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高校生のバイトと生徒指導:非行・校則・キャリア教育【教育学】

 以前、こちらの記事で、多くの高校がバイトを禁止する理由を行政の見解を基に解説しました。校則でバイトを禁止する、あるいは許可制の際に判断するのは、校務(学校教員の業務)の中で言えば主に生徒指導にあたります。

 ところが、教員免許取得の課程において、高校生のバイトに関して考える機会は皆無です。現在、生徒指導の大きな指針である『生徒指導提要』(文献①)にもバイトについては記されていません。教職の授業において高校でバイトをどう指導するか考える機会は皆無で、私自身教免(中高国語)取得において一度も考える機会はありませんでしたし、少なくとも教職課程の教科書や教職課程の授業実践研究レベルでは見聞きしたことがありません。(もしそのような教職の授業を経験された方・教員養成課程の授業実践例をご存知の方は情報をいただけると幸いです)
 高校教員は学校現場に入って初めて、高校生のバイトに対応する必要が出てきます。これでは、他校の状況も俯瞰できず先輩教員の前例を踏襲するしかない、という教員が多くなるでしょう。
 高校で生徒指導としてバイトをする/しようとする生徒に向き合う必要があるのは現代に限った話ではありません。生徒指導におけるバイトは今までどう考えられてきたのか、これまでの国・教育委員会・教員・研究者などの見解を整理していきます。


1.生徒指導上の問題行動としてのバイト

 高校生のアルバイトに関する見解はそもそも多く記されていませんが、生徒指導上で現れる問題行動の一つとして記述が見られる教育の専門書が戦後すぐからあります。

症状はただ一つの原因によつてのみ発現するものではない。例えば生徒がアルバイトを求めているという症状は、家計の困難という原因にのみよるものではなく、真の原因は他の原因に基づく成績の不振にあるのであつて、成績の不振を隠蔽せんとする無意識的な努力が家計の困難という口実を作為せしめたに過ぎない場合もあるであろう。

出典:沢田慶輔「指導概論」1950年 p.23(文献②)

 文部省(現文科省)も1966年に、生徒指導上の問題行動の一例としてアルバイトを挙げています。当時から家庭の経済事情により特例的に認めることはあっても、基本的には望ましくないという姿勢だったようです。

休業日中のアルバイトについては、人がやるから自分もやるといった安易な考え方によって行われることが多い。アルバイトをしなければならない場合などには、その意義を考えさせ、健康・安全について配慮し、アルバイトの報酬が浪費癖の原因となったというようなことにならないよう、細心の指導をすることが必要である。

出典:文部省『生徒指導の実践上の諸問題とその解明』1966年 p.179(文献③)

2.バイトと非行(犯罪行為)

 バイトを認めたくない理由として、高校生のバイトが非行(犯罪行為)に繋がるという指摘が昔からなされています。以下は、1968年に家庭裁判所調査官が記したもので、ローティーンと記されているので中学生が年頭ですが、青少年のバイトが非行に繋がるという認識が記されています。

 アルバイトといえば、ローティーンの非行にアルバイトが関係ある場合が少なくない。ことに、長い夏休みなどは、そうでなくても子どもたちの生活の規律がくずれ、非行の芽が育っている場合があり、それが休暇明けとともに、具体的な形として現われやすく、むだ使いを覚えたり、遊びに行った海や山でよくない友だちを得たりして、新しい経験をし、その惰性をそのまま新学期に持ち込みがちである。新しい経験の中に、アルバイト経験が含まれることも多い。
 先年、私たちが東京家裁で、非行を犯して家裁に事件送致された都内の中学生百人について、アルバイト調査をしたことがある。その結果、「アルバイトをしてよかった」と答えた者が五分の三、「悪かった」と答えた者が五分の二あった。そして「悪かった理由」としては、「金使いを覚えた」「悪い友だちと知り合いになった」「犯罪をやる動機となった」などの項目に該当者が多かった。

出典:大塚雅彦『非行を見る : 家裁調査官の訴え』1968年 p.20(文献④)

