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この多様性を受け入れられるか/ミッドサマー レビュー

今回はミッドサマーのレビューになります。

アリ・アスターが監督した前作「ヘレデタリー継承」は悪霊に取り憑かれてしわじわと崩壊していく家族を描いた映画だった。ミッドサマーは前作と対照的に明るい雰囲気ではあるけど、異様な雰囲気な事には変わらない。むしろより歪だ。

宗教が価値観の違いを正当化している

主人公達は旅行でスウェーデンの田舎にある小さな集落を訪れる。そこではその集落独自の宗教が発展していて、主人公達はそのカルト集団が主催する90年に一度のお祭りに参加することになる。

この映画はホラー/スリラーとカテゴライズされているが、従来のホラー映画にあるダークな雰囲気や、緊張と緩和の起伏は少ない。なんならカルト集団は、主人公達を温かく歓迎しているし、暴力を無条件にふろうともしない一見感じの良い人達だ。

しかし、明らかに異常で狂ってるとしか思えない光景が次から次へと繰り出され、主人公達は驚愕し、恐怖する。そしてそれは「宗教」という倫理観を根底から覆すファクトがすべての原因だ。「これがウチでは当たり前だから。別に変な事じゃない」と拒絶反応を見せる主人公達を落ち着かせようとするが、好き嫌い云々の問題よりもっと根本的なズレを感じずにはいられない。

R15指定にもなっている程の映画なので、それ相応の表現がなされてる。(四肢欠損、丸出し等)食欲は間違いなくなくなるし、SAN値はダダ下がりする。


ホラー映画ではない?

ホラー映画に、恐怖の対象がいつ出てくるのか分からない不安な状況から、その不安や緊張が一気に爆発し物語が進んでいくといった流れがある。

ミッドサマーには上記にも書いたように、怖いものを見せようと演出しているシーンはほとんどない。ホラー映画特有のジェットコースターな感覚はほとんどないのだ。怖いものがいつ現れるのか分からない緊張感は一切感じさせずに、得体の知れない奇妙なものがまじまじと現れ、それを周囲の人は驚かず笑っている。この実に奇妙な雰囲気がミッドサマーの特徴だ。

確かに目にするものはグロテスクだし、明るい雰囲気だからといってポジティブな内容かというと真逆だ。この何とも言えない空気感や感覚がヘレデタリーを作ったアリ・アスターの持ち味なのかもしれない。なのでホラー映画を期待して観に行くと肩透かしを食らうかもしれない。今回は友人と2人で観に行ったが、友人も「よくわからなかった」と言っていたし、僕も後味は何とも言えない、なんとなく不快な感覚が残った。とても独特すぎる。

残った感想でいうと、「宗教という価値観のズレはとても理解しがたいもの」だということ。

例えば、僕ら日本人は食べる前に「いただきます」と言い食べ終わったら「ごちそうさま」という。これも仏教の影響を受けたものだ。しかし、僕らがご飯を食べる時に言うこのセリフに対して、仏教っぽいニュアンスは全く感じない。それは日常に溶け込み過ぎていて、宗教であるという感覚もなくなっているから。同時に日本人の倫理観を形成しているものとも言える。

このように宗教には、人間の倫理観を作る役割を担っているし、この映画のおぞましい表現さえも、宗教の習わしと言われてしまえばそれまでに思える。それだけ宗教には力があるということだいし、それを題材にしたのは面白いなと思った。

昨今、多様性を認めようとする動きができてきているが、それは同じ宗教でとだったもの同士にとどめておいた方が平和なんじゃないかなと、この映画を観ながら思った。



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