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LOCAL PRODUCE BOOK (13) 「事業化論_【その②】プランニング編」

続いて、具体的な起業や事業化の手法について書いてみたいと思います。

まず、事業化の流れですが、おおよそ以下のようなステップを踏みます。ここでは特に大事な【STEP①:構想段階】に絞って書きたいと思います。


この構想段階で必要なスキルとしては、「①プランニング力」と「②マネタイズ力」があると考えます。詳しく解説していきますね。


「やりたいこと」と「やらないこと」

プロジェクトについてアイディアを膨らませたり、プランニングをしている期間はとても楽しいです。色々できそう!と発想も拡散します。

一方で、いざ「どうやって稼ぐ?」「利益を上げる?」とマネタイズについて考え始めると、やるべきことはかなり絞られていきます。いくら楽しくても全くお金にならないことは(例外はあるが)普通は続けられませんよね。そうして、「やらないこと」も同時に決まっていくのですこの「やらないこと」を決めることが実は大切。

最初から現実的なことを考えて可能性を狭めるのも面白味がないですが、かといっていつまでも現実離れした夢について議論をしている余裕はない。「やりたいこと」を考える拡散フェーズと、「やらないこと」を決める収束フェーズを経て事業は筋肉質になりスリムになっていきます。


それでは、まず「①プランニング力」について解説します。


Will、Can、Mustで頭の中を整理する

どんな事業をつくろう?どんな仕事で起業しよう?そんなプランニング段階において、フレームワークを使うと、頭の中をクリアに整理できます。

研修では以下のようなシートを提供していますので、それに習って説明します。別の章でも登場しましたが、①Will:やりたいこと、②Can:できること、③Must:すべきこと(周囲の課題、ニーズ)の3つの円を用いましょう。それぞれの領域を書き出していきながら、起業 or 事業の方向性を探っていきます。

それぞれを書き出すポイントは上記の通り


まず僕の場合を紹介します。Willには地域の文化の発信や継承などの自分がしたいこと、Canはこのnoteで書き出してきたようなプロデューサーとしてのスキル、そしてMustは、遠野市や岩手県、または周囲のニーズを書き出しています。

書き出した3つの円の内容から新たな事業の方向性を考えると、「地域事業者向け企画・デザイン業」「ローカルプレーヤー向けの研修事業」「岩手や遠野の深い文化を体験できる機会の創出」が導かれる、という流れです。

この段階はまだプランニングフェーズなので、実際にこれがお金になる事業化は分かりませんが、まずはこうした方法で大まかな方向性が見えてきます。まずはやってみましょう。

事業をつくる際、Willきっかけでも、Canきっかけでも、Mustきっかけでもいいと思いますが、それぞれの円を掛け合わせながら、何ができるだろうと考えることが大切かと思います。


具体的なプロジェクト例を紹介します。
僕のWill「地域文化の探究・活用・継承をしたい」をきっかけとした事業化についてです。現在は、様々な方から依頼を受けて、地域文化をテーマにしたツアーやフィールドワークを企画したり、研修の受け入れなどを行ったりしています。そうした事業ができる直前の話です。

「地域文化の探究・活用・継承をしたい」というピュアな思いで活動を始めたものの、前回ご紹介した「地域おこし協力隊」としての3年間の任期が終わる頃になると、「楽しいけど、これいつまでもボランティアではできないなぁ…」と思うようになり、どうやったらこの文化領域で利益を上げることができるのだろう?と考えるようになりました。

そんな中で、様々な事業の方向性を探っていきます。
まず、WillとCanを掛け合わせること。プランニングとプロデュースのスキルを使い、様々な企画をしたり、お土産をプロデュースしたり、本の出版をしたり、また人材の育成をしたりして事業化を模索していきました。この試行錯誤は今も続いています。文化で稼ぐってなかなか難しいです。


次にWillとMustを掛け合わせてみます。周囲はどんなニーズを抱えているか、それにアンテナを張ってみるわけです。遠野市、岩手県、アーティスト、クリエイターのニーズを探りながら、それに応える形で利益を上げることができないか探っていきます。

