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極私的カルチャー日記〜わたしの本棚②実用書・ノンフィクション〜

本棚を通して脳内を公開するシリーズ第二弾。
きょうは、実用書とノンフィクションを紹介します。

<実用書>

『失敗の科学』マシュー・サイド(ディスカバー・トゥウェンティワン)

「人はどうして失敗するのか?」という、永遠のテーマについて、事実とデータ、科学でとことん突き詰めた一冊。プロフェッショナルでもミスをするのはなぜか?ミスを減らせた航空業界とミスを隠す医療業界の差は何だったのかー。失敗から人間はどう学ぶべきかということを徹底的に分析した本です。
私自身、読書家と呼ぶのは憚られるものの、これまでの短い人生でそこそこの読書はしてきたと思っていますが、正直、実用書の中ではこれまでで一番面白かった一冊だと思っています。大袈裟かもしれませんが、人生のバイブルになりました。可能な限り多くの人に薦めたい本です。今、マーカーを引きながらもう一回読み返しています。


『これが「日本の民主主義!』池上彰(集英社)

おなじみの池上さんが、戦後の日本の政治経済を分野別に解説した一冊。「安全保障」「食とTPP」「原発政策」など、多角的に社会問題を見つめることで民主主義を考え直そうという視点で書かれていますが、実際の裏テーマは「今の日本は本当に民主主義なのか?」という問いではないかと勝手に考えています。

「分かりやすさ」の追求者として解説本でおなじみの池上さんですが、この本は割と社会を皮肉って解説しています。池上さんの本の読みやすさは、いかに厳しいことも、決して声を荒げることなく、徹底的に事実を積み重ねて突きつけてくるところ。池上さんの”怒りの一冊”ではないかと思っています。ちなみに、オリラジ・中田敦彦のYouTube大学でも教科書として使用された回がありました。


『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』北野唯我(ダイヤモンド社)

タイトル通りの内容です。新卒で入社した会社で2、3年働くと、いろんな疑問が浮かんでくると思います。入りたいと思って入った会社だったけど、このまま続けていくべきだろうか・・・実際、転職ってありなのか・・・など。以前、『「クビになる日」を考えて暮らす』という投稿をしましたが、その文章を書こうと思ったのは、こちらを読んだからです。この本のすごいところは、結論として論理的に「転職しなくてもいい」という選択肢を用意していること。自分の市場価値を客観視することや、今の働き方、自分自身の今後のキャリアを一度立ち止まって見直すきっかけにしてみては。


<ノンフィクション>

『もの食う人びと』辺見庸(角川文庫)

今で言う「ハイパーハードボイルドグルメリポート」の元祖というか、本家ではないかと。元共同通信記者にして稀代の筆力を誇るノンフィクション作家・辺見庸先生による、「食」に特化したルポルタージュ。バングラディシュで残飯を食べる回から始まり、噴火で生活を追われたフィリピン少数部族の”失われた味”を求める旅、チェルノブイリ事故で放射線の影響を受けた作物をスープで食べる・・・そこにいる人たちは何を食べているのか?という純粋な疑問にとことん向き合い、一緒に飯を食べることで共同体の一部になり、打ち解けあう。たとえ言葉が通じなくても、「食」を通して文化も人種も違う人々の人間らしさを映し出す傑作です。「ハイパーハードボイルドグルメリポート」が好きな人もぜひ。


『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧幻の三連覇』中村計(集英社)


斎藤佑樹の早稲田実業と田中将大の駒大苫小牧が激突した2006年の甲子園決勝戦。当時私は小学6年生の野球少年で、テレビにかじりついて決勝戦を見ていた覚えがあります。
実はその年の駒大苫小牧は、前人未到の3連覇に大手をかけていました。北海道の弱小高校がいかにして甲子園常連高に上り詰めたか。当時35歳で若き名将と呼ばれた香田誉士史監督を若年期から追いかけた、ハンカチ王子に狂酔した甲子園のアナザーストーリーです。監督を美化する安易なヒロイズムは一切排除され、ときに体罰に近いことがまかり通っていた事実も赤裸々に描かれています。最強と言われた甲子園常連高の監督の苦悶、生徒や保護者と対立した時期、本人はもちろん、膨大な人数の関係者への取材を通して浮かび上がった姿は、監督である以前に1人の人間であることをつきつけられます。

皆が知る過去の出来事であっても、当時の事実や関係者を丹念に当たることで新しい見え方や発見がある、ジャーナリズムの手法を色濃く感じるのがこの著者の素晴らしさです。別著、松井秀喜の5打席連続敬遠を星稜高校側と、明徳義塾の馬淵監督側から描いた『甲子園が割れた日ー松井秀喜5打席連続敬遠の真実』も傑作です。


<その他>

『夜と霧』ヴィクトールEフランクル(みすず書房)

ナチスの強制収容所に収容され、生還した精神科医が収容所での体験を振り返る一冊。中学校の最後の美術の授業で、当時の先生が「美術という授業の意義は何か」というテーマで話してくれたのですが、そのときに引き合いに出されたのがこの本でした。強制収容所の生活が克明に記されているだけでなく、過ごす人々や過酷な環境に対する客観的な考察が加えられているのがこの本の面白さです。生き残った人と死んでいった人は何が違ったのか?極限状態で人間が考える「希望」や「美しさ」とはなんなのか?根源的な問いを考えるヒントをくれる、歴史的名著だと思います。
ちなみに、新版と旧版の2パターンがあり、どちらも読みましたが、おすすめは霜山徳爾氏が訳した旧版です。文章が一部古いですが、付録についているメモ書きや資料写真集は旧版にしかないもので、当時の過酷な収容所の様子を学ぶ上ではこちらも込みで読まれることを薦めます。


第三回以降はまだ未定ですが、気が向いたらまた更新していきます。

第一回「小説・文芸・モチベ系」はこちら



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