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[レポート]小野なぎささん×山崎正夫さん「週末通いたくなる森の見つけ方」

台風でひと月延期になってしまったにもかかわらず、多くの方にご参加いただけたトーク「週末通いたくなる森の見つけ方」。当日は会場のみなさんを巻き込んでの議論、おおいに盛り上がりましたのでここではそのレポートを。

会場となったのは大阪・谷町6丁目にある隆祥館書店さん。
まちの小さな本屋さんがどんどんなくなる時代にあって、地域密着型の場づくりに力を入れてこられ、「作家さんとの集い」を続けておられる出版社も尊敬すべき書店さんです。今回の本、『あたらしい森林浴』は243回目。

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隆祥館書店さんのキャッチフレーズは「本は心の森林浴」。二村知子店長も森林浴が大好きだとか。店頭でも日頃から森のアロマを焚かれていて、11月らしからぬ暑さだった当日の会場も清々しい香りが漂ってました。森林浴の可能性を伝える本書のイベントを「本は心の森林浴」をかかげるまちの本屋さんで開催できるなんて光栄です。

あたらしい森林浴って?

まずは、あたらしい森林浴ってどんなものか、森林浴ってそもそもなに?、という著者・小野なぎささんのプレゼンテーションからスタート。

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戦後の焼け野原に木が植林されて、国土の7割が森という日本。でも47都道府県ごとの森林率は本日の会場である大阪が最下位なのだとか。参加者の方からの「そらそうやわ~!」というツッコミとともに、京都・奈良が都になるずっと前から町人文化が根付いてきた商いのまちなので当然だという声も。とはいえ大阪にも多くは南部と北部、そして奈良との県境にも豊かな森があります。森の健康効果はフィトンチッドや1/fゆらぎ、NK細胞の増加、睡眠障害の改善などがよく知られています。でもこうした効果に加えて注目したいのは、テクノロジーやAIで便利になった世の中で鈍った五感を刺激する効果。

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たとえば日常生活でもっとも主要な情報源となっているのが視覚。人間の得る情報の87%もが目に依存しているそう。とはいえ目ばかり使ってほかの感覚をおろそかにしてしまうと、だんだんと使わない器官が鈍ってきてしまうそうです。森のなかで目を閉じると、聴覚や嗅覚、触覚が刺激され、脳がリフレッシュします。このような健康効果については『あたらしい森林浴』でしっかりエビデンスをもって解説しています。

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またこうした非日常体験は、組織のチームビルディング、またはアイデアやイノベーションの小さなきっかけにもなります。たとえば、刻一刻と表情を変える森の中で五感が冴えると、会議室より柔軟な発想や意見が出やすくなる。お手軽なところでは、会議をランチミーティングにするなど、ほんのちょっと環境を変えてみた経験は皆さんにもあるのではないでしょうか。それのエクストリーム版みたいなものですかね。

視界いっぱいに広がる木漏れ日や木々のざわめく様子を寝転びながら眺めると、20代の若手社員の感想はひとこと、「3Dみたいですね!」と驚くそう。いやいや、リアルのほうに驚こうよ?!と思わずツッコミを入れたくなるこのエピソードからもわかるのは、今の都会育ちの若い世代にとって、自然の空間体験がいかに非日常化しているかということ。五感に受ける刺激も、ある種エンターテイメントにも近い驚きや発見に満ちた場所になっているようです。小野さんは毎年一、二回、ビジネス研修の体験も開催されています(詳しくは森と未来のHPより。気になる方はぜひ参加してみてください)。

小野さんのお話を受けたあとの会場のみなさんと二村さんは、町人文化が下支えする大阪とはいえ、やはり森林率最下位は多少なりともショックな様子。隆祥館書店さんの前にはかつてポプラの並木が植わっていたと話す二村さん。伐られてしまったのは数年前のことだとか。管理コスト削減や深刻化する災害対策のためか、最近は市内の街路樹がどんどん剪定・伐採されているもどかしい状況だといいます。

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都会の高架下で、森のチャンネルをつくる

続いてヤマサキマサオさんのプレゼンへ。ヤマサキさんは神戸を拠点にSHAREWOODSという屋号で活動されています。事業紹介のひとつで取り上げてくださったのは、神戸市役所のロビーにあるベンチ。建築家の中村竜治さんによるデザインで、すべて六甲山に植っていた地域産材を使ったものです。

