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『一級建築士受験 マンガでわかる製図試験』著者・ヒヅメさん、山口達也さんに聞く(前編)

「角番」と呼ばれる製図試験3度目のチャンスにかける主人公が、まわりの人たちからの「気づき」や「ノウハウ」を手に突き進む物語を描いた異色の受験マンガ『一級建築士受験 マンガでわかる製図試験』。
著者である一級建築士で漫画家のヒヅメさんと、人気講座「製図試験 .com」を運営する山口達也さんへのインタビューのもよう(前編)をお届けします。

2021年5月7日(金)/学芸出版社1階ギャラリーにて
聞き手・松本優真(学芸出版社編集部)

“ストーリーで聞かないとわからない”という声

――『一級建築士受験 マンガでわかる製図試験』発売おめでとうございます。

山口・ヒヅメ:
ありがとうございます。

――ヒヅメさんと山口達也さんのお二人で執筆された本です。
これまで製図試験の受験参考書を数多く手掛けてこられた製図試験.comの山口さんと、実際に一級建築士を取得されたヒヅメさんが組んで、マンガで製図試験を解説するという試みでした。
マンガにすることで、どのようなことを、どういうふうに伝えたいと思われたのでしょうか?

山口:
自著『一級建築士設計製図試験 ステップで攻略するエスキース』(以下、『ステップで攻略するエスキース』)は、理論書・参考書なのですが、5年くらい前から、まわりの受講生から理論だけだと中身が頭に入ってこないと言われ続けていたんです。ストーリーの中で話を覚えたり記憶に落としこんだりというテキストが欲しいと。

でも最初は、「え? ストーリーで聞かないとわからないの?」みたいな印象でした。エスキースって一つの理屈で覚えるようなイメージがあったんですが、実際に自分の体験を通じて考えてみると、たしかにストーリー性って大事だよなというのはずっと頭の片隅にはあったんです。

――なるほど。普段、講座で教えられている時にも、対策のスタートから合格というゴールまでのストーリーは思い浮かべられているのでしょうか?

山口:
もちろん、それはそうなんです。ただ、あの文字や数字が羅列されている『ステップで攻略するエスキース』では、頭に入らないと言われるんです。たとえば、このじゃがいもがこの大きさで40グラムの重さですと個々の理由を教える、のではなく、この大きさにはこういう理屈があって、こういう風に食べると美味しいんだよ、というような、ストーリーがあると頭に入るけども、数字で言われても、と。もっと意味をもちたいみたいなんだよね。

ヒヅメ:
それこそ今、そのようなものはレシピ動画などになっちゃってるぐらい。解説動画とかもありますしね。一連のストーリーで見たいという欲求がかなりあるんじゃないかと思っていて。山口さんも最初それを聞いた時、「え?」ってなったのと同じように、たぶん多くの人は、「それを建築士試験でやるのは無理かな」と思っていたかもしれないです。

――ヒヅメさんは、「難題」と思われるような、製図試験をマンガで解説するということについて、オファーがきた時どのように思いましたか?

ヒヅメ:
「あー、ようやく来たか」と思ってましたよ。(笑)

インタビューの模様1

――それは、ご自身の体験を踏まえたもの(ヒヅメ著『一級建築士になりたい』)をもともと作られていたからでしょうか?

ヒヅメ:
そうですね。それを描いたあと、いつかどこかの出版社から声がかからないかなと思って活動をしていて。今回の企画『マンガでわかる製図試験』のようなものはずっと作りたいと思っていたので、そうなってくると、たぶん出版社さんの協力が必要になってくるなって思っていました。裏付けをしたりだとか。監修であったり、校閲であったりをきちんとつけて、技術書としてもしっかりしたものをつくるために、どこからか声がかかってほしいなあと思ってたので、喜んで飛びつきました。

合格という到達点は変わらない。そのプロセスに工夫がある

――お二人で一緒にやるとなったとき、「表現」の部分はマンガとしてヒヅメさんがかかわると思うんですけれども、一方で「知識」の部分をどうストーリーにしていくか、という点については、どういう役割分担を意識されたのでしょうか。

山口:
最初、『ステップで攻略するエスキース』があるので、これをマンガ化したらいいんじゃないか、ぐらいに思ってたんです。ただそうすると、結局これをマンガで解説してるだけみたいになるから、やっぱり頭に入らないよねって話になって。これ全部をマンガ化するっていうのは、企画途中で諦めたんです。

でもそのあと、ヒヅメさんのアイデアがいっぱい入って、編集者のアイデアやアドバイスがあって当初のイメージからするとちょっと変わったよね。

ヒヅメ:
そうですね。役割分担で言うと、技術的なところは山口さんがやって、それ以外は全部僕、みたいな。それぐらいのざくっとしたところから始まって。

『ステップで攻略するエスキース』から要素を全部書き出して、それをどのようにストーリーマンガにするか。それを書き出した要素にのっとってやるところから始まりました。シナリオをそのたびに僕が作っていったのかな。だから、分担としては、おおざっぱには、基本、山口さんが技術を押さえて、それ以外はもう全部ヒヅメがやろうかという感じですかね。

――そのあたりで、難しかったポイント、たとえば、お互いにぶつかったとか、意見が合わなかったみたいなことはありましたか?

