無風より何かしらの風を吹かせる
ある方の紹介で同じ業界の若い方のご縁をいただいた。
年齢は30代前半、近い将来、現社長の後を継ぐ後継者だ。しかしながらこれまたよくある話なのだが、将来の先行きに対して漠然とした不安を抱えているそうだ。
ここ数年の売上げも芳しくなく、テコ入れしようにも何から手をつけていいのやらといった具合らしい。私はこうした話を聞くたびに、数年前の記憶から実行した施策で効果のあった方法を引っ張り出してくる。
数年前の方法はモノによっては使い物にならないケースもある。しかしながら抽象度を上げて応用すればまだまだ効果が期待できるものだってあるのだ。
その一つが「賑わいを作る」といった方法。
自社の事業の中でもっとも簡単で低単価なものを売りまくる、という施策で、目的はあくまでも、外から見て人気があるという風な演出を施すのだ。
スーパーのチラシの特価品、パチンコ店のサクラの行列など、言い方は悪いが自作自演で人が集まるように設計するということ。
以前、あるビジネス雑誌に人気の蕎麦屋の記事が掲載されていた。蕎麦好きが高じ、脱サラをして蕎麦屋で修行、数年後念願の独立を果たすが、まったくもって客が来ない。味には絶対の自信があり、一度食べてくれればその美味しさに口コミが広がること間違いなし、とまで考えていたが店は相変わらずの閑古鳥。
料理人など技術を売りにする職種は修業時代、技術は習得できるものの、売ることに関しては教わらないことが多い。よって、技術はあるのにまったく売れないという現象は度々起こることなのだ。
そこで、その蕎麦屋の店主が実行したのが店の前にテーブルを置き、無料でそばつゆを試飲できるスタンドを手作りしたのである。
がしかし、その試飲スタンドもさっぱり反応がない。
ここでひとひねり演出を加えるとどうだろう、客がチラホラつゆを試飲しては吸い込まれるように店に入っていったという。
その演出とは、テーブルの脇に試飲した紙コップを捨てるゴミ箱を設置していたのだが、そのゴミ箱にあらかじめ多数のお客さんが試飲したかのように紙コップを無造作にいくつも捨てておく、というだけのことである。
誰かかが試飲した、それもかなりの数となると、試してみたいというという心理が作用する。その人の行動がまた人を呼び、味は間違いないということで、店に入っていく。
まさに賑わいを作るということだが、これが行き過ぎた演出やウソとなると悪質な行為となるが、心理的なハードルを下げ、商品を試してもらう施策は無料サンプルやフリーミアムなど、今でも現役で通用する手法である。
零細企業においてはあくまでも期間限定のカンフル剤として使うか、フロントエンド商品として、自社の本命商品までの導入として設計するかよく考えた方がいい。
賑わいを作ることはあくまでも本質的な売上げに貢献しない。それだけを単体で実行してしまえば、多忙を極めた結果、利益がほとんど残らないため潰れてしまうだろう。
とはいえ、広告などの認知活動をしてきた経験のない会社はまず世の中に知ってもらうというのが先決だ。地元で何十年と商売をしてきても何をやっている会社か知られていない、ということは往々にしてある。
若い方が不安を抱くことも理解できるが、その不安は成長の伸びしろである。不安をうまく行動に転化できれば追い風は必ず吹くだろう。
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