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学校で教えない教育のこと【教育学】

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疑問こそ学びの原点なのに、学校の決まりや文化に関する「なぜ?」に、学校はほとんど答えてくれません。疑問や悩みに少しでも答えたい、そして疑問を大切にする人が増えてほしいと思い、教育… もっと読む
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記事一覧

スラング「スクールカースト」を整理する:序列意識はあっても”カースト”ではない【教育学】

 「スクールカースト」は2000年代に使われた俗語です。学校での生徒間の固定的な序列を示します。①序列(≒身分)が上の者は下の者を見下す、②仲間集団(グループ)は同じ序列の者同士で形成される、③学校・教室では誰がどの序列か共通見解がある、という捉え方です。  しかし、実際には学校の人間関係の形は多様です。階級意識ともいえる序列意識が明確にある場合も、「上位」か「下位」かなど何となく二分されているくらいの感覚の場合も、序列意識がない場合もあります。生徒の人数や地域の環境、学力な

研究者情報サイトの「所属」の見方 ~名誉教授は所属?~【KAKEN】

 現代は、一般の方でも研究者の情報を簡単に得られます。「KAKEN」や「researchmap」といったサイトでは、現在と過去の所属や研究行政が公開されています。「KAKEN」では所属に「大学, 学部・研究所等, 役職」の順で記されます。  そうしたサイトを見た際、経歴に隙間がある場合がよくあります。例えば、以下の例ならば2012~13年度、そして2017~22年度の所属は記されていません。しかし、これは「所属なし」だったことを意味しません。  今回は研究者情報サイトにおけ

「主体的に学習に取り組む態度」の付け方と問題点【内申点】

 通知表には成績の数字「評定」と、各項目のABC「観点別学習状況の評価」が記されています。過去、ABCは評定のおまけ程度の扱いで、多くの場合は結局定期テストの結果で評定が決まっていました。  しかし、現在の中学校ではABCの項目を無視することはできません。各項目の評価を基に、合計して評定が出されます。その際、3項目はバランスよく考慮される必要があり「主体的に学習に取り組む態度」を無視して評定をつけることはできません。(詳しくは以下の前回記事をご覧ください)。  今回は「主体

通知表の評定とABC(観点別学習状況の評価)の関係【内申点】

 通知表には成績の数字「評定」と、各項目のABC「観点別学習状況の評価」が記されています。評定は多くの場合、入試に使われる点数「内申点」になります。過去、ABCは評定のおまけ程度の扱いでした(過去の評価については、以下の記事をご覧ください)。  ところが2002年の絶対評価導入以降、評定とABCが関連づけられるようになりました。特に小学校2020年度・中学校2021年度から実施の学習指導要領で「観点別学習状況の評価」が4項目から3項目になったのを受け、3項目の平均から評定を

自称進学校:スラング”自称進”には高校普通科教育の閉塞感が凝縮されている【教育学解説】

 「自称進学校」というスラングをご存知でしょうか。主に高校生が自身の通っている高校を自虐的に批判する際に使われます。「学校・教員は"進学校"と称しているが、実態や実績は”進学校”と呼ぶに値しない」と生徒が考える時にこの語が使われます(現在は転じて他虐にも使われることはありますが、元は自虐表現だと思います)。  筆者が高校生だった2010年頃には高校の中で自虐的に使われていました。Twitterを検索すると用例が2009年から増えており、恐らく2009年頃に広まったと考えられま

卒業論文は「論文」ではない? ~卒論の目的と社会的価値~【大学教育】

 多くの大学生は最後に卒業論文に取り組みます。卒論とレポートは違うんだと散々言われ、厳密に決められた様式と期日を守り、苦心の末に完成させます。しかし、提出後の卒論の扱いは多くの場合「論文」とは言い難く、二度と日の目を浴びずそれっきりという場合が大半です。昔はともかく、情報の保存や共有の手段が多彩な現代でも、過去の卒業論文の閲覧はほぼできません。せっかく学術的活動を行ったのに、その後の学術の発展に一ミリも寄与しないのは悲しい所です。  今回は卒業論文とは何なのか、論文と呼べるの

高校生とバイトの歴史・統計【教育学】

 以前、こちらの記事で、様々な統計から高校生のうち(定期的に)バイトをしている人の割合は、地域差が非常に大きいものの全体ではおよそ2割と紹介しました。  では、昔はどうだったのでしょうか。学校教育制度上あまり真剣に議論されてこなかった高校生のバイトについて考える一つの材料として、高校生とバイトの歴史を過去の統計を紹介しながら見ていきます。 1.戦後:新制高校制度、「アルバイト」の語の普及  現在の高校は義務教育を終えた次の段階、大学の前段階という位置づけです。戦前の制度

