知らな過ぎる人、知られ過ぎてる人
知られていないお店には
「よく知る人」が来てくれます
私のお店は郊外の住宅地にあって、小さいし目立たないので、物は言いようの表現としては「隠れ家的なお店」。随分前、雑誌の取材を受けたときに、そのようなくくりでご紹介を頂いたことがあったのです。
あれは照れ臭かったなあー。
あえて隠れ家の佇まいを演出している他のお店に混じって、うちは単に目立たないだけ…てか、そもそも隠れてるつもりなかった(笑)。
さて。そのような私のお店ですが、たまに遠方から(うちを目当てに)わざわざ足を運んで下さる方がおられます。たいていは、何らかの目的を持った「よく知る人」だったりします。
何を「よく知る」のか。情報収集が上手で、自分で確かめることもいとわない、その上で慎ましい判断をしちゃう人とでもいいましょうか。理解ある控えめな人。
で、たまの出来事ということもあり、私がすっかり嬉しくなっちゃって、つい色々聞いてみたくなるんです。
特に、創作絵本などを自主制作されている方が足を運んで下さったとき。売り込みの経験を何かしら持っている人の“ひきだし”から出てくるのは、人から聞いた話も含めた「訪問先のお店や出版社でどのような対応を受けたか」について。緊張した、親切だった、困った、困らせた、冷たかった、怖かった…等々、断られた場合のエピソードはなかなかに多様で、いろんな感想をお聞きします。
一方で、通っていた創作絵本の教室では、かつて色んな講師の方からアドバイスされたことがあります。「お店や出版社に、よくわからない売り込みをして先方を困らせちゃダメだよ」。
そういえば、私のお店には「よくわからない売り込み」が滅多にやってこない。どうしてだろう?
答えは至ってシンプル。もちろん、私のお店が目立たない無名のお店だからです。よく知らない人が、その存在を知る由もなく。
以来、この手の話題に触れるたび「いかんともしがたいなあ…」と感じてます。「よく知る人」は、いきなりそんなチャレンジをしないんじゃないか。「知らな過ぎる人」ほど「知られ過ぎている人(店)」のことしか知らなくて、売り込み先として訪ねる人が続出してるはず。
ただでさえ多忙を極める有名店の店主さんは、あまりの多さに「またか」とウンザリしてるだろうし、そうと知らずに売り込みに行ってしまった人は、考えていた以上に嫌な思いをするかもしれない。
私が個人的に願わずにはいられないのは、いきなり有名店に売り込みに行ってしまった人が、どうか創作初心者さんじゃありませんように!ということです。
講師の方がおっしゃったような「先方を困らせる」という意味で気がかりなのではなく。創作にまだ興味を持ったばかりで、せっかくやる気になっている人を、のっけからガッカリさせるようなことがあったりしたら…あまりに忍びないからです。
というわけで、この記事を見つけて下さった方だけでも。
「自分の作品をお店に売り込んでみたい!」と思い立って、遠方のお店に売り込もうとする場合は、その地域にあるあまり知られていないお店もなるべく探してみてください。有名・無名に関わらず、もし店主さんの対応が冷たかったとしても、その店主さんをとりまく状況がそうさせているだけの可能性もあります。そして、もし続けさまにご自身の作品が否定されちゃったとしても、それは今の話。未来はわかりません。ご自身の時間の積み重ね方次第です。そもそも風向きは常に変わりますし、創作は、続けた分、楽しんだ分だけ、今より絶対うまくなります。
お店が比較的近所の場合は、まずは自分がそこのお客さんとして、お店に馴染むところから始めてみてほしいなあって思います。そのほうが、きっと楽しいはずだから。
ご時世もあって、昨今はネットでの発信が便利です。イケてる作り手さんなどは引く手あまたで、店側からの引き合いと、ご自分でオンライン通販するのとで、事足りているはず。
だったら、売り込みたい人も、売り込む必要のない人も、どちらにせよです。まずは関わりを楽しむために。お店、作り手さん、お客さん。立場の違う仲間がいると、お互いに心強いものです。
無名が故、ギャップの少ない幸せなご縁が自分のお店にもたらされている成り行きは、本当にありがたく。
けれど願わくば、あと一声。これからは、創作初心者さんに、もそっと見つけてもらえたら嬉しいなあ…。
うーん、まずは己の売り込み下手をなんとかしなきゃ。
いかんともしがたい。
【つねまつあけみ・プロフィール】
大阪府堺市出身、在住。
2005年、絵本専門のギャラリー「ピクチャーブックギャラリーリール」を開店。2008年、文具だけを使って製本・豆本作りに親しむ紙工作キット「自分でくみたてる本seedbooks」企画、販売開始。2015年からは、情報サイト「関西ウーマン」で「女性におすすめの絵本」というテーマで毎月コラム記事を担当中。お店を始める前は、印刷物を作る仕事をしていました。
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