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§11.1 議場改造/ 尾崎行雄『民主政治読本』

議場改造

 新しき酒は古い革袋に盛るなといわれる.古い革袋に入れると,新酒の味を悪くするからであろう.ご飯はおひつに盛るべきで,いかに新品でも,おかわに盛った飯は喰う気にならぬ.民主政治もまたしかり.民主政治にふさわしい会議場においてでなければ,国権の最高機関としての国会の機能を,十分に発揮することはできない.
 この意味で私は去年の議会で,今の議場は大改造をせねばならぬ旨を提唱した.
 今の議場の構造は,御承知のように,議員席よりも一段高いところに大臣及び政府委員席があって,あたかも議員を見下ろし,或いはこれを監視するかのごとき印象を与える.これは行政府が政治の中心で,立法府はその補助機関に過ぎないという政治理念を象徴するつくりかたである.官尊民卑の封建思想を表現したつくりかたである.議員自ら政府が主で議会が従であることを認めたつくりかたである.かくのごとく主客転倒,己れ自ら行政府の下位に立つことを承認しているような議場の構造を,そのままにしておいて,ここで真の民主主義政治を行おうなどということは,非常な心得違いである.こんな行政府中心の思想でつくられた議場において,真の立法府中心の政治をやることはできないから速かにこれを改造して,大臣席政府委員席を廃止し,議場は全部議員席となし,議員以外の者は,たとえ大臣でも本会議の議場においては発言権を持たせない(もし議員でない大臣が発言を希望し,または議員の方からその大臣または他の政府委員に説明を求める場合は,全院委員会乃至その他の委員会において発言させれば何等の不便はない).また議場内に大臣席政府委員席を設けないことにしなければならぬ.
 これまで私が議会で述べたことは,大抵,あれは理想論で実行はできないといって実現しなかったものだが,この議場改造論だけは,どうやら実現しそうな模様である.ただし,議員以外の大臣には席も与えず,発言もさせないというところまで,徹底できるかどうかはまだ疑問である.


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Cf.
(1)尾崎行雄『咢堂清談』(未來社、1947年)の「大臣席は不要」の章。


底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月11日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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