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弁護士志望者がVCで半年間インターンをしてみた

こんにちは、Gakkyです。

司法試験後のモラトリアム期間が終わり、ついに司法修習(=弁護士になる前の1年間の研修期間)が始まりました。司法修習も半分モラトリアム期間のようですが、これまでと比較すると自由な時間が少なくなるのは間違いありません。

しかし、不思議なことに、自由な時間が少ない方が丁寧に時間を過ごすようになり、結果的にこれまでよりも充実した自由時間を過ごせています。

さて、自分は司法試験が終わってから司法修習が始まるまでの半年間、京都の栖峰投資ワークスというベンチャーキャピタル(=VC)でインターンをしていました。

関東では学生がインターンをすることは比較的多いようですが、関西ではそもそもそういった機会が少なく、具体的にどういった業務を行うのか、インターンをすることにどういった意味があるのか?といった情報が回りづらい状況にあると思います。

そこで今回は、自分が半年間どういった業務をしていたのか、そしてそこからどういった学びを得ることができたのか、といった点について紹介していきたいと思います。

1 なぜVCでインターンをしようと思ったのか?

1-1 そもそもVCって何?

さて、VCでのインターンの具体的内容に触れる前に、VCについて知らない人もいると思うので、簡単に説明をしておきます。

VCとは、簡単に言うと、投資家からお金を集めてスタートアップに投資をする投資会社ということになります。

もう少し具体的に説明すると、VCは投資ファンドというお金をプールしておく場所を作成し、投資ファンドに出資する投資家を募集します。上の図では、投資家は人の形をしていますが、実際には法人が投資家になることが多いです。

VCは、投資家の出資したお金がプールされている投資ファンドを運営し、スタートアップに対して投資を行います。VCは投資ファンドから管理報酬として一定の金額を受け取ることになり、これがVCの収入となります。

投資ファンドの運営においては、ただ単にスタートアップにお金を投資するだけでなく、スタートアップの取締役となったり、会議に出席するなどして、経営上のアドバイスを行います(どの程度の関与をするかはVCによると思いますが)。

そして、スタートアップが買収されたり、あるいは上場することによって、投資ファンドが保有しているスタートアップの株式を売却することができた場合、最終的には投資家に利益が分配されることになります。

1-2 VCでインターンをした動機

VCの業務は弁護士とは無縁のようにも見えますが、なぜ自分がVCでインターンをしようと思ったのかについても、簡単に説明しておきます。

もともと自分は民間からのルール形成に興味があり、それが理由でスタートアップにも興味を持っていました。

スタートアップはこれまでにない新規事業を起ち上げようとするため、法律が対応できておらず、結果的に規制に引っかかってしまうということがあります。弁護士という立場からもっと迅速に規制を見直す体制作りができないか、そういった問題意識を持っており、司法試験後のモラトリアム期間を使ってよりスタートアップへの理解を深めたいと考えていました。

スタートアップでインターンをするという選択肢も勿論あるのですが、その場合1つの企業の事例しか知ることができないため、もう少し俯瞰的にスタートアップのことを理解できる方法はないかと考えていました。そうした中で、複数のスタートアップに投資するVCであればそれが叶うのではないかと思い、VCでインターンをすることにしました。

実際、VCでインターンをすることにより、スタートアップについて理解が深まりましたし、後に紹介するようにたくさんの学びを得ることができました。VCでのインターンを選択したことは間違っていなかったと思っています。

2 VCでのインターンの概要

想像以上に前置きが長くなってしまっていますが、ここからVCでのインターンで具体的にどのようなことをしていたのか紹介していきます。

①資料作成業務
投資検討をする際に必要な資料を作成します。例えば、投資先の候補である企業から会社の財務状況を示す資料が送られてきた場合に、これを投資検討をしやすい形に整理するといった作業を行います。

