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気まぐれショートショート イライラする挨拶代わり

気まぐれで家の押し入れを整理していたら、なんとも古いお菓子の缶箱が出てきた。私が営業マンだった頃、集めたが名刺が山盛りになっていた。定年してもう三年が経った。

そういえば昔、とんでもない会社へ営業に行ったっけか。
なんでもそこは海苔を聴診器だと言い張って、あたりの病院に売り渡るような滅茶苦茶な会社だった。

「どうも初めまして、企画部の○○です」
そういって手渡された名刺を握ったその時、

ベタッ

手に何か引っ付く独特の粘着感。
これは……。

「味付け海苔?」
「はっはっは、ちょっとしたジョークです。ほんの挨拶代わりですよ」
あの時は怒りを顔に出すまいとするのに必死だった。
「今、本物の名刺を持ってきます。ああよかったらお茶うけに、その箱の中にお菓子ありますんで、どうぞ」
「ああ、どうもすみません」
気を取り直そうとお茶を一杯すすり、言われた通りの箱に手をかける。
しかし、蓋がどこにも見当たらない。
「……寄木細工じゃねぇか!」

ふいに視線を感じたのでドアの方に目をやると、例の企画部と他数名の社員が覗いていたのかクスクス笑っていた。

悪ふざけにしても度が過ぎるぞオイ。
(472文字)


新しいお題をと言いつつ、ちゃっかり前回のテーマを擦っていくスタイル。
最近は風潮だなんだであまりこうした悪ふざけが許されない空気感漂うものの、なんか茶目っ気のない人間関係ってつまんねぇなぁと嘆く老害な最近の私でしたとさ。

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