Mustを把握するポイントは、これまで自分に対して依頼のあった仕事の内容、人、組織の傾向を丁寧に紐解いていくことです。すると、自分に対して周囲がどんなニーズを持っているかが見えてきます。まだ見ぬ大きなマーケットを調べるよりも、すでにお客さんになってくれている人の特徴をもう一度丁寧に調べてみると色々と見えてくるものがあるものです。※絶対数が少ない場合はあまり意味をなさないので注意

Willきっかけで始まったプロジェクトも、こうしてCan「できること」やMust「求められていること」と掛け合わせることで、事業化の種が見えてきます。


なお、こうした3つの円を使うと、綺麗に中心になる部分に重心を持ってきたくなるものですが、手堅く事業化を始める場合は、重心はやや低い方がいいです。

ローカルでは「(都会ではできなかったような)自分らしい暮らしをしてみたい!」「自分らしく働きたい!」という、想い(Will)先行でプロジェクトを始める人が多いものです(僕もそうでした)。

もちろんそれ自体悪いことではありませんが、いつまでも想い先行では疲弊するし長続きはしません。むしろ、何かの技術(Can)を駆使したり、周囲のニーズ(Must)にまずは応える形で仕事のベースを作り、その後に自分のやりたいこと(Will)を伸ばしていく方が堅実な進め方だと言えるでしょう。

僕も以下の図のように、「企画・プロデュース事業」や「研修事業」を事業のベースにしながら、少しずつ自分が本来やってみたい取り組みを伸ばしているようなイメージで活動しています。


話は変わりますが、地域の文房具店やランドセルなどを売っている衣料店が、いつ見てもガラガラなのに、なんで潰れないのだろう?と長らく疑問でした。
しかし、話を聞いて分かったのですが、表向きはお客さんが入っていなくても、連携している学校から定期的にまとまった発注があるため、その仕事で成り立っているそうなのです。あとは不動産を持っていて家賃収入がある、という話もよく聞きます。

つまり、表向きの商売(例えばランドセルを売ること)と、実際にキャッシュを得る商売(体操着など学校からのまとまった発注や家賃収入)は別の場合があるということです。これは事業化を考えるとき、だいぶヒントになりました。自分が事業を立ち上げる際や商品を売る際、(もちろん全て売れて欲しいですが)どれがしっかり稼ぐ事業で、どれはそうでない事業(例えば広告的な取り組み)かをクリアにしておくといいと思います。


Canは大切。だけど、自覚しづらい。

なお、Will、Can、Mustの中で、自分を最後に助けてくれる頼みの綱は「Can」だと思っています。
どんな仕事でも、基本的にはスキルが対価を生みます。料理人は料理人のスキル、営業は営業のスキル、農業も農業のスキルが必要だし、デザインにはデザイナーのスキルが必要。丁寧に作業をする、ホスピタリティがある、というのもスキルだといえるでしょう。

ただ、「あなたのスキルはなんですか?」と聞かれてパッと答えられる人は少ないものです。「いや、自分なんて大したことないです…」「自分にスキルなんてないです…」という回答をしてしまう人が多いのではないでしょうか。

そう、Canが大事と言ったものの、最も自覚しにくいのもCanです。

そういう僕も、独立する際、「富川のスキルって何?」と先輩に聞かれた時、言葉に詰まりました。自分では自分のスキルが全く自覚できていなかったのです。

しばらく悩んだ挙句、「結婚式の余興のムービーを作ることぐらいでしょうか…」と真顔で答えていました。広告代理店で様々なスキルを身につけていたにも関わらず、相対的に見たときに、対価を得られるほど自分にプロデュースのスキルがあるとは到底思えなかったのです。
この "Canが見えない問題" は誰でも落ちる落とし穴なので、誰か信頼できる人と対話をして、自分のスキルや技術を可視化してもらうことを強くオススメします。人の特長は、自分より他人の方がよく知っているものです。


さて、そんなCan(≒スキル)を作るためには、色々ポイントがあるのでご紹介します。

一番大切なのは、以下①にある通り圧倒的に量をこなすことですが、最近は、大学を卒業して社会人経験を経ずにローカルにすぐに入ってくる若い方々を見たりする中で、②と③が大事だと考えています。
早い年齢からフリーランスでやることももちろん素晴らしいことだと思いますが、ある程度の期間は、誰かきちんとした教育やディレクションをしてくれる人の下について修行する期間があった方がいいと思っています。「守・破・離」という言葉もある通り、ある程度、型を身につけないと破るものも破れません。ある程度のクオリティに引き上がるまでは、しっかりと教育を受けた方がいい気がします。

