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§12.8 幕府的存在となる/ 尾崎行雄『民主政治読本』

幕府的存在となる

 一度政権をとって議会を解散し,自党政府の手で総選挙を行い,金力権力等,あらゆる非立憲的な“力”を用いて多数議員を獲得し,この多数議員を党議でしばって,何んでもかんでも政府案に賛成させる.それでも有権者はつねに政府党を勝たせるような投票をするということになれば,この政府は,も早立憲的な方法では倒すことのできない幕府的存在となってしまう.大正7年の原内閣から昭和6年の犬養内閣までのわが国におけるいわゆる政党内閣時代の内閣は,たいてい,首相の暗殺,病死,陰謀,内輪喧嘩,或いはその他の不詳事件が原因で倒れた.すなわち原内閣は首相が暗殺せられて倒れ,次の高橋内閣は改造非改造の内輪喧嘩で倒れ,次の加藤友三郎内閣は首相が病死して倒れ,次の第2次山本内閣は虎の門不祥事件で倒れ,次の清浦内閣だけは総選挙に敗れて立憲的に進退したが,次の加藤高明内閣は政友会出身閣僚の内輪もめで倒れ,次の大命再降下による第2次加藤内閣は首相の病死で倒れ,次の若槻内閣は枢密院が台湾銀行救済のため日銀から特別貸付損出補償に関する緊急勅令を否決したことが原因となって倒れ,次の田中内閣はマンシュー某重大事件の経緯に関し議会ではなお絶対多数党であったが倒れた(当時の各政党の議席は政友会237民政党173第一控室29無所属5欠員20であった).
 次の浜口内閣は首相の暗殺(未遂後死亡).次の若槻内閣は内輪喧嘩.次の犬養内閣は首相が暗殺され倒れた.清浦内閣以外はことごとく非立憲的進退である.
 総選挙の結果,在野党が多数になって円満に政権の移動が行われないかぎり,そうなるのはあたりまえである.そして私はここにも,鏡と影の関係においてつねに“力”に屈して,政府党に勝たせる有権者の姿勢を正す必要をみとめる.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月25日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。

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