見出し画像

現実は禁止?高校生のバイト割合【教育学】

 勉強も遊びも部活もバイトも頑張る、充実した高校生活といえばこんなイメージではないでしょうか。しかし、多くの高校生にとって現実味がない、フィクションのように思えるでしょう。特にバイトはそもそも禁止という高校が多いです。
 高校はバイトを認めるか判断をすることはあっても、バイトや労働に関して指導することはあまりありません。ましてやバイト禁止の高校では、労働や働く同年代の人のことはほとんど知らないまま過ごします。
 バイトするにしてもしないにしても、労働について知っておくことは大切です。また大人も、高校生のバイトを禁止・否定するにしても、高校生の現状を知った上で判断し助言する必要があります。
 今回は、高校生バイトの現状と、高校生のバイトがどう論じられているのかを整理します。


1.バイトしている高校生は約2割

 高校生の労働については全員を対象とした調査がなく、正確な実数は不明です。しかし、以下に紹介するいくつかの調査から、高校生のおおよそ2割がバイトをしていると推定されます。
 2020年、1738名が回答したマイナビのネット調査(文献①)では、バイトをしている高校生が19.4%でした。なお、大学進学希望者では14.6%と割合がやや下がります。勤務日数は平均週3.0日、勤務時間は平均3.6時間、バイト就業者の部活所属率は40.1%(非就業者は48.4%)となっています。この調査は2019年から毎年行われており、例年同じような結果が出ています。高校生の2割が平均週3で3~4時間くらいバイトをしている、ということです。 
 また、2016年に沖縄県立高校全60校で2年生の保護者4383名が答えた調査では、子どもがバイトしていると回答したのは21.5%でした(文献②)。この調査は2016年の沖縄県立高校全生徒数14578人の50%を対象としており(回収率60.1%)、今回参照した調査の中では最も全数調査に近いものとなっています。ほぼ同条件の2019年調査では24.3%、2022年調査では24.5%でした(文献③)。
 さらに、2019年に国立教育政策研究所が行った全国の高校3年生の保護者に対する調査では、子どもがアルバイトしている割合は17.6%でした(文献④、回答数2817名)。回答者の子どもには大学進学希望の人が91.9%と多く、他の調査よりバイトしている割合がやや低くなっています。この調査では家庭の収入が上がるほど子どものバイト率が下がることも示され、年収400万円以下では27.4%、1050万円以上では7.1%でした。

 世界規模の調査もあります。2015年の国際学力調査PISAでは、高校1年生に対して「調査の前日、始業前または放課後に有給で労働したか」を質問し、日本では8.1%がしていると回答しました(文献⑤)。前述のマイナビの2019年調査を参考に、バイト勤務日数を平均週3日とすると、働いている割合は18.9%と推定されます。なお、同じ質問に対してブラジルでは43.7%、アメリカ30.4%、ドイツ17.9%、台湾12.3%などとなっており、日本の8.1%は世界的に低い割合でした。
 以上の様々な調査を見ると、高校生のバイト割合はおおよそ2割とみられます(※1)。
 
 なお、学校の長期休業期間中のみなど短期を含めた高校生のバイトの経験率はもう少し上がります。先述のマイナビ2020年調査では37.1%(文献①)、沖縄公立高校2年生2022年調査では32.2%でした(文献③)。また、2020年公立全日制高校を対象とした国立青少年教育振興機構の調査では、高校2年生のバイト経験率は30.0%でした(文献⑥)。短期を含めると高校生の3割くらいは1度はバイトを経験するということです。

2.学校や地域で大差 ~ほぼ0から8割超まで~

 働く高校生は2割と聞いて、「そんなにいない」と思われた方、逆に「もっと多いのでは」と思われた方もいるでしょう。学校が認めているかの違いは大きいですし、地域に高校生の労働する場があるかどうかも差があります。
 個別の高校に焦点を当てた調査では、全国平均とは違った結果が見られます。2012年釧路市の1高校を調査した研究では、44.4%の生徒がバイトをしていました(文献⑦)。また、2010年名古屋市内12高校で行われた調査では、バイトをしている割合が0%の学校から69%の学校まであり、定時制では83%という学校もありました(文献⑧)。同一地域内でも、高校の方針等によってバイトしている割合は大きく異なります。 
 基本的には、主に大学進学を目指す進学校といわれる学校でバイト割合が少ない傾向にあります。2007年東京都の普通科9高校で行われた調査(文献⑨)では、大学進学率6割以上の3校で平均8.8%、進学率4-6割の2校で51.6%、進学率4割以下の4校で50.4%となっていました。また、2019年に国立政策研究所の調査(文献④)では、偏差値(※2)が高い学校ほどバイト率が下がることが示されました。 
 また、都会であれば労働需要も多く高校生が働ける場所も多いため、都市部の方がバイトしている高校生が多い傾向にあります。2004年11-12月ベネッセが高校1・2年生に実施した調査(文献⑩)では、バイト経験者の割合が大都市で28.8%、中都市で8.9%、郡部で11.5%でした。もちろん、都市部の学校でもバイトを禁止している所もあるので、多いのはあくまで傾向の話です。

