているって聞いてた。空は快晴で見渡す限りこの温泉街を心から楽しむ人達の笑顔で溢れている。最高じゃないか。

宿についても「こちらに大浴場がありまして、何時からこれこれがありますので」とか懇切丁寧に説明してくれる。想像していたよりもいい宿だったみたいで恐らくリアクションはぎこちない。向かいにラーメン屋があるらしいから夜食べに行くことに決めた。

ひとっ風呂浴びた後に早めの夕食を。と思ったのだが外湯第1弾の温泉に入ってたほんの3、40分でさっきまで繁盛してた店がほとんど閉店していて温泉通りは静かになっていた。鮮魚店の2階の食堂に入って誘惑に負けてかに雑炊ときすの天麩羅を注文。店内では別グループでそれぞれ来ていた女性同士が知り合いだったという偶然の出会いで盛り上がっていた。

美味かった。かっ込んだ雑炊で上顎を火傷するくらい、なんならちょっと満腹で苦しいくらいに満足だった。出ればあたりはもう真っ暗だった。腹ごなしに5分程歩いて次の温泉へ、2、30分してまた次の温泉へ……

最後の温泉で素敵な少年に出会った。お父さんと来ていた女の子が気になっていたようで、脱衣所で「何歳?僕は6歳」と話しかけた。ほんの数分の間だったが2人はすっかり仲良くなった。別れる時には「またね。またどこかで会えるといいね」とまで言っていた。彼は将来、超イケメンになるだろう。

私小説的に今日の日記を書こうとかしたが、どうやら僕には無理なようだ。今日忘れていたことが2つある。遊技場と向かいのラーメン屋だ。明日にでも行こうか。それでは。

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