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黄銅地 鎌鼬図 目貫


 

刀身、鐔、その次

自分の思う、理想の「短刀(刀身)」を依頼し、
それに合わせた最高の「鐔」を作っていただきました。
ですがもちろん、白鞘のままでは鐔を合わせられません。
したがって、拵(こしらえ:外装一式)を作ることは確定です。

短刀の拵は、そのほとんどが「合口拵」か「小さ刀拵」です。
どちらかと言えば、「合口拵」の方が多く一般的ですが、
「合口拵」には鐔が存在しないので、
鐔を合わせたいと思っている私の場合は「小さ刀拵」になります。

ざっくりイメージ図(自作画像)

短刀の拵を作って頂くためには、刀装具を揃える必要があります。
刀装具というのは、目貫、縁金具、頭金具などの金具類の総称です。
もちろん依頼先によっては刀装具も手配していただけるのですが、
こだわって製作依頼した短刀と鐔に合わせる刀装具を、
「適当に見繕ってください」
と丸投げしてしまうのは、あまりに味気ない訳で。

この期間も、随時ヤフオクや刀剣店の品揃えを確認していました。
第一条件として、黄銅地。
これはもちろん、制作依頼した鐔に合わせてのことです。
鐔が黄銅だから他の金具類も絶対 黄銅にしなきゃダメ、って事は
ないのですが、なんとなく揃えたいなぁと思っていました。
 

刀装具:目貫

鐔の次は目貫(めぬき)かな、と考えました。

元々は、刀身を柄の中に固定する目釘(めくぎ)に蓋をするような
飾り金具だったはずなんですが、時代を経て目釘と分かれ、独立しました。
一般的な刀だと柄巻(つかまき)の中に半分隠れるような金具です。
菱の窓からちらりとのぞくのが、「粋」なんじゃないかな。

菱の窓からチラリと覗く金具が「目貫」(写真:Adobe Stock
「目貫」は通常、表裏2つで一組(写真:Adobe Stock

実用的な意味だと、柄糸の下に金具が入ることで凹凸ができ、
それが掌に沿うことで握りが定まる、みたいな事もあるらしいです。
今でも、居合とか抜刀とかする際は、この辺も重視されるそうな。

前述の通り、短刀の拵には大きく分けて、
「合口拵(あいくちごしらえ)」と
「小さ刀拵(ちいさがたなごしらえ)」があります。

合口拵で柄糸を巻かない「出し鮫」の柄だと、目貫は全体が見えます。

小さ刀拵だと、一般的な刀と同様、目貫の一部が柄糸の下に潜る形に。

 ※ 小さ刀拵でも、柄が「出し鮫」や「籐巻き」「漆塗り」などの場合、
   柄糸を巻かず、目貫の全体像が見えるケースがあります。少数。

という訳で、目貫の検討です。
合口拵だと飾り目釘として一体化してるケースもありますが、
小さ刀拵なら、世に出回っている様々な目貫が選択肢に入ります。
 

図案について、考える

短刀は、自分の好みを突き詰めた姿にし、為銘として、
妻への思いを込めて『鏡花水月』と切っていただきました。
鐔は、図案を妻の名前から取って『茜図』の鐔をお願いしました。
さぁ、目貫はどうしようか。

Google 画像検索 結果:「目貫+販売」更新 1か月以内

動物図、植物図、人物図、道具図、辺りでしょうか。カテゴリー。
動物なら龍とか虎とか馬、猪、鶏、鯉、など。
植物なら桜、梅、牡丹、松、竹、鉄線花など。
まぁとにかく色々な種類、バリエーションがあります。

図案を選ぶに当たり、色々と考えたのですが、
「『こんなのにしたんだー』と妻に見せて、一番喜ばれそうな目貫」
という選考基準で行こう、と考えました。

最初は桜や梅などの花を見ていたのですが、
その内に「動物もいいかな」と思い始め、探していました。
妻が喜びそうな動物。うーん、どうしようかな。
龍……は強すぎるかな。虎や猪も、ちょっと違うなぁ。

と、あれこれと探している内に、あるものを見つけました。
目貫は、「刀装具」というカテゴリでまとめられている事が多く、
目貫を探していると、自然、目貫以外の刀装具も目に入ります。

赤銅石目地 鼬に小禽図 縁頭(刀剣専門店【十拳-TOKKA-】)

鼬(いたち)! そういうのもあるのか!
 

我が家のイタチ

思い出話になるのですが、子供達が生まれる前、
妻と2人暮らししてた頃にフェレットを飼っていました。

1匹目は、2人でよく行ってたホームセンターの中のペット売り場にいて、
買い物の行き帰りに、「かわいいね」っていつも見ていた子でした。
ある日突然いなくなって、「あの子、昨日売れちゃったんですよ」って
店員さんに言われる日が来るんだろうなと思っていたら、そんな事はなく、
ずっと売れ残ってて、いつのまにか立派に大きく育っちゃって、
「来週で返品なんですよー」って店員さんが寂しそうに笑ってました。
……妻と目が合いまして。うん、分かる。
元々「飼いたいけど無理だよね」なんて言って諦めてたはずなのに、
もうこりゃ運命だよね、って飼育用のフルセット購入してお迎えしました。
オスのフェレットで、「メル」って名前を付けました。
噛んじゃダメって一度叱ったら、もう絶対噛まない子で、
基本的には温厚で、のんびり屋。もそもそと歩く姿が可愛いかった。
毛色はブレイズという、鼻から頭の後ろまで白い筋が入った子です。
(トップ画像の左側が「ブレイズ」です)

