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尾崎行雄『憲政の本義』

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8.選挙人は政治問題の終審裁判官/ 尾崎行雄『憲政の本義』

八 選挙人は政治問題の終審裁判官
 帝国憲法が、廃棄若しくは中止せられた時は、格別だが、いやしくも然らざる以上は、如何なる政府でも、衆議院の協賛を得ばければ、前年度予算を執行するより外、何事をもなす事が出来ない。故に代議士が、その主義政策さえ固守すれば、如何なる政府といえども、遂にこれに屈伏せざるを得ない。然し代議士をして、その主義政策を固守せしめるには、選挙人は幾たび解散に遇っても、常に同主義同

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6.人畜の相異は選挙権の有無に在り/ 尾崎行雄『憲政の本義』

六 人畜の相異は選挙権の有無に在り
 立憲国民は、生命財産の権利ある人類であるが、専制国人民は、これを持たない禽獣的動物であることは、前にもしばしばこれを説明した。しかして法律上に於ける二者の相違は、一はその生命財産の保管人則ち代議士を選挙するの権利を持ち、他はこれを持たないと云う一点に外ならない。故に政治上に於ける人類と禽獣の差異を煎じ詰めれば、選挙権を持つと持たぬとに帰着する。然るに人類唯一の

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7.選挙人の腐敗は立憲政体の最大併毒/ 尾崎行雄『憲政の本義』

七 選挙人の腐敗は立憲政体の最大併毒
 立憲政体の弊害中、最も憂うべきものが二ある。事の善悪を問わず、議員が政府に反対するは、その一であって、これに盲従するのは、その二である。議員が妄りに政府に反対する弊害は、列国の憲法は、皆なこれを予想して、その予防法を設けているが、議員が妄りに政府に盲従する弊害に至っては、何れの国の憲法も、これを予想しないから、その予防法を設けたものはない。しかして議員若し事

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5.帝国憲法の神髄/ 尾崎行雄『憲政の本義』

五 帝国憲法の神髄
 帝国憲法は、七十六ヶ条の多きに及び、その規定する所、広く諸般の事項に渉っているが、要するに君民の権義を確定し、人民の生命、財産、その他の権利を保証するに外ならない。
 帝国臣民は、奴隷に非ず、禽獣に非ず、かえって生命財産の権利を保有するところの人類である。故にいやしくもこれに関係する所の法律は、所有主の代表者たる衆議院議員の協賛を受けねばならぬ。特に租税の如きは、よってもって

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3.立憲政体維持の必要条件/ 尾崎行雄『憲政の本義』

三 立憲政体維持の必要条件
 立憲政体維持の必要条件は、外でもない、人民をして人類であることを自覚せしめるに在る。政治上において人類と称するのは、生命財産その他の権利を有する者を云う。これを有せないものは、人面を被《か》ぶる所の禽獣にすぎない。飼牧者のために、生殺与奪の全権を掌握せられる所の劣等動物にすぎない。
 人民をして、人類である事を自覚せしめ、また生命財産の所有主である事を自覚せしめ、また

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2.専制政体維持の必要条件/ 尾崎行雄『憲政の本義』

二 専制政体維持の必要条件
 然しながら、人民を、禽獣状態に安んぜしめるには、必ずこれを暗愚ならしめねばならぬ。奴隷根性を養成せしめねばならぬ。「啼児と地頭には勝れぬ」と云うが如き思想を維持せしめねばならぬ。「御上の御無理はこれを御尤もと思う」の習慣を教養せねばならぬ。人類の禽獣との区別すら、これを知らせないようにしなければならぬ。ましてや「人には生命財産その他の権利あり」と云うが如き思想を起さし

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1.専制治下の人民は生命財産の権利を持たぬ/ 尾崎行雄『憲政の本義』

一 専制治下の人民は生命財産の権利を持たぬ
 政治家が、政治の目的物たる人民を治める方法は、これを大別して、二種とする事が出来る。
 人民は、生命財産を始め、その他一切の権利のないもの、即ち禽獣同様な者と視做《みな》して、これを治めるのが、その第一種であり、人民でも、生命財産の権利を持っているもの即ち人類と視做《みな》して、これを治めるのが、その第二種である。
 第一種の為政法を、専制政体と云い、

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尾崎行雄「憲政の本義」:目次+『貧者及弱者の福音』序文

尾崎行雄「憲政の本義」:目次+『貧者及弱者の福音』序文

普選の運用を有効ならしむべき手段方法は、前四篇に於てクドすぎるほど詳説した。今ま従来の選挙人が其権利の行使を誤り、以て自ら現在の如き困難を招来した最大原因を尋ぬれば、彼等が未だ憲政の本義を解せず、選挙権を、其仇敵に譲渡したるの一事に帰着せざるを得ない。是れ私が多少の加筆修正を加え、大正初年の旧稿を掲げて、普ねく新旧選挙人の※[#判読不可、30-16]※[#判読不可、30-16]を煩わす所以である(

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