 高校生のアルバイトと非行の関係は、2002年に高校2年生を対象とした調査が行われています(文献⑤)。一般の高2生1509人と全国の都道府県警察少年部門で検挙された高2生439人を対象とし、大学進学希望・部活動・性別の変数と共にアルバイトの有無を独立変数、検挙の有無を従属変数とした回帰分析で、学期中にアルバイトをすると非行(検挙される犯罪行為)のリスクが1.3倍になることが示されました(同 p.144)。ただし、同研究でも<アルバイト→非行>か<非行→アルバイト>か他の要因か、因果関係までは明らかにしていないと記されています(同 p.146)。相互に影響し合っていることも考えられます。
 学校で与えられる価値観に従う(向学校的な≒向社会的な)高校生は多くバイトが禁止される高校に通うため、バイト環境で出会う仲間はどうしても学校生活よりも反学校的な価値観や態度を取る者が多くなります。そうした環境で過ごすことが、反社会的な行動を学習する要因となることも考えられます。しかし、これをもって単純に高校生にとってバイトが有害であるとは言えません。バイトをする高校生を学校が・社会が無視せず、適切な支援ができればむしろ反社会的な行動を抑制する方向に学習させられる可能性もあるでしょう。

3.80-90年代~ 過度な校則への批判

 基本的に学業を乱すもの、非行を促すものとされてきた高校生のバイトですが、80年代に学校の管理的な性質への批判が高まると、高校のバイトを禁止・制限する校則も批判の対象となりました。

 1989年大学生を対象に高校時代の校則を尋ねた調査(121校)では、バイト全面禁止が42校、許可制が43校、規制なしが36校でした(文献⑥p.84)。この研究では、規制している学校ではアルバイト終了後、報告書の提出を義務づける学校や、生徒を通じて雇用者に許可願を提出させる学校があるものの、学校は原則指導助言に留まるべきであり、危険な業務から生徒を守るなど合理的理由がない限り制限すべきではないと主張しています(同p.85)。

 また、主に80年代校則研究を行った坂本(1990)は、法律の観点から高校生のアルバイトは制限することは出来ないと指摘しています(文献⑦)。以下の通り、民法第823条で親は未成年に対する職業許可権を持ち、基本的には学校が介入する余地はないとしています(※)。

民法 第823条
1.子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。

 ただ、バイト禁止に合理性はないものの、バイトの環境は高校生の発達成長のために作られた学校とは本質的に異なり危険もあるため、学校は禁止して封殺するのではなく、生徒の実態を把握して親も含め対話する機会を増やし、労働の教育も積極的に行うことを提案しています。

 このように法律的な観点で学校は高校生がバイトする権利を妨げられないとする見解はあるものの、公的には学校の裁量権の範囲であるという見解が一般的なのは、前回の記事(冒頭にリンク)で示した通りです。

4.00年代~ キャリア教育 好影響?進学に悪影響?

 1999年にキャリア教育の必要性が示され、従来進学校であれば大学への接続のみを考えていた進路指導だけでは不十分であり、その後の職業生活も意識した教育が求められるようになりました。

学校教育と職業生活の円滑な接続を図るため,望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに,自己の個性を理解し,主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育(キャリア教育)を発達段階に応じて実施する必要がある。

出典:中央教育審議会「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」1999年(文献⑧)

 そうした中で、今までも一般的には広く言われてきたバイトの社会経験・社会勉強という意義を、学校側も無視しにくくなりました。以下のように、生徒指導の中で社会体験としてのバイト就労の意義を認め、適切な指導を行うとする教育委員会も出てきました。

児童生徒のアルバイト就労は,勤労の尊さや,現実社会の職業生活の一端を実地に体験することにより,自己の将来の進路を主体的・合理的に考える機会となり,進路指導の観点から見て意義あるものと考えることができます。
 しかし,豊かな社会において,日々のさまざまな消費欲求を満たすために,学習をおろそかにし,安易にアルバイト就労をするならば,進路指導上の意義もなく,生徒指導上も問題が多く見られます。
 このようなことから,アルバイト就労を認める場合には,目的をはっきりもたせて許可することが大切です。
 児童生徒の年代は,心身ともに成長期にあることから,そのアルバイト就労については労働基準法上特別な保護規定が設けられています。
 アルバイト就労については,児童生徒の健康,学校生活への影響等に十分留意しながら,労働基準法に基づき適正な労働条件のもとで就労させることが必要です。

出典:広島県教育委員会『生徒指導の手引き 改訂版』2010年 p.164(文献⑨)

 とはいえ、多くの高校はバイトに関して指導する能力を持っていません。意義は認めていても、学業などへの影響も含めなるべく最低限にしたいという学校が多いでしょう。

アルバイトは家庭の方針と責任で決めることである。家計が苦しければ働かせる、遊んでいるよりも働かせた方がよい、働くことを早く経験させるのがよいとして、親の責任で従事させればよいと思う人がいる。しかし学校は、常に生徒がより高い目標を達成するよう努力させ、部活動や家庭学習の時間も確保させねばならない。健全育成のため、未成年が働く労働条件・職場環境、賃金の使途についても指導しなければならない。学校生活に支障なく他の子どもに迷惑をかけないよう、アルバイトは必要最小限に抑えるため、学校は親と協力して指導を行わなければならない。