2匹目は、本当に偶然の出会いでした。
ある日、上司が「確かフェレット飼ってたよね?」と聞いてきて、
「はい」と答えたら、所轄警察署で保護されてたよ、と教えてくれました。
なんでも、捨て子か脱走したかで保護されていたとのこと。
嫌な予感がして、仕事が終わってから妻と2人で警察署に行ってみました。
警察の皆さん、フェレットなんてどうしていいか分からなくて、
とりあえずウサギ用のケージに入れて、ウサギ用のエサをあげてました。
ウサギ用のエサは草を固めたもので、肉食のフェレットにはNG。
必死に「私達フェレット飼ってます!」とアピールして諸々を説明。
家から持ってきてたフェレット用フードと取り替えさせていただきました。
そしたら、落とし主が見つかるまで保管していただけないかと相談が。
美術品とか薬品みたいな、保管上特殊な知識や管理が必要な拾得物は
警察から依頼して民間の専門家に代理保管してもらう制度があるそうで、
その場で色々と書類を書いて、最長3ヶ月でお預かりする事になりました。
その子はびっくりするくらいやせ細っていて、すごく攻撃的でした。
フェレットコミュニティに迷子情報を書き込んだり、
写真載せた張り紙とかもしてみたんだけど結局飼い主さんは見つからず、
3ヶ月が経った頃、警察から連絡がありました。どうしますか? と。
仮に警察に返却したら? と聞いたら、警察では飼えないので保健所へ……
という話でした。
いや、それ聞いて返せるもんか! って事でまた書類を色々。
正式に我が家の一員となったので、仮称だったお名前が正式名称になり、
メスのサラちゃんを2匹目としてお迎えしました。
毛色はセーブル。フェレットと言えばこれ! みたいな見た目です。
(トップ画像の右側が「セーブル」です)

かくして、のんびり屋でもったりしたお兄ちゃんのメルと、
すばしっこくて気難しい妹のサラの2匹が家族になりました。
妻と一緒にめっちゃ可愛がりました。いい思い出です。
 

黄銅地 鎌鼬図 目貫

妻が喜びそうな目貫の図案を考える内に、鼬図に行き当たり、
昔、我が家で飼っていたメルとサラの事を思い出しました。
そして、目貫は表裏、2つで一組の金具です。
そうか、そういう流れか。

という事で、鼬図の目貫を探そうと思ったのですが、
ここでもう一つ、考えが浮かびます。
鼬図ではなく、鎌鼬として目貫の製作をお願いしよう、と。

実は鼬図で、と思った時にある作家さんを思い浮かべていました。
林檎屋 さんです。
通常、刀装具を作成する専門家の方を「金工師」と呼びますが、
林檎屋さんは金工師ではなく、アクセサリー作家の方です。
ですが、一度ご相談してみたいと思いました。

実は以前、ペンダントを購入した際に細かなオーダーにも応じていただき、
すごく丁寧なお仕事をしていただいたのですが、
そのペンダントのモチーフが「カマイタチ」でした。

このペンダントヘッドも 黄銅=真鍮製

このペンダントは私も妻もとても気に入っていたし、
普段は特製のスタンドに掛けて飾っています。
うちのメルとサラに見立てて、ぜひ、カマイタチ目貫を作ってもらいたい。
そう考えて、林檎屋さんにご連絡を入れました。

目貫を作っていただけないでしょうか。こういう金具なのですが――
というご説明から入りました。
具体的な雰囲気やサイズ感をお伝えする為に、
刀剣総合専門店『儀平屋』さんの「現代物 目貫」のページ をお送りし、
いくつか補足説明をさせていただきました。
こちら、目貫の写真に金尺定規が添えてあるので、説明に最適でした。
妻の話、飼っていたフェレットの話をお伝えし、
合わせて、以前購入させていただいたペンダントヘッドを気に入っており、
ぜひカマイタチのデザインで目貫をお願いしたい、という話。
短刀も鐔も、自分の考える最高の職人さんにお願いできたので、
目貫はぜひ林檎屋さんにお願いしたい旨、熱く語りました。

結果、方向性の共有と予算感の確認をした上で、
正式に依頼を受けていただけることとなりました。嬉しい!
そこからはデザインのキャッチボールと、詳細の確認を重ねました。
林檎屋さんも目貫を作るのは初めてで、お互いに手探りな部分も
あったのですが、すごくありがたい資料として、
鐔をお願いした片山様のツイートも参考にさせていただきました。

デザインに関しては、こうしたい、という私の希望に対して、
「この方が判断しやすいかと思って、試しに組んでみました」
と試作までしていただき、細やかな調整を重ねさせていただきました。
「もう少し体を反らせてあげたり
 左右で差別化を図ったほうがいいですか?」
などのご提案もしていただけて、素晴らしい仕上がりになりました。
その節は、本当にありがとうございました。

note 用に撮ってきた写真がこちらになります。黄銅地鎌鼬図目貫。

イメージとしては、兄の「メル」
こっちは妹の「サラ」

面白いディスプレイケースを見つけたので、今はこんな飾り方です。
透明で、弾力のあるフィルムで挟み込む形で、宙に浮いた感じに。

この目貫も、いずれ、鐔やその他の刀装具と一緒に、
短刀を収める拵になる予定です。
目貫なので、柄糸の下に入る事になるのですが、その柄巻きも、
この 2匹の鎌鼬に似合う柄巻きにしてあげたいな、と思います。

手持ちの短刀の柄に乗せてみました
短刀拵の完成が、今から楽しみです

 

#刀 #日本刀 #短刀 #目貫 #鎌鼬


ヘッダー画像:Adobe Stock より


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