 なお、高校生がバイトする主な職種は、飲食店かスーパー・コンビニなどの販売店です。2016年1854名が答えた厚労省の調査(文献⑨)によると、多いのが飲食店31.5%、スーパー22.6%、コンビニ14.8%となっています。先述の2019年マイナビ調査では、飲食(接客調理+販売)が49.2%、スーパー・コンビニが26.5%でした(文献①)。飲食店とスーパー・コンビニの比率は両調査で異なりますが、高校生の主要なバイト先が飲食店とスーパー・コンビニであることは確かです。
 しかし、主に周辺の高校がバイトを認めていない地域では、こうした業種でも「高校生不可」となっている場合が多いです。ただ、そうした環境にいる高校生でもなんとかバイトしている場合もあります。周辺の大手チェーンは高校生不可、電車等で都市へ行ける交通網もない地域でも、個人経営の飲食店でこっそり働くといった事例は多々あります。

3.法的には認められているが…高校生の労働をめぐる議論

 法律で高校生の労働が禁止されているわけではありません。各学校単位で禁止しているのが実態です。
 労働基準法では満15才を迎えた以後の3月31日は終わるまで、つまり義務教育が終わるまでは、特例を除き原則雇用できません(56条)。それ以降の満18才未満では、時間外労働や休日労働が認められないなど成人との条件の違いはありますが、雇用は認められています。つまり、高校生は年齢的にはバイトが可能です。
 しかし、各学校で制限・禁止することは合理的という判断が通例となっています。
 高校生のバイトに関しては、統計も断片的なようにあまり体系的な研究が行われていません(文献⑨p.167)。ただし全くないわけではなく、1990-2000年代には高校生の進路意識やフリーター化(文献⑦p.25、※3)に関連付けた研究、2010年代からの貧困に焦点を当てた研究がいくつか行われています。しかし、よく言われるバイトが社会経験になるという点はしっかりと検証されていません(※4)。世界的にも、学生の労働に関しての意見は一致しておらず、職業体験が責任感など将来だけでなく学習にも役立つ特性を身につけられると考える人も、学習への集中や時間が少なくなると考える人もいます(文献⑤、p.216)。
 
 禁止の是非を置いたとしても、思考停止で禁止するのではなく高校生と労働の関係をもっと考えるべきでしょう。高校生は「無知で安価な労働力」として利用されやすく、2016年厚労省の調査ではバイトする高校生の60.0%が労働条件通知書等を交付されていない、32.6%が何らかのトラブルがあり中には賃金の不払い等もあることが公表されてます(文献⑨)。バイトする高校生はもちろん、今はバイトしていない高校生も将来様々な形で働きます。高校生の現在と将来、どちらのためにも進学校でも労働をタブー視せずに向き合う必要があります。

【注釈】

※1 なお、総務省『就業構造基本調査』(文献⑫)を基にした高校生のバイト率の分析(文献⑬)もあるが、数値に実態との乖離が大きいと考えられるため今回は他の調査を参照している。
 当分析は「男女,年齢,就業状態・仕事の主従,教育,求職活動の有無別15歳以上人口」の「在学者」「高校」の欄を参照している。2012年でバイト率が全国で5.5%と、他調査と比較して著しく低い割合となっている。沖縄県で7.9%となっており、沖縄での全数調査により近い文献②の21.5%と乖離していることや、宮崎県の男子・秋田県の女子で0.0%となっている等、実態にそぐわないものと考えられる。
 『就業構造基本調査』は総務省の基幹統計ではあるが、全数調査ではなく全国約50万抽出世帯に対して行われる。他の統計とのズレの要因は明らかではないが、高校生サンプルの不足や世帯という単位での調査が影響しているのかもしれない。
 なお、高校生のアルバイト割合に関しては、統計によって大きな差異が見られることは1970-90年代の調査から見られる(文献⑭)。