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日本全国の山々でかつてなく立派に育っている植林された木々。実は六甲山も戦後の拡大造林でできた人工林です。いまとなっては市民だけでなく関西の人々皆に愛される六甲山ですが、もともとは写真のように禿山だったとか。国や県、市が公共財として植林したのが70年ほど前のこと。木々の成長を待つうちにいつしか木材需要が薄れ、放置されてしまっている地域材は、六甲だけでなく日本中にあふれています。そんな木材を地域のために活用すべく、流通の仕組みづくりを買って出たのがヤマサキさんたち。建築家が提案した多様な樹種を組み合わせたベンチ構想を受けて、すべての樹種を六甲山から調達できるように手配したり、相談にのったりしたといいます。

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最近は民有地である裏六甲での木材活用もスタート。国産材の衰退を森(生産者)と街(消費者)を繋げることで食い止める。安価な外材との価格競争では勝ち目のない国産材でも「エコでエシカルでローカルな」価値を共感できる地域社会の循環をつくる。こうしたひと工夫もふた工夫も必要なビジネスモデルづくりは、地域の職人や工作所、若いクリエイターたちとのネットワークが欠かせないといいます。

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彼らと連携をはかるために、オフィスがあるのはまちなかの高架下。六甲エリアで活動するデザイナーや鉄職人、家具作家など、地価の安い高架下に集まる若いクリエイターと協働し、木工所などの既存インフラやコミュニティをアップデートし、森をローカルエコノミーのストック資源として活かすのがヤマサキさんの仕事です(詳しくはこちら☟の本に書かれてます)。

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「森へ行く」を日常にするために必要なこと

続いてディスカッションです。関西の人は森林浴ってどうもなじみがないのでは??という問いに会場からはやはり、関西は歴史の蓄積が長い分市街地が自然と共生するように成り立ってないとの声があがります。またヤマサキさんからは、山は古代から信仰の対象だったため、人間と相対するものと捉えられるほうがむしろ自然で、じつは大都会・大阪にもいまなお女人禁制の山が残っているそう。

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このように、安易に近づかない存在だった森も、近年のアウトドアブームでだんだんと身近な存在になってきています。でもいまだに「なにか目的がないと手持ち無沙汰」という感覚が拭えないのも事実。キャンプや登山など、目的がないと行きづらい場所になってしまっているのはもったいない、と小野さん。とにかく自然の中で過ごすことから始めればよくて、近くの公園で葉っぱの色を見るのも一つの森林浴。欧州のように森が暮らしのそばにあり、普段から森でボーッと佇んでいても変人扱いされないくらいにまで、森林浴がライフスタイル化したらいいのに、森へ行くということを特別視する必要はない、と話します。

会場からは、「森に行きたいけど、私有地だから行けない、みんなが行ける場所は人が押し掛けるからかえって疲れる」という需要と供給のアンバランスが問題、という会場からの声も。たしかに観光地化してしまった山や森は、その場所の気配や空気を感じるには少々騒々しいのかもしれません。

でも、都会に住みながら、実家の山をいかそうとしている隠れ山主たちがこれから活躍する時代だと小野さんは返します。「右手に森、左手にテクノロジー、自分たちで事業を始められる時代だから、どんどん面白い事業をみなさん自身で立ち上げてほしい。そしてそれを持続可能な事業にする。儲からなくてもボランティアではなく、赤字にならない仕組みづくりにこだわりたい、そうした事業がもっと増えてほしいし、自分もつくっていきたい」と小野さん。例えば、AIなどで遠隔での森林管理が可能になれば、一つの山をみんなで管理・シェアして、オンラインカレンダーでスケジュールを管理、週末のシェア別荘ならぬ週末のシェアフォレストを手に入れることだって夢ではありません。森林浴を単なるノスタルジーの範疇に括り付けることなく、柔軟な思考で現代のポテンシャルを拾い集め、積極的にデジタルテクノロジーともコラボするべきだと話してくれました。

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そしてやはり話題に上った、今年度から全国民が支払っている森林環境譲与税の使途について。

平成31年3月に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」
(平成三十一年法律第三号)が成立・公布されました。