高校生のバイトと生徒指導:非行・校則・キャリア教育【教育学】

 以前、こちらの記事で、多くの高校がバイトを禁止する理由を行政の見解を基に解説しました。校則でバイトを禁止する、あるいは許可制の際に判断するのは、校務(学校教員の業務)の中で言えば主に生徒指導にあたります。  ところが、教員免許取得の課程において、高校生のバイトに関して考える機会は皆無です。現在、生徒指導の大きな指針である『生徒指導提要』(文献①)にもバイトについては記されていません。教職の授業において高校でバイトをどう指導するか考える機会は皆無で、私自身教免(中高国語)取

高校生のバイトは社会経験になるのか:過去・現在の意見を整理する【教育学】

 以前、こちらの記事で、多くの高校がバイトを禁止する理由を行政の見解を基に解説しました。生徒の保護と学業時間確保が主な理由でしたが、バイトをする意義については行政の見解では言及されていませんでした。  世の中には、バイト経験で得るものは大きいという意見も、大したものは得られないという意見もあります。もしバイトが高校生に良い学びを与えるならば、一律禁止ではなく、リスクや弊害を減らしてバイトできる環境を整える方向性が必要になります。  実際には、すべき/しないべきという両極端で

侮蔑のスラング「義務教育の敗北」~意味・対象と教育観の考察~【教育学】

 「義務教育の敗北」は2010年代後半から使用が増えたスラングです。意味は定まっていませんが、主に小中学校で身につけるべきと話者が考える知識や価値観が欠如している他者を侮蔑する際に使われます。  この語は一般に広く普及している語ではありません。筆者が学生に尋ねると、この語を知っていた人は1割程度でした。しかし、SNSや動画サイトで度々用いられるスラングであり、語感の良さから安直に用いられる、そして使用者の教育に対する価値観(教育観)を反映した語です。聞いた者の教育観に影響を与

学歴とは何か・なぜ使われるか(学歴の意味・理由) 【教育学】

 学歴(=学業上の経歴)はよく使われる言葉です。大切だとも意味がないとも言われますが、社会において影響力があることは確かです。  しかし、「学歴」が指す意味は人によって微妙に違います。話者間の認識の違いにより話が噛み合わないことが多々あります。「ある国は学歴社会だ(学歴が社会的立場を決定する社会だ)」という話は、学歴の見方によってそうだともそうでないとも言えるものです。学歴とは何か、なぜ使われているのかを知らずに学歴の是非を考えても仕方ありません。  今回は学歴について、主に

内申点・評定の歴史:なぜ相対評価が2001年まで使われたのか

 通知表に記載される評価「評定」、俗に内申点と言われる数値です(なお後に出ますが厳密には違います)。そのうち、実際に影響力があるのは高校入試で使われる中学校の評定です。  最高5~最低1の5段階で、現在は学習の達成度によって数値が決まります(絶対評価)。しかし、2001年までは生徒の集団内の順位で決まっていました(相対評価)。成績順に上位7%に「5」、次の24%に「4」、次の38%に「3」、次の24%に「2」、残り7%に「1」を割り当てるのが通例でした。この制度は、仮に集団内

「運動会の目的」の歴史 ~体育奨励・地域の祭り・規律忍耐・民主的協同~

 運動会は何のためにするのでしょうか。その答えは先生や学校ごとに違います。ハッキリ答えられない人も多いです。  運動会・体育祭は殆どの小中学校で実施されます。現在の学習指導要領上は特別活動として「集団行動の体得、運動に親しむ態度の育成、責任感や連帯感の涵養、体力の向上などに資する」体育的行事を行うと記されています(文献①)。別に運動会である必要はなく、球技大会やマラソン大会を行うだけでもよいのです。  それでも運動会が全国の学校で行われている理由は、歴史から見えてきます。そし

読書感想文の歴史と問題点:本を読んで成長した物語を書く作文【教育学】

 夏休みの宿題の定番である読書感想文。意味がない・かえって読書が嫌いになるなど様々な批判を受けていますが、こうした批判は半世紀以上前からあります。  批判を受けながら、なぜ続いているのか。歴史を見ると、読書感想文は感想というより自分について書く作文であるといった特徴や、問題点が見えてきます。 1.1955年全国コンクールから広まった読書感想文  読書感想文は、1955年に現在も続く読書感想文全国コンクールが始まったのを機に広まりました。教員有志による団体である全国学校図書