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政治ドキュメンタリー映画を観てみる

 最近読んでいる本にこんな言葉があった。

 大文字のPのPolitics(政治)は、「政治的な活動」など選挙を通じて政党が行うものである。一方小文字のpは、日々の生活のなかで起こる多様な困難が個人の責任ではなく「社会」の文脈でつくられ維持されることを示している。「政治とは関係のない領域(politics-freezone)」などというものはない。
(中略)
 「個人的なことは政治的なこと(Personal is political)」

『脱「いい子」のソーシャルワーク 反抑圧的な実践と理論』より


 そういう意味では、私たちの日々の生活における活動はすべてpoliticalなものであり、延いては政治でないドキュメンタリー映画など無いのかもしれない。


 タイトルをリネームしよう。


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選挙ドキュメンタリー映画を観てみる



 『なぜ君は総理大臣になれないのか』という映画が2020年に公開され、"一部で"、"少し"、話題となった。それは、小川淳也という衆議院議員の17年の政治活動を収めた作品だった。


 氏は枝野前代表の辞任に伴う立憲民主党の代表選にも出馬した人物で、現在は同党の政調会長を務めている。


 『なぜ君~』を観た時は、小川氏のプロモーションビデオというか、「プロフェッショナル ~仕事の流儀~」のようなイメージだった。当時の民進党前原代表に腰巾着のようについて回り、小池百合子都知事の「排除発言」があってもなお、前原氏と希望の党に合流した小川議員に対して、正直あまりポジティブな印象は受けなかった。


 ただ、政治に対する熱さを持った小川淳也という人間には関心を持った。


 今年、その『なぜ君~』の続編『香川一区』が全国で公開となり、これまた、"一部で"、"少し"、話題となっている。


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ドキュメンタリー映画 「香川1区」公式サイトより


 映画は2021年10月に行われた第49回衆議院議員選挙が舞台である。香川1区は初代デジタル庁担当大臣・平井​卓也(自民党)議員のお膝元で、対立候補として民主党系から立候補してきた小川淳也(立憲民主党)議員は永らく苦汁を舐めさせられてきた(2003年の初出馬から小選挙区は小川議員の1勝6敗)。


 政治に対する熱い思いがありながらも、三世議員である平井氏の強固な地盤がある香川1区で、また昭和から連綿と続く田舎特有の「自民党とそれ以外」という住民の意識を前にして、苦悩しながらも対話し、選挙を戦う小川氏の様子が、前作では映し出されていた。


 今作では、「50歳になったら政治家引退」をかねてから宣言していた小川氏の50歳の誕生日からシーンが始まる。彼が理想として思い描いていた政治家人生、それを見つめ直し現実と帳尻を合わせるところにまた人間臭さを感じさせる。


 前作との違いでいうと、タイトル『香川一区』からも見受けられる通り、小川氏だけでなく平井陣営や日本維新の会の町川順子陣営にも取材を行っていることである。これはなかなかに見ごたえがあったし、ぐいぐい切り込んでいく大島監督の発言にもドキドキさせられた。


 ただ、やはり選挙となると、他の候補者を貶めることは選挙戦略としてしばしば用いられる。単独インタビューでは和やかに質問に答えていた平井氏だが、街頭演説では、前作『なぜ君~』がただの小川氏PR動画だとこき下ろす。その上、平井氏の街頭演説の動画を撮っていると平井氏の支持者に妨害され、警察を呼ばれてしまう。


 それでも監督・スタッフは粘り強く取材を続け、自民党支持層の住民にもインタビューをしていく。その中で、明るみなる平井氏の政治資金パーティー申込書の不自然な点や、投票後に投票先を確認する事務所の存在といったグレーゾーンにも本作品はフォーカスを当てている。


 結末はもう既に情報として出ている通り、小川氏の勝利で幕を閉じる。当確報道直後の娘さんのスピーチが胸を打つ内容で大変良かった。


 枝野氏の辞任に伴う代表選挙で、小川氏の順位は3番目でまだまだ”総理大臣”には程遠い。今後の氏の活躍に期待するとともに、映画の続編もまだまだ作られそうな印象を受けたので、そちらも楽しみにしたい。


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 念のため最後に述べておくけれど、自分は特に立憲民主党を支持しているから今回の映画を観に行ったわけではない。


 今回、たまたま立憲民主党に所属する小川議員のドキュメンタリーだっただけで、彼がもし自民党議員だったとしても、れいわ新選組の議員だったとしても、共産党の議員だったとしても、観に行っただろうと思う。


 それは小川氏の主張や姿勢が、政治の主役は政治家ではなく国民一人一人なんだどいうことを思い起こさせてくれるからに他ならない。


 一方で前作に引き続き、小川氏陣営があまりに綺麗に映し出されていることには違和感を禁じえなかった。平井氏にPR動画と揶揄されても仕方ないと感じた。


 町川氏が立候補した際に小川氏は立候補取り下げを維新の馬場幹事長(現・共同代表)に陳情するが、その様子が炎上する。その時のことをジャーナリストの田崎史郎氏にたしなめられ、小川氏が激昂する様子が本作には収められている。


 ああいう綺麗じゃないところも含めて描いてくれるとより作品として面白いのになと思う。あまりに綺麗に描かれすぎていて途中から気持ち悪くなってしまった。


 『香川一区』というタイトルでありながら、公平に同じ時間を掛けて各候補を取材しているわけではないし、信頼関係も築けていないので当然相手の警戒心も強い。ましてや前作でかなり平井陣営の負の部分を描いている。それを単に「理由もなく取材を拒否された」だけで終わらせるのはどうなんだろうかと感じる。


 この映画が何を誰に見せたいのか、いまひとつよく分からなかった。

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