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オンライン学会に参加してみた雑感

 立て続けにオンラインの学会に参加した。色々と思う事があったので、メモをしておこうと思う。システムはどんどん進化するだろう。ネットには、それこそ開催ノウハウから、参加した感想、発表した感想など山ほどあるから、特に目新しい意見はないかもしれない。しかし、、、いずれは自分が主催する側になる予感がするので、今感じたことをメモしておきたいと思う。

 前提条件:私は発表しなかった。プレゼンなしである。単なる参加者として参加した。ひとつは毎年のように参加している学会。もう一つは数年に一度ぐらい参加する学会である。前者ではいつも発表をしているが、今年は発表しなかった。後者はどちらかというと勉強しに行くのが目的で、発表は暫くしていない。

普段の学会と比較して良かった点

 発表は聞きやすい。口頭も聞きやすいし、ポスターも見やすい。特にポスターは人混みの向こうにポスターを見るということがないので、実に見やすい。発表を聞くことだけが目的なら、オンラインの方がいい。またオンラインならではで、普段なら日本に来なさそうな方の招待講演とかを聞ける(向こうは深夜なので大変だろうとは思った)のは実にいいなと思った。

 流石にコロナ禍に突入して半年もたつので、皆さんプレゼンはお上手だった。オンラインならではで動画等も使いやすいし、おぉっ!と思うようなポスターも見かけた。制約の中でも様々なチャレンジが試されていて相当に勉強になったし、若い学生さん達の新たな環境への適応力の高さに素直に感動した。オンライン講義にもいかせるかなー、と思う物もあった。

 会場までの移動がないことはもちろんメリットだが、会場内での移動がないというのも良かった。階段を上り下りしたり、エレベーターで移動したりとかない。複数のシンポが同時進行する中で、どれに参加するか迷った末にえいやっと参加したシンポの途中で、開始して暫くしてから「やっぱりあっちに出れば良かった!」みたいなことはあるものだが、オンラインならさくっと移動できる。隣の席の方にちょっとすいません、、、と言って移動しなくていい。この様に総じて「学会に参加して発表を聞く」という目的の視点でみれば、かなり良いことが多かったと思う。

 あと興味深かったのは移動がないので共同発表者が参加しやすい点である。シンポの発表時に共同発表者がオンライン経由で参加していて、質疑応答にチャット欄で答えていたり、プレゼンを二人で分担しながらというのも見かけた。私は研究室の学生さんの発表の際には質疑応答などで助け船を出さない、というのを信条としてきた。しかし、チームを組んで役割が細分化している研究では、発表でそれぞれの実験や解析を担った方が関連する質疑に答えるというのは正しい情報を伝える意味では重要だし、プレゼンと平衡して質疑に回答したり、解説をしたりしていてプレゼンの理解がしやすかった。チームで研究をしてチームで発表しているというのを感じた発表がいくつかあった。忙しい先生が共同研究者として含まれる場合に会場まで移動していただくのは無理でも、オンラインならば発表の時間だけ繋いでもらうこともお願いしやすいだろう。これは自分の発表を聞いて欲しい方を呼ぶという意味でも同じだ。移動がないことにはメリットが多い。

普段の学会と比較して残念だった点

 演題数が多いと対面の学会よりも目的の発表だけに絞りがちになるのが勿体ないと感じた。特にポスター発表は普段の学会でも演題数が多い場合は全部は見られないので要旨集を読み込んで目的のポスターを目指すことになる。それでも目的のポスターに行く途中で人だかりが出来ていたり、通りすがりに目を奪われたり、普段は発表しない先生が珍しく発表していたりとか、要旨集では気づかなかった(もしくはチェックを見落としていた)ポスターに出会って、立ち止まってじっくり読むことがある。そういう場合は大抵は素晴らしい発表であることが多い。しかしオンラインだと、それが難しいと感じた。演題数の多い中で要旨集から選んだ目的の発表を見ることに絞られがちで、偶然の出会いが難しい。本当は面白いのに見落としているものがあるかも・・・と思った。

 これは発表する場合も、自分の発表に来てもらうために要旨が今まで以上に重要になる、ということでもある。しかし、巨大な学会になればなるほど、そもそも要旨集を読み込むこと自体が難しい。論文でいうところの「キーワード」みたいなのを各発表で設定できて、参加者ウインドウから検索出来ればいいのに、と思ったが私が参加したものには存在しなかった(オンライン要旨集などでは既に実装されているだろう)。いずれにしても対面学会以上に、要旨を練ることが重要だと思う。

 また、参加者間のコミュニケーションがとりにくいと感じた。発表者とはもちろんコミュニケーションがとれるように工夫されていた。ポスター発表ではコメントもコメント返しも出来るし、会話が出来るようにZOOMが貼り付けられているのもあった。しかし前者は、なんというかPubPeerみたいだし、ZOOMの場合は複数でざっくばらんな会話という感じにはならないのと、私のようなオッサンが見ず知らずの若い学生さんが用意されているアカウントに突入するのは勇気がいる。アカウントに繋いでみるまで誰と会話しているか分からないのも難点だ。いわゆるポスターの遠目から会話を聞いて、空気を読みながら控えめに会話に入っていくというのが出来ない。