出典:渡津英一郎「高等学校の生徒指導と家庭の役割について」2012年 p.63(文献⑩)

 高校生のバイトがキャリア教育として効果があるという研究もあります。年末の郵便バイトに運動部活動の一環として参加している高校生を対象とした研究では、部活動を通じて獲得したと考える協調性や礼儀などが社会において役に立つことを実体験することにより、ライフスキルに対する信念が強化されるとしています(文献⑪)。
 また、定時制高校においては、アルバイトを促進する授業を行い、就業への意識と知識を向上させた実践研究があります(文献⑫)。ただし、(現在は多様な生徒を受け入れているものの)元々は就業しながらの通学が前提だった定時制という土壌があっての実践であり、全日制高校で同様に理解が進むとは考えにくいです。

 一方で、バイトが進学を妨げるという研究もあります。都立の進路多様校の3年生6197人対象の調査では(バイト経験率81.7%)、バイト週勤務時間が長いほど卒業後の大学・短大進学率が下がり、フリーターになる率が上がることが示されました(文献⑬)。バイトが進路に影響しているか、進学する気がないから高校よりもバイトを重視するのか因果はこの調査ではわからず、直ちにバイトが進学に悪影響を及ぼすとは言えませんが、両方影響し合っている可能性はあります。

5.放置され続けた高校生とバイトの関係 個別実践頼み

 高校生のバイトについては、認める・認めないレベルの話は出ても、どう教育的に位置づけていくかという話はほとんど考えられてきませんでした。バイトをしていない高校生はおろか、実際にバイトをしている高校も自分たちが労働について良く分からないまま働いているのが現状です。
 バイトしている生徒が多い進路多様校では、そうした状況に何とか対応しようと自らの置かれた状況から労働について考える生徒指導実践を展開しているところもあります。

彼らは,学校経験を,アルバイトで培った労働体験と比較することで,学校を批判する。例えば,ダイは,バイトの面接で落ちた後輩に対して,「仕事と学校は全然ちゃう。仕事はしっかりせーへんと(うまく)いかん」と語った。彼らは,学校外の多様な場から価値観を持ち込むことで,学校の論理を相対化し,学校を自分たちに有利な意味世界に変換することを試みていく。 
 それに対して,教師たちは,授業に彼らの実生活に近い消費文化や労働に関わる話題を取り込むことで,〈ヤンチャな子ら〉を上手く利用する。X高校では,総合学習の時間に,労働法規や貧困,差別の現状を学ぶことになっている。その授業の中で,教師たちは〈ヤンチャな子ら〉の労働経験を活かすようにしていた。例えば,総合学習の時間に,「アルバイト中に何か差別的な発言をされた経験はないか」という問いかけをして,彼らから答えを引き出し,その答えをその後の授業展開につなげていった。

出典:石井久雄「新しい生徒指導に関する一考察」2023年 pp.35-36(文献⑭)

 こうした実践は、都合よく働かせたい雇用者との衝突を生む場合もあります。それでも生徒に自らの置かれた状況を捉えさせようと実践する教員の方々からは学ぶべき点が沢山あるように思いますし、もっとこうした実践がしやすい制度的・社会的な環境があるべきでしょう。

手っ取り早く、彼らが何に興味があるかといったら、それはまずバイトの時給でした。ですから、彼らが3年生になったときの現代社会―1年間、週に2時間やるのですが、そこでは労働法を徹底して教えるという授業を始めました。
(中略)でも、そのうち飽きて寝始めるのです。「なんで?」と聞いた ら、「でもそんなのうちのバイト先は無理やし。店長に言われへんし」というふうに、みんな諦めてしまうのです。知識を教えているだけでは駄目なのです。そこで、アルバイトの雇用契約書をもらって議論する授業を始めました。
(中略)彼らには、アルバイトの雇用契約書というのは何が書いてあるのかがわからない紙なのです。ですから、たいていはもらってもなくしたか、あるいはもらったかどうかの記憶がなかったり、さらに言うと、高校生を雇うアルバイト先の経営者や雇用する側の人間がそういう契約書を作らなければいけないということすら知らなかったりする。「アルバイトの契約書を持ってきてごらん」と言って、200人くらい教えていて、持ってこられたのは10数名でした。生徒からは「そんなのバイト先に契約書くださいと言ったら、気まずくならへん?関係が悪くならへん?」という心配が出されました。(中略)そうしたら、校長先生がこの授業は面白いということで、2年目から「学校の授業で使うので雇用契約書を渡してやってください」とわざわざ校長名のお願い文を出してくれるようになりました。
 そういうこともあって、4年ほど続けてこの授業をすることができました。いろいろなバイト先があって、雇用契約書を快く出してもらえる生徒もいれば、逆ギレされるようなケースもありました。でも、もらえなくても、ものを取ることが目標ではなくて、もらえなかったそのやり取りをレポートして、みんなでどこがおかしいのかを考えることが、実は勉強になりました。

