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ガリレオ新訳 Winnie-the-Pooh #0

ママへ

手と手をつないでやってきた
クリストファー・ロビンとぼく
この本を、ひざにのせてあげたい
おどろいてくれるかな?
気に入ってくれるかな?
こんな本が欲しかったのって、言ってくれるかな?
ママの本だから—
いつもありがとう

まえがき

もし、どこかで、クリストファー・ロビンのことについて書かれたもう一冊の本を読んだことがあるなら、かつてクリストファー・ロビンが白鳥を飼っていて(それとも、白鳥のほうがクリストファー・ロビンを飼っていたのかな?)、その白鳥のことを「プー」と呼んでいたのを覚えているかもしれないね。それはずいぶん前のお話で、わたしたちが白鳥にさよならをしたとき、「プー」という名前だけは連れてきたんだ。白鳥は、もう「プー」って名前はいらないだろうと思ったからね。さて、今度はクリストファー・ロビンのテディ・ベアが、「なにか、呼ばれたら嬉しくなるような、ぼくだけの名前がほしいなぁ。」って言ったんだ。すると、クリストファー・ロビンは、ちょっと考えてみるなんてこともしないで、すぐに「ウィニー・ザ・プーにしよう。」と言って、そういうことに決まったんだよ。さて、これで「プー」って名前の部分は説明したわけだから、次は残りの「ウィニー」の方のお話をしていくよ。

ロンドンにしばらくいれば、誰だって動物園に行きたくなるよね。世の中には、動物園に行っても、「入口」って書かれたはじめのところから歩き始めて、どの動物のオリもできるだけ速く通り過ぎてしまっては、「出口」ってところまで行き着いてしまう人もいるけど、本当に良い人というのは、まっすぐにいちばん大好きな動物のところに行って、ずうっとそこにいるものなのさ。だから、クリストファー・ロビンが動物園に行くときは、ホッキョクグマのところに向かうってわけ。そして左から3番目の飼育員さんに何かささやくと、ドアを開けてもらえるから、暗い通路や急な階段をクネクネと進んで行って、やっと、あの特別なオリの前にたどり着くんだ。そのオリも開けられると、のそっと出て来るのが、茶色いモコモコしたやつで—「やぁ、クマさん!」と嬉しそうな声をあげると、クリストファー・ロビンは、その腕の中に飛び込んで行くんだよ。で、このクマの名前が「ウィニー」って言ってね。だから、この名前が、どんなにクマにぴったりなのか、わかってもらえたでしょう。でも、おかしいなぁ。「プー」が先で「ウィニー」って名前をつけたんだっけ、それとも「ウィニー」が先で「プー」だっけ?前はちゃんと知っていたんだよ。でも、もう忘れちゃってね…

ここまで書いたところで、コブタのピグレットがこちらを見あげて、「ぼくのことは?」って、かん高いキイキイ声で聞いてきたよ。だから、「ねぇピグレット」と呼びかけて、「この本ぜーんぶに、君のことが書いてあるんだよ。」と答えてあげたんだけど、「でも、これプーの本なんでしょ?」って、キイキイ声ですぐ言い返してきたんだ。わかるよね。ピグレットはヤキモチをやいているのさ。この「だいじなまえがき」を、プーにひとりじめされたと思ってね。もちろん、プーはクリストファー・ロビンのいちばんのお気に入り。それを「ちがうよ」と言うことはできないけど、それでも、プーではいけなくて、ピグレットの出番になるようなこともたくさんあるんだよ。だって、みんなに気づかれないように、こっそりプーを学校に連れて行くなんてことはできないけど、ピグレットなら小さいから、するっとポケットに入れちゃうもんね。そして、「7かける2は12だったっけ、22だったっけ?」と、よくわからなくなったとき、ポケットの中のピグレットに触ってみれば、どんなに心が落ち着くだろう。ときどき、ピグレットはポケットからするっと抜け出して、インクつぼの中をじーっとのぞきこんだりもするから、そんなわけで、プーよりも高い教育を受けているってことになるんだ。もっとも、プーは気にしてないけどね。知恵を持つのもいるし、持たないのもいる、とプーは言うんだ。そういうものさ。

さぁ、他のみんなも言いだしたよ、「ぼくたちのことは?」って。だから「まえがき」はこのくらいにして、お話にとりかかる方が良さそうだね。

©翻訳: Hirohito KANAZAWA


英語原文はこちらから↓


Winnie-the-Pooh 新訳・解説プロジェクトについて

Winnie-the-Pooh (A. A. Milne, 1926)がパブリック・ドメインとなったことを受けて、「ガリレオによる新訳と英語解説」に着手していました:

その後、UCL留学などで数年単位で停滞していたのですが、本格的に再開させようと思い至り、noteに移転させて進めていくことにしました。それにあたり、本記事では冒頭の To Herと題された献呈の辞—むしろ献呈の—の翻訳を追加しました。

なぜ Winnie-the-Poohなのか?

ガリレオが初めて「1冊」読破した洋書といえば Harry Potter and the Chamber of Secretsですが、実はその前に高校2年の時の Oral Communication I(当時)の夏休みの宿題で、Winnie-the-Poohの Chapter 1 (In which we are introduced to Winnie-the-Pooh and some Bees, and the stories begin)を読んだことがあるのです。

つまり Winnie-the-Poohは、ガリレオにとって、「英語で原文を読んだ」という意味では記念すべき第一歩となった思い出深い作品。ラダーシリーズでは原文でも5段階で LEVEL 4(2000語レベル)の設定となっており、英語学習者にとって「はじめての洋書」としてオススメできるものです。

しかし、これは Winnie-the-Poohの英語が「簡単」であるという意味ではありません!

何しろ、第1章のはじめの方で、Christopher Robinは

'He's Winnie-ther-Pooh. Don't you know what "ther" means?'
「ウィニー・ザ〜ァ・プーだよ。『ザ〜ァ』ってどんな意味か知らない?」

と、英語学者ですらドキリとするようなことを聞いてくるし、プーさんのはちみつが honeyではなく hunnyなのも、発音とスペリングの対応関係を考えれば極めて「理にかなったミススペリング」であるし、第8章では North Pole(北極)を探して「棒険」に出かけるし…

英語学・言語学的な分析対象の宝庫であり、英語を読み解く力が増すごとに新たな姿を見せてくれる味わい深い作品のひとつとして挙げられるものでしょう。

UCL言語学修士での研鑽を経て、プロジェクト開始当時よりも更に英文分析の鋭さを増し、実際に「100エーカーの森」のモデルとなった Ashdown Forestにも足を運んだ上で、今改めて Winnie-the-Poohの英語と向き合い、その魅力を伝えていきます。

※ガリレオ研究室は Amazonのアソシエイトとして適格販売により収入を得ています。
※本記事掲載の訳は、推敲の上、加筆修正を施す可能性があります。

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