見出し画像

黄銅地 彼岸花図 揃金具


そんな予感はしてた

カマイタチの目貫を依頼した後のツイートです。
鐔の制作を依頼したタイミングから、合いそうな刀装具を探していました。
刀剣専門店のWebサイトやヤフオクを見て回る日々。
しかし、やはり黄銅地の刀装具は数が少ない。
どなたかにお願いしようか ――
そういえば以前、鐔をお願いした片山さんも制作依頼を受けて、
縁頭を作ってらっしゃった事があったな、とも思い浮かんだのですが、
さすがにあれもこれもと調子に乗って依頼しては図々しいかな、
と思いとどまりました。鐔を受けていただけただけでも、千載一遇。

さて、どうしたもんか――と考えていたんですが、
目貫をお願いした林檎屋さんは、本職の刀職・金工師さんではありません。
ここが一つのターニングポイントでした。

伝統や本格志向も素晴らしいですが、この短刀に関しては、
妻との思い出をこれでもかと詰め込んだ一振りにしようと考えていて、
それを形にするために、自分が大好きなアーティストさん達の
お力を借りよう、という考えで進めることにしました。
垣根を超えて、アベンジャーズ的発想。
 

ずっと気になってた

「自分の大好きなアーティストさん」という視点で考えると、
刀匠の助光さんも、装剣金工師の片山さんも大好きなアーティストです。
アクセサリー作家の林檎屋さんも、大好きなアーティストです。
そして、ずっと気になってたアーティストさんが他にもいらっしゃいます。
Atelier du Koto さん。和彫りの彫金師さんです。
その素晴らしさは、文字で綴るより作品をご覧いただいた方が、
より正しく伝わると思いますので、ぜひ。

今回の依頼に近いので花図を中心に引用させていただきましたが、
「虎」とか「鯉」とか「がしゃどくろ」とか、様々な作品が並びます。
和彫り=浮世絵とか錦絵、屏風絵みたいなモチーフの彫金という感じ。

Atelier du Koto さんの作品はすごく大好きで、いつか一点は手元に――、
と思っていたのですが、私は非喫煙者で、腕時計もしない人間なので、
なかなかご縁が見つからないまま作品を拝見させていただいていました。
ただ、その中で、様々なご依頼を受けていらっしゃる事は知っていたので、
今がその時では? と思いました。

Atelier du Koto さんは金工師さんではなく彫金師さんなので、
彫金するための金具本体を、別に用意する必要があります。
その辺りの見当が付いたら、一度ご相談してみよう、と思いました。
 

これが最適解だった

和彫りを入れてもらう、という前提で縁頭を探しますが、
根本原因としての「黄銅地が少ない」問題はここでも尾を引きます。
そして、和彫りをしていただく事を考えれば、極力、凹凸が無い方がいい。
色々と探した結果、岐阜県関市の刀剣専門店『刀部』さんのサイトで、
「真鍮地 無地縁頭」というのを見つけました。(※真鍮=黄銅)

金具の名称(自作画像)

刀装具は現代物より時代物が良い、という方もいらっしゃると思いますが、
私の場合はそもそもが注文打ちの現代刀に、制作依頼した鐔、目貫です。
という事で、刀部さんのオンラインショップで、「縁頭」を購入。
そして、同じく「真鍮地 無地鐺」も見つかりました。
「鐺」は、時代物を探すと、なかなか揃いでは見つかりません。
ましてや黄銅地となると、そこまで揃うセットはかなり少数です。
「鐺」まで付けてやりたいなと思いつつ諦め半分でした。
ですが、現代物でこうして販売されているのなら……

こうして、刀部さんで「縁金具」「頭金具」「鐺金具」が揃う、
という事が分かりましたので、依頼のご相談へと進みます。
 

その笑顔を見ていた

制作依頼をする、という方針になれば、図案は自由です。
もちろん、職人さんと打ち合わせしながらできる範囲での話になりますが、
こちらから「こんな感じでお願いできますか?」という希望は出せます。

