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絵本『ちいさいおうち』

『ちいさいおうち』
文・絵:バージニア・リー・バートン
訳:石井 桃子
出版社:岩浪書店
<内容>
しずかないなかに,ちいさいおうちがたっていました.やがてどうろができ,高いビルがたち,まわりがにぎやかな町になるにつれて,ちいさいおうちは,ひなぎくの花がさく丘をなつかしく思うのでした――.時の流れとともに移りゆく風景を,詩情ゆたかな文章と美しい絵でみごとに描きだした,バートンの傑作絵本.(2019.11改版)

岩波書店HPより

バージニア・リー・バートンは大好きな絵本作家のひとりです。
懐古的な内容の作品が多く、時間の流れや人の感情の移り変わりを、螺旋状に描いたイラストで巧みに表現しています。
この『ちいさいおうち』もバージニア・リー・バートンの代表作のひとつです。

物語りの主人公は、ひなぎくの花が咲く丘の上に建つちいさいおうち。
自然の中で家主たちは過ごし、ちいさいおうちも牧歌的で自然豊かな景色を眺めながら幸せに過ごしていました。
ところが時代が移り変わり、自動車が普及するとちいさいおうちの周りの景色も一変します。
車が増えることで道路ができ、地面は舗装されていきました。
そして大きなビルや建物が乱立し、騒々しい都会に変貌してしまいました。
ただ朽ちていくだけのちいさいおうちでしたが、初代家主の子孫がこのちいさいおうちを見つけ、自然豊かな新たな土地へ移築し、壊れた窓や扉も修理され、昔と同じように、自然豊かな環境で暮らせるようになりました。

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私が住む田舎でも、田畑が減り住宅が増えています。
農家では後継者がいなくなり、高齢者だけでは農作業が行き届かず、農地を手放す人も多いです。
また空き家も増えて、治安を心配されているところもあります。
車で慣れた街中を走っていて、いつの間にか更地にされた土地があると「あれ、ココ何があったっけ?」と、かつてあった見慣れていたはずの建物が思い出せず、自分の記憶力の低下を憂いてみたり(笑)
こうしていつの間にか更新された風景に馴染んでいくのでしょうね。
昔懐かしい原風景に憧れる気持ちもわかるし、また置かれた場所に親しんで時代に沿った暮し方を模索するのも、大切な処世術だと思います。

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この絵本はちょっと文章が長くて、幼い子どもの読み聞かせには向いていないかも知れません。
でも可愛らしくて色彩豊かなイラストを見るだけでも楽しめると思います。
そして年齢と共に感じ方も変わり、大人が読むとちいさいおうちの心情が、じんわりと心に響き、読み終わるころには幸せな感動に包まれています。



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