※2 この調査での「偏差値」は「高校偏差値.net」と「高校受験ナビ」の2インターネットサイトの平均値を参照している(文献④ p.10)。大規模模試データを有する大手塾が算出したものではなく、どこまで実態を反映しているか疑問であるため、あくまで参考程度のデータとして捉えている。

※3 校内暴力や学校不信が問題となった80年代には、学校不信の一つの形としてバイトが挙げられ、以下のように進路上の問題として否定的に捉えられている。

 学校で生きがいをみつけられないものが、アルバイトのなかでそれをみつけているのではないか、学校で八方ふさがりになったものが、アルバイトをつうじてそこからの脱出口を発見して、高校を中退していくのではないか と思われる。こうした傾向は、中学卒業時点で、高校進学、サラリーマン志望を拒絶し、職人、底辺重労働者を志望する非行少年たちにも顕著である。
 しかし、就職してしまうと、仕事はアルバイトほど楽しいものではない。 いや、それどころか仕事は勉強同様につらい。だから、かれらは離職転職をつづける。

出典:文献⑮1985年、pp.22-23

※4 ただし、高校時代のバイト経験が職業の役に立ったと解釈する人は少なくない。2010年に23-27才5576名から回答を得た職業に関する調査では、「現在の職業生活に関係のあったと思うこと」(高校生の頃)の自由記述で705名が「アルバイト」の語を記述しており、以下のように考察されている。

 では、【アルバイト】の経験は現在の職業生活にどのように関係しているのだろうか。(中略)その記述を見ると、高校生の頃をもっとも関係があると答えた人も大学生の頃がもっとも関係があると答えた人の多くは、【アルバイト】の経験と現在の職種や職業上の特徴との関連を見出だし、それが現在の職業生活に生かされていると【アルバイト】の経験を解釈していることが理解できる。このような意味で【アルバイト】 という経験は《キャリア教育》の一翼を担っている。

出典:「学校時代のキャリア教育と若者の職業生活」2010年、p.102(文献⑯)

【参考文献】

①株式会社マイナビ 社長室 HRリサーチ部 アルバイトリサーチチーム『高校生のアルバイト調査』2020年
②沖縄県子ども総合研究所『沖縄子どもの貧困実態調査事業・報告書』2017年
➂沖縄県『令和4年度 沖縄子ども調査 高校生調査報告書』2023年
④濱中義隆『高校生の高等教育進学動向に関する調査研究 第一次報告書』国立教育政策研究所、2021年
⑤OECD "PISA 2015 Results (Volume III):Students’ Well-Being" 2017
⑥国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度調査)報告書』2021年
⑦中囿桐代「高校生アルバイトの労働実態と学校生活 『子ども』 ではいられない高校生たち」『教育学の研究と実践』7、pp. 25–34、2012年
⑧小島俊樹「拡大する貧困層世帯の高校生とアルバイトとの関連性」『人間文化研究』15、pp. 179–192、2011年
⑨宮本幸子「アルバイトが進路志望に与える影響 ―性別の違いに着目して―」『都立高校生の生活・行動・意識に関する調査報告書:学校外の活動と社会観』ベネッセ教育研究開発センター、pp. 167–176、2009年
⑩ベネッセ教育研究開発センター「第1回子ども生活実態基本調査報告書 [2004年]」2005年
⑪厚生労働省「高校生に対するアルバイトに関する意識等調査」2016年
⑫総務省統計局「平成24年就業構造基本調査」2013年
⑬舞田敏彦「データえっせい:都道府県別の高校生のバイト率」2014年:http://tmaita77.blogspot.com/2014/12/blog-post_7.html (参照 2023年7月17日)
⑭長尾由希子「高校生アルバイトの量的推移に関する一試論」『東京大学大学院教育学研究科紀要』42、pp. 159–168、2002年
⑮竹内常一「中・高校生問題の本質」『教育学研究』523、pp. 271–279、1985年
⑯西村公子・下村英雄・高久聡司・川﨑友嗣「学校時代のキャリア教育と若者の職業生活」『労働政策研究報告書』125、2010年

★過去の教育学解説記事一覧



専門である教育学を中心に、学びを深く・分かりやすく広めることを目指しています。ゲーム・アニメなど媒体を限らず、広く学びを大切にしています。 サポートは文献購入等、活動の充実に使わせて頂きます。 Youtube: https://www.youtube.com/@gakunoba