本税は、温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るための森林整備等に必要な財源を安定的に確保する観点から、国民一人一人が等しく負担を分かち合って森林を支える仕組みとして創設されたものです。

http://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/kankyouzei/kankyouzei_jouyozei.html

大阪のように森の少ない都心部の自治体では、これまで考える必要のなかった「森との付き合い方」が新たに政策課題に加わりました。使い道がわからず考えあぐねている自治体も多いようです。とはいえ反対に、「取られた税金をどう最大限うまく使う仕組みをつくるか」を賢く考えて、自身の健康や放置していては災害を甚大化しかねない森の荒廃を防ぎ、地域の持続可能性を結び付けて考えていくチャンスとも捉えられます。

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加えて会場からは、森林浴を身近にするには交通インフラの問題も大きい、との声も。行きたい森に行くにもとてもアクセスが悪くて困っているといいます。ヤマサキさんからは、たとえばバスの自転車持ち込みを市民から提案してはどうか、というアイデアも。バスの路線がないところや本数が少ないところは、マウンテンバイクとの併用で解決するなど、林業や森のコミュニティにとどまらない工夫が必要になってきそうです。行政の対応を待つのでなく市民自らアイデアを提案する、まずはそうした活動を支援する仲間づくりに励むことも大切、と小野さん。またこうしたアイデアやあたらしいニーズを生み出せるのは、やはり若い世代の人たちだといいます。既存のコミュニティがどう頑張っても答えが出ないときは、森や林業コミュニティの外の人に知恵を借りれる仲間をつくりたい、それをやっているのがまさに、ヤマサキさんはじめ、神戸やSHAREWOODS の皆さんの取り組みだな、ということで、今日の参加者全員で六甲山に森林浴へいきましょうという話も飛び出しました。参加者の皆さんからの感想もご紹介。

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森林浴は難しいものだと考えていましたが、手軽にできると知り、実行してみようと思いました。
フリーランスで仕事をしており、メリハリのない生活になりがちです。適度な運動を取り入れたいと思っておりますが、元来怠け者でちょっとの時間を割くことができずにおります。そういった生活習慣を変えられるヒントがいただけたらと思い参加しました。何気なく散歩に行くつもりで近所の山のほうに向かって歩いていくことから始めてみようと思います。
仕事として人と森をつなげる活動をしています。目的を持って森に入ることが多いのですが、今日のお話を聞いて、何もしないで森での時間を過ごすというのもやってみようと思いました。
現在の木や森林んとのかかわりは消費が主になっているが、森林を育てる関わり方がもっとあってもいいと思った。従来の木材消費にとらわれない森林資源の活用のヒントをいただくことができた。
社員のストレスケアへの活用方法を考えてみます。

参加者の方がグラレコも書いてくださいました!

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現代を生きるわたしたちなりの森の面白がり方は、まだまだたくさんあるはず、そんなことを感じられたトークでした。出版記念イベント関西編ご登壇いただいた小野なぎささん、ヤマサキマサオさん、二村知子さん、そしてご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!

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そしてこれで終わらず!引き続いて年の瀬12月11日(水)に、今度は東京・八重洲にてトークを開催します。

森から考えるSDGs:都市と地方が支え合うために企業・市民ができること(2019/12/11|東京)

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会場は東京駅至近・八重洲ブックセンターさん。自然災害が多発し、いよいよ真剣に環境問題へ向き合う必要性を痛感した2019年。テーマは「森から考えるSDGs」です。

CO2を吸収し、おいしい水を供給し、降雨時の急激な増水による災害を抑制する水源かん養機能をもつ森の大切な地域基盤を生かした小野さんの活動は、SDGsの17目標のうち「13:気候変動に具体的な対策を」「15:陸の豊かさを守ろう」に深く関わるだけではなく、都会の私たちに「3:すべての人に健康と福祉を」もたらすものであり、地域に「9:産業と技術革新の基盤をつくり」「8:働きがいも経済成長も」生み出せる可能性の宝庫。

人と自然と地域事業が共生し、持続可能な未来を描くためにどんなビジョンが必要なのか、都市に住む私たちや企業はどのように森とかかわり続けることができるのか、お話いただきたいと思います。ふるってご参加ください!




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