井沼淳一郎「講演記録:生活指導実践の今日的課題」2023年 pp.63-64(文献⑮)

 高校生のバイトは、個別に対応するイレギュラーで済むものではありません。教育側も産業側もしっかりと位置付けようとしてこなかった結果、社会からも同年代からもあまり理解されない立場となってしまいました。

問題の所在は明らかである。我が国における高校生アルバイトは、そのすべてが「黙認」で支えられ、若者を教育・訓練する機会としてそれを正面から採りあげるところがどこにも用意されていない点にある。

本田由紀など「進路決定をめぐる高校生の意識と行動」2000年 p.191(文献⑬)

 しかし、高校生のバイトについて、そうでなくともバイトについて高校段階、あるいは義務教育段階で考えることは、今でなくとも今後働く立場としても、バイトを指揮する・雇う立場になるとしても必要と思います。働く高校生の学びを支えるためにも、社会全体でよりよい労働環境にしていくためにも、学校教育における高校生と労働の関係はもっと検討されるべきでしょう。

【注釈】

※ 民法改正により成人年齢が2022年から18才に引き下げられたことに伴い、高校生でも18才以上(多くは3年生)は契約等で成人の権利を得ることになった。これについて、高校のバイト制限は生徒を弊害・不利益から守ってきたと肯定する立場から、労働基準法第58条第 2 項など保護が受けられなくなることを懸念する見解がある(文献⑯)。

労働基準法 第58条  
1.親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない。
2.親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向つてこれを解除することができる。

【参考文献】

①文部科学省『生徒指導提要(改訂版)』2022年
②沢田慶輔「指導概論」東京大学文学部教育学教室編『講座・学校教育 第6巻 学習指導の方法』目黒書店、pp.1-32、1950年
③文部省『生徒指導の実践上の諸問題とその解明(生徒指導資料 第2集)』1966年
④大塚雅彦『非行を見る : 家裁調査官の訴え』三省堂、1968年
⑤山本功「高校生のアルバイトは非行を抑止するか」『犯罪社会学研究』30、pp.138-150、2005年
⑥太田周二郎「校則・子どもの権利の実状-下-高校の校則の実態調査を素材にして」『下関市立大学論集』36(3)、pp.71-104、1993年
⑦坂本秀夫『校則の話 生徒のための権利読本』三一書房、1990年
⑧中央教育審議会「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」1999年
⑨広島県教育委員会『生徒指導の手引き 改訂版』2010年
⑩渡津英一郎「高等学校の生徒指導と家庭の役割について」『愛知大学教職課程研究年報』2、pp.55-68、2013年
⑪上野耕平「運動部活動の一環として実施される郵便アルバイトへの参加を通じたライフスキルに対する信念の形成と時間的展望の獲得」『鳥取大学大学教育総合センター紀要』4、pp.125-139、2007年
⑫大久保健「就業意識向上のための学校改善の検討と提言 ―定時制単独校の事例に焦点化させて」『山梨大学教職大学院 令和4年度 教育実践研究報告書』pp. 1–8、2023年
⑬本田由紀など「進路決定をめぐる高校生の意識と行動――高卒『フリーター』増加の実態と背景」日本労働研究機構編『JIL調査研究報告書』138、pp.3-285、2000年
⑭石井久雄「新しい生徒指導に関する一考察 (1)」『人間の発達と教育:明治学院大学教職課程論叢』20、pp.23-40、2023年
⑮井沼淳一郎「講演記録:生活指導実践の今日的課題」『社会教育研究』40、pp.59-69、2023年
⑯渡津英一郎「民法の成年年齢引き下げと 20 歳未満の就労について―高校生のアルバイトに関する指導と保護者との連携―」『愛知大学教職課程研究年報』12、pp.31-45、2022年

◆長尾由希子「高校生アルバイトの量的推移に関する一試論」『東京大学大学院教育学研究科紀要』42、pp.159–168、2002年
◆大谷尚子・河野美佐子『高校生のアルバイトの就業実態とそれによる生活行動・意識の変化』「茨城大学教育学部紀要 教育科学』40、pp.233-243、1991年

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