どんな図案にしようかな。
そう考えた時、ふと、妻の笑顔が浮かびました。いい笑顔でした。
白い服、白い帽子を手に。背景は赤 ―― ああ、これいつも見てる写真だ。

私の妻は、写真を撮られるのが好きではない人で、
写真を撮ろうとカメラを向けると「私はいいよ」と逃げる人でした。
何かの機会にみんなで写真撮影、ってタイミングがあると、
「私が撮りますよ!」とカメラ係になり、結局自分は写らない人でした。
なので、本人の写真はほとんど残っていません。
でも昔、埼玉県の巾着田という彼岸花の群生地で撮らせてくれた写真は、
とても素敵な笑顔でした。
結果的に、これが遺影となり、今も壇の真ん中に飾ってあります。
 ※ 顔は隠します

アクリルパネルにして飾っています

彼岸花。
いいな、と思いました。

頭、縁、鐺の三点を、彼岸花で揃えよう。
短刀と茜図の鐔の周りを彼岸花で飾ろう。

そう心に決めて、Atelier du Koto さんに連絡を入れました。
 

受諾していただけた

ファーストアプローチは緊張するものです。
相手がずっと作品を拝見していた方なら、尚の事。
「※ 彫り入れのご相談はDMにて承っております。」
の文字を頼りに、ご連絡を入れさせていただきました。

ご挨拶から、刀の金具への彫りをお願いしたい旨をお伝えし、
縁、頭、鐺と金具の説明をし、材質は真鍮とお伝えしました。
彫り入れる柄(○ がら / ✕ つか)についてご質問いただいたので、
全ての金具を彼岸花でお願いしたいと回答しました。
縁頭に鐺まで揃いの図案になるとロマン度数が跳ね上がります。

金具のサイズ説明にお送りした資料

お見積りをいただき、こちらの予算の範囲内に収まっていたので、
ぜひよろしくお願いします、と即答。
かくして、正式に依頼が成立いたしました。
良かった!
 

大切な思い出だった

その後、彫金していただく金具三点をお送りしたり、
いくつか補足情報をお送りしたりして、待つことしばし。

「金具に下絵を描きましたのでご確認いただけますか。」

この時点で素敵な頭金具

刀装具としてあまり見ない図案ですが、彼岸花、かなり良くない?
なんだろう、あれかな。あまり縁起が良くない、みたいな事があるのかな。
その辺には無頓着なので、この画像を見た時点で「素敵!」と思いました。
ぜひ、この方向性でお願いします――とお返ししようとしたんですが、
一緒に送られてきた縁金具の写真を見て、指が止まりました。

彼岸花の中を舞う蝶の縁金具


蝶が、飛んでいました。

この写真を見た瞬間、古い記憶が甦りました。
大学生だった頃、妻と一緒に映画を見に行った事がありました。
三上博史さんが大好きだった妻が「絶対映画館で観たい」と言っていて、
私も、その熱意に引っ張られる形で付いて行きました。
結果、映画はとても面白かったし、歌も良かったです。

その映画のタイトルが、『スワロウテイル』でした。
 


蝶を、アゲハ蝶(Swallow tail)にしてもらおう、と思いました。
また、鐺金具の彼岸花の上に、三日月を入れてくださいとお願いしました。

頂いたデザインはとても素晴らしく、口を挟むのは野暮かと思いましたが、
一生に一度の機会かもしれないので、100%の満足を目指したい。
そう思ってお願いし、修正案も快く引き受けていただきました。

こうして、「黄銅地 彼岸花図 揃金具」が出来上がりました。
 

頭金具:蕾が開く朝のイメージ
縁金具:帳が舞う日中のイメージ


鐺金具:三日月が浮かぶ夜のイメージ


非常に。
非常に、写真が難しいです。腕が、機材が、追いつかないッ!

古色っぽい黄銅地(真鍮)なのですが、
光が当たると金色に輝き、普段は褐色に落ち着きます。
図案を見せるか、色彩を見せるか、輝きを見せるかの三択。
全部、いいバランスで見せたいのに……

という事で、Atelier du Koto さんのツイートも掲載します。

「揃金具」というと、多くの場合は、
「縁頭+小柄」だったり、「縁頭+目貫」だったりするんですが、
表現として他に適切なものが思いつかなかったので、
この記事では「縁頭+鐺」の事を「揃金具」と呼ばせていただきます。

こちらの金具も、目貫と同様、
いずれお願いする短刀拵に組み込ませていただこうと思っています。
それまでは、綺麗な美術工芸品として飾って楽しませていただきます。


#刀 #日本刀 #短刀 #縁頭 #彼岸花

 

ヘッダー画像:illustAC より


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?