僕の思い込み


人の流れが僕の前を横切る。改札を出たところの柱の傍で僕は君を待っている。

「改札出てすぐのところで待っててくれなくても大丈夫なのに」

いつだったか、君がそんなことを言ってくれた。それでも僕はここで待ち合わせするのが好きなんだ。

階段から上がってくる人波の中に君を見つけると僕は嬉しくなるんだ。


待ち合わせしている時間の5分前。電車がホームに着いた音が聞こえた後、人波が階段を登ってきた。僕は期待して君を探した。

1週間ぶりに会った君は前髪が短くなっていた。君は僕と目が合うと笑顔で手を振ってくれた。僕も嬉しくなって手を振り返した。

「ひさしぶり!」

僕が言うと君は可笑しそうな顔をした。

「たった1週間ぶりじゃん」

「1週間もあれば話したいことたくさんできるよ」

「そうだね。今日はどこ行こうか」

君がそう言って右手を伸ばした。僕は左手でその柔らかな手を握って歩き始めた。


僕たちは天気のいい街を少し歩いて何度か入ったことのある喫茶店に入った。

大きな振り子時計のあるこの喫茶店は静かなクラシックが流れている。この中ではゆっくり時間が流れるように感じるんだ。

すっかり顔なじみになったマスターと少し話していつもと同じ、窓側奥から二番目のテーブルに座った。窓枠に置かれた観葉植物が窓からの日差しできれいだって君がいつも笑ってくれる。

喫茶店の中は僕らと同じような学生のカップルがいる。一緒に課題をしているカップル、すごいおしゃれなカップル、ひとつの料理をシェアして笑いあってるカップル……たぶん僕らが一番幸せじゃないかな。


「前髪どうかな?」

「似合ってると思うよ。僕は好きだよ」

「いつ聞いても褒めてくれるよね」

「もちろん」

コーヒーを飲みながら君の目を見ながらいろんな事を話す。一週間ぶりに会ったんだから話したいことはたくさんある。それでも結局話してしまうことはどうでもいい話ばかりになる。

それでもいいんだ。どうでもいい話で笑ったり驚いたりしてくれる君の表情を見ているのが好きなんだから。僕はその顔が見れるならいくらでも話せるよ。

コーヒーが苦手なくせに砂糖とミルクをたくさん入れてまでおかわりするのはもっと君と一緒に居たいからなんだ。

君と会うとつらいこととか嫌なことを忘れられてまた明日から頑張れるんだ。

君の笑顔に癒されて、当たり前の日常の中に見つけた小さな愛が僕の支えであり生きがいなんだ。


「ねぇ、聞いてる?」

「ん、あぁ。聞いてるよ」

明日も会えるかな、明後日も明々後日も……

いや、君に会うだけで、たったそれだけのことで元気になれる気がするなんて


僕の思い込みかな。


<完>



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