②リサーチ業務
これがメインの仕事と言えますが、リサーチの内容は多岐にわたります。一番多いのは特定の業界の特徴についてリサーチをすることですが、ただ単に調べればよいというものではなく、リサーチ結果を報告するためには当然内容を理解していなければならないため、結構頭を使うことになります。

③課題検討
時折社長から、「投資先で○○という問題が生じているが、これに対する良い解決策はないか」といったようなタスクが与えられることがあります。基本的に自分には課題解決に必要な知識がないため、色々とリサーチして頭を捻らせることになります。

④法的文書の作成、法的課題の検討
これは、自分が法律家の卵であるということが考慮されて扱っていた業務ですが、VCの運営上必要となる法的文書の作成や、VCの業務遂行や投資先の業務遂行上発生する法的課題について検討するという業務も行っていました。

⑤法律に関する勉強会の開催
こちらも、④と同様に法律家の卵特有の業務ですが、社内向けに法律の勉強会を開催しました。他人に向けて法律を説明することで改めて法律の理解が深まるだけでなく、勉強会の中では社員の方から実務的な観点も踏まえた質問がなされるため、自分にとっても良い勉強の機会となりました。

①~⑤以外にも様々な業務があるため、業務に慣れてしまって退屈だ、という事態が生じることはないかと思います。

3 VCでのインターンを通して学んだこと

インターンを通して学んだことは無数にあるのですが、その中でも特に印象に残っているものをピックアップして紹介していきたいと思います。

3-1 実務で法律を運用することの困難さを実感

まず、1個目の学びは、法律を運用することの困難さについてです。

VCは金融商品を取り扱うため、それに伴い複数の規制を受けることとなります。例えば、「○○の場合は身分証明書の提示を受けなさい」、「○○の場合には法令の定める書面を提示しなさい」、といった様々な規制が存在します。

こういった規制を対応するにあたって、まずは規制の仕組みを理解するのが非常に困難であるという問題があります。

金融関連の規制は、法律だけでなく政令、規則にもルールが規定されており、ルールの内容が非常に複雑化しています。そのため、法律を学習した者でもその内容を理解するのに苦労してしまい、法律をこれまで学習したことがない場合には、仕組みを理解すること自体が大きな障壁となるわけです。

そのため、規制対応に取り掛かる前段階として、法律やその解説を一生懸命理解するという作業が必要となります。

仕組みを理解するという壁を乗り越えたとしても、それで規制対応が終わるわけではありません。大学での法律の勉強は、法律の仕組みを理解すればよかったのですが、実務の場合には、実際にどういう手順で規制に対応していくか、という段階が重要になります。

身分証明書の提示を受けるという場合にも、「誰が身分証明書の提示を受けるのか」「どのタイミングで身分証明書の提示を受けるか」「特定の身分証明書を有していない場合にはどういう対応をするか」といった種々の対応を考えなければなりません。

このように、①仕組みを理解する、②仕組みに対応する手順を確立する、というそれぞれの手順において、かなりの労力が発生してしまうわけです。

こうした法律の実務の在り方を見ていると、読みやすくわかりやすい法律を作成し、対応しやすい規制を設計することがいかに重要かということがわかります。また、実務家としても、ただ単に法律の仕組みを依頼者に教授するだけでなく、現場の事情に精通して、規制に対応するためのノウハウについても教授できる必要があると感じました。

3-2 ビジネスの奥深さを理解

次に、ビジネスが非常に奥深い世界であるという当たり前のことに気づくことができました。

VCで働くまでは、結局事業が上手くいくかどうかは運ゲーで、投資もほぼ運で決まっているのではないか、と思ったりしていました。

しかし、実際に中に入ってみると、非常に専門的な言葉が飛び交い、一社の投資検討のために膨大な資料を作成している現場を見て、自分の認識を改めざるを得ませんでした。

特に、投資先の社長との議論などを見ていると、1つの事業に対して物凄い熱量で頭を使いながら取り組んでいることがわかり、「自分はビジネスについて何も知らないんだな」と思い知らされました。