 また、偶然に階段ですれ違った先生と話し合うということもない。参加者間のコミュニケーションツールは用意されていたが、結局は文字のチャットなので、ならば別に学会会場じゃなくてもいいよね、という感じがした。誰かと会話していたら、その誰かの知り合いが通りかかって混じって、さらに、その知り合いも混じってきて、、、というあの交流が広がっていく感覚がないのは寂しい。

 私が参加した学会では懇親会がなかった。シンポジウムごとに、独自にZOOM飲み会を企画したり、色んなツールを使用して小さな人数の懇親会的なものの案内はあったが、一見さんは出にくいだろう。しかし懇親会そのものはリアルの学会でも出る人と出ない人が綺麗に別れるし、昨今の若い学生さんなどは酒の席が面倒だと思う方も多いだろうから、残念だと思うのは少数派かもしれない。

普段の学会と比較してモヤモヤした点

 別に残念とまでは思わなかったが、モヤッとしたことがある。オンライン講義をしていても感じるのだが、オンラインだと、どうやら「発言のハードル」が下がるようだ。大勢の前では手を上げて発言出来ないけれども、オンラインだとチャット経由で文字で質問することが平気な人が一定数いるようである。それによって質疑応答やポスターのコメント欄が盛り上がることは良いことなのだが、ちょっとモヤッとするものもあった。

 あるシンポでは、ZOOMのチャット欄が質疑応答で盛り上がってしまい、重要そうな質問が流れてしまって座長が追いつかなくなってしまった。質問が多くなりすぎると、どれを拾っていいか分からない状態に追い込まれる。総じて、どうもオンラインの方が質問しやすいのかなと思う。いつも同じ先生ばかりが質問しているというのより良いと思うが、発表中のチャット欄の利用方法については、なんらかの改善余地があると感じた。

 また、とある高名な先生がポスター発表されていたのだが、そのコメント欄をみていたら、なにやら上から目線で「いやはや素晴らしい発表ですね。新しいツールが使われていて目を引く発表だなと思いました」みたいなコメントがついていたのだ。なんで某先生の発表に対して内容じゃなくて、わざわざ発表方法についてコメントしてるんだろう? これ誰だろう? と思ってコメント投稿者の名前で検索をしたら、某所の学生さんであることが分かって凍り付いた。恐らくは、この先生のことをご存じなかったのだろう。もしくは有名な先生のポスターに何かしらコメントを残したかったのだろうか?目的は分からないが、私と同じ事(検索)をした参加者は多数いたはずだ。

・・・対面ならば、同じ事は起こりえなかったかも知れない。某先生の圧倒的なオーラの前でそんなことは言えなかったかもしれないし、そもそも人だかりで近づけなかっただろう。オンラインだからポスターを見に来た方全てが、そのコメントを目にしてしまう。例え直にコメントを伝えることが出来たとしても対面ならば1対1のダメージで済んだが、オンラインだと大勢の目に晒されてしまう。コメントされた先生も「お褒めに頂きまして有り難うございます!」とか返して懐の深さを見せつける訳でもなく、見事にコメントはスルーされていて何ともモヤッとしたのだ。

まとめーリアルで会えることの尊さー

 今回は参加者目線なので主催や発表をすれば認識も感想も変わるだろうが、最後に私の現段階の感想をまとめるならば「リアルで会えることは実に尊い」ということだ。私は学生の時に初めて学会に参加した時、論文でしか知らなかった先生達にリアルで会えたのが何よりも嬉しかった。初めての学会では話しかけたいが話しかける勇気もなく、まずは良い発表をして声をかけてもらおうと誓ったものである。そのうち研究が進むに連れて指導教員の先生が紹介してくれることも多くなった。懇親会の席などで、偶然のタイミングですれ違った際に「うちの学生です」といって紹介してくれて、挨拶して、名刺交換をして、こんな研究してますと自己紹介したら「うん、発表を聞いたよ」とディスカッションが始まったことが何度あったことか。お酒も入って気さくに、そういう先生達と深いディスカッションが出来た。そのまま二次会に流れ込んで、泥酔した高名な先生をタクシーで送り届けたこともあった(笑)。海外の学会の懇親会で意気投合したうえで共同研究がスタートして、今でも一緒に研究をしている方もいる。

 そういうリアルで会うプロセスを経て自分は成長させて頂いたと感じるし、学問だけじゃなくて、対人スキルや礼儀、業界の雰囲気や倫理など様々なものを学んだと思う。もちろんプロセスなんて必要がない方もおられるだろうし、そんなものに微塵も価値を感じない方も多いだろう。でも私にとって学会とは、単に発表をする、発表を聞くだけではなかったことを再認識した。リアルで会えることは実に尊いのだ。

 とりあえず現状では暫くオンライン学会が続くのは仕方ないと予測できる。ならば、かつての指導教員がしてくれた様に、かつての高名な先生が声をかけてくれたように、先輩達が大会を運営してきたように、おっさんの自分がオンラインで出来ることを、おっさんなりに頑張らねばならないという決意が腹の底にあるのも確かに感じた。システムはどんどん進化するに違いない。VR上にアバターで参加出来るようになれば、コミュニケーションの部分は大きく変わる期待がもてる。おっさんなりに頑張って対応するしかないのだ。発表の場を維持していくのは若い学生さんのためにおっさんとしての責務だ。

 ・・・でも、やはり(本音を言えば)コロナが収まって対面の学会が再び出来る日が訪れると良いのになとも思ってしまった。やはり私は老害じじいなんだな、と再認識した次第でもある。

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