僕たちの戦争
「ふっっざけんな!」
僕は部屋の壁に向かってペットボトルを投げつけた。蓋が弾け飛んで、中から粒の大きさがばらばらの泡が噴き出した。
「ちょっと落ち着いて!」
「そ……うっ……」
僕は何も言い返せず、どんな顔をすればいいかわからなくなって彼女から顔を背けた。
怒りの出処は彼女から聞いた彼女の父親の話だ。
「パパがね、私たちが付き合ってることは認めないって言って聞かないの」
彼女の父親は一体、僕の何を知っているんだ。何を根拠にそんなことが言えるんだ。
僕は怒りが治まらなかったが、彼女にぶつけた所でお門違いなことはわかっていた。
出口のない怒りが僕の体の中を蠢いて少し吐き気がした。
15分くらい経っても怒りが治まらない僕の様子を見て、ただ何も言わずじっと座ってる彼女の顔を見ながら思った。
なんだか拒絶されてるみたいだ、と。
床を濡らしたペットボトルを手に取ってその怒りを中に閉じ込めようとする。僕の怒りで潰れたペットボトルを握った不快感は手を洗えば消えるんだろうか。
そんな僕を見て彼女は少しずつ肩が震え始めて涙を流しだした。
「ごめんね。もう少し時間をちょうだい?なんとか説得するから」
そんなこと言われたって君が悪い訳じゃないだろう?
そう思ったけどそんなことは口に出来ない。また怒りがぶり返してきて心に渦を作った。
もしそれでもダメなら君は「しょうがない」と言って引き下がれるのだろうか。そして僕なんかよりもよっぽどお似合いな誰かを探すんだろうか。
僕がここで引き下がれば、君の前からいなくなれば君の涙は止まって微笑みが戻ってくるのだろうか。
それとも今ここで僕が彼女の手を引けばいいのだろうか。
きっと彼女を傷つけるだけだとわかっていて、僕はそんなこと出来るのだろうか。
僕は何も出来ない。
たった一つの愛を今ここで見失えば、もう二度と見つからなくなる。そんなことはわかっている。
それでも僕は君を強引に連れ出すことはできない。
だから僕は君が手を握ってくれる限り、僕は何があったって命をかけて幸せにすると約束する。
だから君は繋いでる僕の手を離すな。信じ合う力だけが僕らを繋いで強さになるんだ。
これは僕ひとりの戦いじゃないんだ。
僕たちの戦争だ。
〈完〉
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