そのような中で、法律家になる上でも、経営についてもっと勉強しないといけないと感じるようになりました。

法律的なアドバイスは経営上の意思決定をする上での1つの要素にすぎないわけですが、自分のアドバイスが経営上どういった意味を持っているのかを理解しつつアドバイスできるかどうかは非常に重要なのではないかと感じました。

例えば、経営戦略の勉強をしていると、独禁法上問題点が生じそうな防衛戦略が多数登場します。そのような防衛戦略を採用しようとする場合に、ただ単に独禁法上違法かどうかを指摘するのと、経営戦略上その防衛策がどのような意味を持っているのかを理解した上で、独禁法上適法な戦略を提案するのでは、アドバイスとしての価値は大きく異なるように思います。

ビジネスの世界が奥深い世界であるからこそ、せめてビジネスサイドの考え方が理解できる程度には、法律家もビジネスについて勉強をする必要性があると再確認することができました。

※今年はこういう経緯もあって、ビジネス書を読むことが非常に多くなりました。

3-3 なんでも調べるという姿勢の定着

最後に、わからないことがあったらすぐに調べるという姿勢が定着したことが挙げられます。

これって一見すると当たり前のことなのですが、自分で調べて解決をするという作業は意外とハードルの高いものだと思います。ネット上に転がっている情報の中で適切なものを選択し、その情報を理解するという作業は、結構骨が折れるものですし、日常的にわからないことがあっても放置してしまう人の方が多いのではないかと思います。

しかし、インターンをしているとそうはいきません。インターンをしていると、毎日のように自分の知らない話や単語が多数登場するわけですが、それをいちいち社員の方に聞くわけにはいかないので、自力で調べて理解をする必要があります(質問できない環境というわけではなく、結局自分で調べて勉強しないとわからないことが多いのです)。

自分はエクセルを使ったことがなかったので、勤務当初はエクセルの使い方からつまずいてしまい、必死で調べてなんとかしようとしていました。エクセルに関しては、1度入門書を読まないとどうしようもないと思い、結局1冊勉強しましたが(笑)

このようにして、わからないことがあったら調べるという作業を繰り返しているうちに、だんだん調べることへの心理的ハードルが下がり、日常生活でもわからないことを調べる癖がついてきました。

その結果、わからないことを後回しにすることがなくなったので、何気ないことのようで非常に大きな財産が手に入ったのではないかと思っています。

4 最後に

自分は大学院を終了してから半年間だけインターンをすることになりましたが、もっと早くからインターンを始めておけばよかったなぁと思っています。

大学での法律の勉強は、実際の現場を見ていないためイメージが湧かず、特に手続面に関する知識については単調なものになりがちで面白くないと思っていました。

しかし、実際の現場を見ることで、法律の運用の在り方がわかり、逆に法律を勉強する際にも「この手続を運用する場合にはどうすべきなんだろう」、「これは運用上めちゃくちゃめんどくさい法律なのでは?」、といった視点から学習をすることができるようになりました。

これはおそらく法律に限った話ではなく、例えば経営学を勉強している学生が投資検討先の事業の将来性を検討する際には、日々学んでいる理論が現実でどのような形で役に立つのか見えてくると思います。ファイナンスやマクロ経済学も、VCの業務では応用されていると思います。

もちろん職場選びが重要ではあるのですが、インターンをすることでより大学の授業をより有意義なものにできるという効果があると思います。

もし、この記事を読んでいる大学生の方がいれば、学生インターンに応募してみることを考えてみると良いと思います!

最後に、栖峰投資ワークスの方々には、半年間という非常に短い期間であるにもかかわらず、自分を受け入れて下さり本当に感謝をしています。いつか恩返しができるよう、弁護士として研鑽を積んでいきたいと思います。

それでは、今回はこのあたりで終えようと思います。最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


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