ヒヅメ:
ぶつかることはなかったんじゃないかと。こっちの方がよくない?とか、こういうのをしてみる?とかいうのがあるぐらいでした。「それは違う!」っていうのは、本当になかったですね。

――ヒヅメさんは、山口さんの講座を受けられた経験があるわけではないですよね?

ヒヅメ:
ないですね。

――では、山口さんが念頭に置かれている一級建築士受験のためのエッセンスやノウハウみたいなものが、ヒヅメさん自身が見出した「理想の勉強の仕方」にマッチするところがあったから、しっかりそれらをストーリーに起こすことができたということなんでしょうか?

山口:
おそらく、一級建築士に合格するっていう「到達点」は変わらないんです。どんな勉強法をしようとその到達点に変わりはなくて。結局、減点方式の試験なので、いかにミスを少なくしながら、着実に問題文に書いてある空間を図面として実現するかっていう試験なんです。

一方、到達点とは違って、その「プロセス」については、僕らのメソッドがあったり、資格学校のメソッドがあったり、いろいろあるわけなんです。でも、到達してしまうと、そのメソッドを見た時に「あー!そういう風に考えてるのね」とか、「ボリューム出してやってたけど、こうはやってなかったよね」とかそういうのはある。

ヒヅメ:本当にその通りで、この『マンガでわかる製図試験』がそうなんですが、あまりにも細かいメソッドに言及することはやめたんです。「どのようなところを各項目で押さえていかないといけないのか」「エスキースは基本はこういうことをするよね」「条件だとこういうところを見るよね」っていうのを押さえていく内容にしていて。

それを物語でどう描くかっていうのは、一番ミスのない、ベタな方法は提示しているけれども、それ以上のこと、「なんとか法」「なんとかメソッド」みたくは言及はしてないので、ある意味内容についてはもめようが無い気もする。(笑)

山口:
いつも言っているのは、国民の生命と財産を守るのが建築士の最大の仕事なので、そのためにどういう職能が求められているかということがあるわけです。だから、それを実現していくために「こんな建築士になってほしい」という像は、あまり面と向かってはしたことがないけれども、その思い描く建築士像はヒヅメさんとすごく似てるんだと思います。

ヒヅメ:
当初、テーマを決めようっていうときに、山口さんが言った「国民の生命と財産を守る建物を法律を守って設計していく」っていうのがこの試験の基本だよね、っていう会話から始まったんです。

――そのあたりは確かにヒヅメさんが書かれている「はじめに」にも、“基本はそこにあるというところからスタートしています”ということが書いてあって、すごく印象的でした。

頑張って勉強しても3分の1しか合格できない試験

―― 一方で、国民の生命を守るための建物をつくる一級建築士の製図試験が、年々難問になる傾向にあり、それに対して受験生も苦労されていると聞きます。
あえて試験の問題点や良くない点を挙げるとすれば、どういうところにありますか?

山口:
全受験生に考えてほしいのですが、全然勉強せずに受ける人はほとんどいないわけです。みんな一生懸命勉強しているのに3分の1程度の合格率になっているということは、勉強しているのに受からない試験ってどういうことなの?って話なんです。つまり、しっかり学習している人たちが受からない試験になってるってことですよね。

――それは、勉強して身につくものではないところで測られてしまっている、ということですか?

山口:
いや努力している受験生が、理解している一定の合格レベルまで学習していたとしても、製図試験では3分の1しか合格できない試験になっているということです。学習が身についている人でも不合格になるという試験なんですよ。

――マンガの中でも、いわゆる「難関国家試験」のしくみに触れる部分で、落とすための試験だ、という分析がなされていました。頑張って勉強しても一定数が落ちてしまう理由について、もう少し解説いただけますか?

山口:
試験のしくみとしては、超絶な難問が出ているわけではないんです。そんなに難しくはなくて、どちらかというと真面目にやれば普通に通るようなレベルの問題なんだけれども、合格率は3分の1なんです。

とすると、ちょっとした揚げ足取りみたいな問題にせざるを得ないし、そこに目がいかない人が受からないんですね。試験としては最低なしくみだなっていつも言ってるんですけれども。ただ、普通に勉強していて、受かる人と受からない人の差って、本当に小さいんですが確実にある。あの試験、もともとそうなんですが、最近その傾向が強い感じがします。

―― 一方で、もちろん主人公のあかりがそうであるように、一級建築士を目指す人には夢を持っている人が多いはずです。
マンガでも、最終的には夢のあるところに持っていくことが必要だったと思うんですが、ヒヅメさんは、試験の現実的な問題と、ストーリーとしての展開は、物語を考えるうえでどのように意識されましたか。

ヒヅメ:
最初にそれを話したんです。物語をどういう起伏にするか。僕はマンガ家でもあるから、そこがすごい気になって、どういうエンディングにしよう、どう落ち込むところがあって、盛り上がるところがあって、そういうのどうしようっていうときに、やはり、合格を目指して買ってもらう本なのだから、ハッピーエンド以外ありえないなって。だってそうなって欲しいための本だから。

大変なこともいろいろあるんだけれども、それを一つ一つ乗り越えていって、合格に向かって頑張っていくという、きれいなストーリーです。実際の試験なんてもっとドロドロだよっていうのはあるかもしれないんだけれども。技術的には基本を詰め込んだし、感情的には「みんなが目指したいところ」を詰め込んだつもりです。

インタビューの模様2

中編に続く)

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