自分の経験を振り返っても、自分が成長できたと思った瞬間は、どうにもならないという追い込まれた状況や、緊張感のある相手とやり取りした時だった気がします。プレッシャーがかかる中で何かを乗り越えた時、人は成長するものです。そういう意味でも、誰か超えるべき相手の下にいる期間が実は成長している期間なんじゃないかと思います。

僕が20代の頃、若くから活躍している同世代のプレーヤーを見てジェラシーを感じて凹んでばかりいましたが20代のうちにしっかりと仕事の基礎筋力を鍛えてもらったことで、30代になってから成長できたと思っています。

ローカルにいる若い方々は、同じ地域で「この人から学びたい」と思える人がいたらその人の下でしっかりと学ぶことをオススメします。そうした人が地域にいない場合は、別の地域でも、オンラインでも探し、自腹でお金を払ってでも会いに行ってほしいなと思います(僕も視察はよくします。モチベーションめちゃ上がります)。若くから活躍している人が眩しく見えすぎるSNS社会ですが、地道にスキルを磨き、30代から勝負しても遅くはありませんよ。

ちなみに、スキルのない状態でローカルに飛び込んでしまうと、声が大きく権力のあるオジサンたちにマウントを取られて、「ただの元気のいい若者」というレッテルを貼られ、なかなか自分のやりたいことを実現するのが難しくなってしまいます(僕もそういう風に見られ悔しい思いをしました)。せっかく移住したのに地域の中で消費されてしまうのは勿体ないですよね。

また、ローカルで外から人を受け入れる側になって思ったのですが、ローカルでは、マネジメントに専念できず、どうしてもプレイングマネージャー的になってしまうため、誰かにじっくりと時間をかけて教育する余裕はありません(地域の大きな会社であれば別かもしれませんが)。それ故に、ある程度のスキルや社会人経験をつけて地域に入ってきてもらわないと、地域側にとっても負担になってしまうのです。
たまに「大学を卒業したら、すぐ地域活性の仕事をしたいです!」と相談をもらうこともありますが、そんな時は大体、「まずしっかりと教育してもらえる、鍛えてもらえる都会の会社に行って、スキルやネットワークを身につけてからローカルに入った方がいいよ。そうしないと、やりたいこともできないし、地域側も負担になるんだよ」とアドバイスをしています。

参考:大学のキャリア論で話している内容です。"東京"は本当に東京でもいいですし、それなりの教育をしっかりとしてくれる環境のことを指すための、概念的としての"東京"と捉えてもらえればと思います



少し横道に逸れましたが、先ほど導いた事業の方向性をより具体的にするために、以下のようにいつもの企画フレームに落とし込んでみましょう。
誰に、何を、どのように、どうなってほしいのか?を使うことで、事業がさらにクリアになります。


なお、ここでもやっぱり「誰に」というターゲット設定が大切です。顧客については、事業を実際に始めないとなかなか把握できないところもありますが、あえて挙げるとすると、
①「一番それを喜んでくれて、強いファンになってくれるのは誰か?」というポジティブな理由から顧客になってくれる場合と、
②「一番それを求めていて、すぐにでもその課題を解決したい人は誰か?」というネガティブな理由から顧客になってくれる場合があります。

補足:「課題の質」についてはだいぶ昔にどこかで得た知識だと記憶していますが、詳細を失念してしまいました…ごめんなさい


例えば、僕が提供してきた研修プログラム「考えて動かす学校」は、地域おこし協力隊からのニーズが最も高いのですが、理由を考えると、先ほどの②「一番それを求めていて、すぐにでもその課題を解決したい人は誰か?」に該当するからなのかもしれません。皆さんも事業におけるターゲットについて、動かしながら色々と考えてみてくださいね。


以上、プロジェクトのプランニングでした。
どうでしょう?事業や起業の方向性が見えてきたのではないでしょうか。さて、次回はいよいよ最終回です。自分で考えたプロジェクトや事業で、どうやって稼ぐのか?「マネタイズ」について書いてみたいと思います。今回もここまで読んでくださり、ありがとうございました。





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