406号室のベランダで #69
<これまでのあらすじ>
失恋の寂しさを抱える西野ひかるとそれを拭いに来た駒井万里。ひかるは万里に何かを伝えようとしたがその想いはまだ言葉に変えられなかった。
二人はベランダで少し冷えてしまった体を暖めるかのように身を寄せ合ってベッドに潜った。自分のためを思ってくれている万里の小さな背中を見てひかるは安心したように眠りについた。
翌朝。当たり前のように朝食をとった二人は昨夜と違って陽だまりが暖かいベランダに出て少し話した。ひかるはその暖かさに背中を押されて万里への想いを何とか言葉にできた……
ーーーーーー
その日は二人でゆっくり過ごした。ひかるは心の隙間を、万里はひかるとの今まで我慢してきた時間をそれぞれ埋め合わせるように身体を寄せ合った。そして週が明け、食堂に四人はいた。
「で、駒井ちゃん。一昨日どうだったの?」
「一昨日?なんかあったの?」
「ん、あぁ……なぁ?」
「ねぇ?」
「ちょっと、駒井ちゃん?私の知らないところでなんかあったでしょ。西野、なにしたの?」
「ちょ、ちょっと待って。俺のもっと知らないところで話が進んでるから、一旦ストップ」
「なんもない、なんもなかったよ」
「嘘だぁ。なんかあったんでしょ」
「その前に何があったか教えて」
「伊藤は黙ってて」
「月ちゃん、それはさすがに傷つく」
「ほら話しなさい、二人とも」
迫る恵梨とたじろぐ万里とひかる、その間で戸惑っている唯人の構図が見られるのはひかるが元気を取り戻した証だ。
ひかるはついに耐えきられなくなって、唯人にもわかるようにすべて白状した。恵梨も唯人も二人のこと喜んでくれた。唯人は愛姫が引っ越していたことを知らなかったので一人遅れて混乱していた。
唯人と万里がハイタッチをするほど喜んでいたので何かあったのかと問い詰めると、唯人の口から花火大会のあの日の出来事を聞かされた。二人が裏でそんなことをしているなんて知る由もなかったひかると恵梨は驚きが隠せなかった。
ともあれ、ひかるの心の傷は少し癒えて笑顔も戻った。しかし一方で新たに傷ついた人もいた。
その日の夕方、恵梨は一人で家に帰った。
「……ただいま」
「おかえりー」
「あれ、お姉ちゃん帰ってたの?」
「うん、さっきね」
恵梨は自分の部屋に入ったきり、しばらく出てこなかった。気になった雛子は恵梨の部屋の扉をノックした。
「恵梨?入ってもいい?」
「……いいよ」
雛子はそっと扉を開けると恵梨がベッドの上にうずくまっているのが見えた。
「何かあった?」
「……ううん」
「そう?……何かあるなら聞くからね」
雛子はひかるのことだろうとわかっていた。でも、こういう時は無理に聞かない方がいいのは姉としてわかっていた。
その夜、雛子の部屋に恵梨がやってきた。
「……お姉ちゃん?」
「どうしたの?」
「…………話聞いてくれる?」
「聞くよ。おいで」
雛子は自分が座っていた座椅子を譲って、自分はクッションを抱えてその横に座った。
「…………あのね、西野と駒井ちゃんが付き合ったんだって」
「……いつ?」
「お姉ちゃんが西野と愛姫さんのこと教えてくれたでしょ?それで駒井ちゃんに『西野を励ましてあげて』って連絡したの。それで、そのまま……」
恵梨は少しづつ目尻から涙を零し始めた。雛子は恵梨を抱き寄せた。
「……辛かったね。でも後悔してる?」
「ううん……してない。自分で決めたことだから」
「うん。だったら、今日は思いっきり泣きな。雛子もそばにいてあげるから」
「……ありがとう」
恵梨は夜通し泣いた。夜が明けるころには恵梨も泣きつかれて雛子の胸の中で寝息を立てていた。
<続>
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