野球の神様⑭

中学生になったバットくんは、たとえ周りの選手よりも圧倒的な実力を持ちながらも人一倍の努力を続けていました。


これだけ努力をする人をみると心地よいのぉ。わしはこの上ない幸せじゃ。こんなにキラキラとして向上心を持って野球を心から愛している子はをみるのはルースちゃん以来やからなぁ。


かつて野球の神様に特別に寵愛され、世界にその名を馳せた人物はベーブ・ルースただ1人。彼はピッチャーとしてもバッターとしてもその実力でファンを魅了し続け、世界から今でも「野球の神様」と呼ばれている。実はこれは彼の類稀なる才能に、野球の未来を託し、野球の神様自身が名付けた名前である。いってみれば、自分の化身として、偶像として、預言者として、ベーブルースを「野球の神様」と名付けたのである。キリスト教で言うイエスキリストのようなものか。

そして近年野球人気の衰退している状況を鑑みて、神様は新たにバットくんを次期神様の化身として育てていくことに決めたわけである。野球の明るい未来を描いていくために。


神様は中学に入ったバットくんに一つの試練を与えた。それは、バットくんのお父さんがチームの監督に就任するというシナリオである。


親子が監督と選手の関係じゃと、周りの選手たちがよく2人の様子を観察しよるじゃろう。息子が中途半端なプレーをしとって、それで息子がふつうに試合に出とったら、周りは「贔屓だ」としらけた目で親子のことをみるじゃろう。だから、バットくんは必然的に、人よりもさらに何十倍も努力をせねばならん環境になる。そうせねば、他の選手を納得させることはできないから。この試練を乗り越えたとき、彼はさらに強くなるじゃろう。


「おいっなんだその動きは!タラタラやってんじゃねぇぞ!こら!!」

バットくんの一つの小さなミスに、監督は大声を上げて怒鳴り散らす。

「はい!!すみません!!もういっちょお願いします!」

「甘いんだよ!おめぇはー」

たとえ飛び込んだとしても絶対に捕れないような打球を監督がノックで放ち、バットくんの飛び込んだグラブの3メートル先を強いゴロが通過する。

すぐさまバットくんは立ち上がって、

「もういっちょお願いします!」

「おりゃぁー、やる気あんのか!コラーー!!」

グラウンド中に怒声が響き渡る。周りで見ている他の選手たちは縮み上がっている。

「負けるもんか。」

バットくんだけは1人、監督との世界観で闘志を燃やし立ち向かっている。


いい表情じゃ。きっと君は将来、野球界を活性化させるようか大きな原動力となるはずじゃ。期待しておるぞ。


親子の熱いグラウンド上での戦いを、穏やかにしかし強い眼差しでずっと見守っていた。


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