司法試験の勉強法を全て紹介します!~初学者から司法試験受験に至るまで~
0 はじめに
(1)記事作成の経緯
こんにちは、Gakkyです。
先日、司法試験を受験し終えたのですが、本当にここまで長い道のりだったと感じます。
自分は予備校を全く使っていなかったということもあって、特に学部時代は、法的なものの考え方、使う基本書・演習書、ロー入試に向けて何をするべきか、そういったことを全て自分で考える必要がありました。
その中で、司法試験の勉強法についての本を読んだり、ネットに上がっている記事を見て使うべき基本書・演習書を探したりしていました。しかし、実力をつけるためのまとまった情報が見つからず、かなり右往左往してしまって中々実力があがらなかった記憶があります。
大学では、入学するといきなり法律の各科目を体系的に教えるということがなされました。その中で、「条文はどうやって読み、使うのか」、「論点とは一体何のことなのか」といった基本的なことは「習うより慣れろ」といった状態で、特に説明されることがありませんでした。
そのせいで、条文の使い方がきちんとわかるまで、1年以上かかった記憶があります。
そこで、自分が右往左往してしまった経験をもとに、各科目、初学者から司法試験に至るまでの道筋を示したいと思っています。
また、自分はこのような迷える子羊状態であるにもかかわらず、運よく京大ローに入学することができました。そして、京大ローでの教育は自分にマッチしており、また優秀な友人たちに囲まれたおかげで、京大ローで大きく実力を向上させることができた実感があります。
その中で、各科目を理解する上で必要な考え方や、司法試験短答・論文を突破するために必要な能力とは何か、それを身に着けるためにはどうすればよいか、といったことについて多数気づくことがありました。
そこで、各科目の勉強の道筋を示すことに加え、各科目の考え方の要点、司法試験という試験突破のための要点を共有していきたいと思っています。
とはいえ、自分は司法試験の合格が決まったわけではなく、合格していない段階での記事には説得力がないのではないかという批判がありうると思います。ただ、司法試験を受験し終わって一番記憶が新しく、かつ大量の文字数を書くだけの時間を確保できるこの時期に書くべきだと判断して、この時期に記事を書いているとご理解ください。
(追記・9/8)先日合格発表があったのですが、無事に司法試験に合格しておりました!
記事の信頼性を判断するための数値を挙げておくと、TKC模試(司法試験直前の模試です)は54/1450位、司法試験本番の短答は155/175点(29 位)だったので、それなりの実力がつけられる内容になっている自信はあります。
(追記・9/23)司法試験の総合順位は247/3082位(上位8%、母数受験者数)でした。もう少し良い順位をとりたかったですが、真似できないような天才の勉強法ではないということが伝わるのではないでしょうか(笑)
また、次の項で記事の概要を紹介するのと、無料公開部分を長く設けているので、まずはそのあたりを読んで内容を判断してもらえればと思います!
(2)記事の概要紹介
この記事は大きく、①科目別の勉強法、②司法試験の勉強法、③法律の勉強法の一般論、という流れで構成されています。基本的に各章独立しているので、自分の気になる部分から読む形で使ってください。
①科目別の勉強法の記事では、初学者段階から司法試験受験に至るまでに使用した/すべき基本書や演習書を紹介し、その使い方を説明していきます。各科目で最初に扱うべき単元を具体的に示したり、基本刑法や基本行政法といった定番のテキストについて、これらを読む上でのガイドをつけたりしています。
各科目、初学者段階・中級者段階・司法試験直前期、という3段階にわけて説明をしています。初学者段階=学部時代、中級者段階=ロースクール2年次前期~3年次前期、司法試験直前期=ロースクール3年次後期以降、くらいを目安に考えてもらえばいいかなと思います。
また、基本書や演習書の紹介に加えて、各科目でつまずくであろうポイントや、考え方のコツについても紹介しています。特に、民法・刑法・憲法に関しては、かなり丁寧に答案作成に至るまでの考え方を示したつもりです。
ほかに、民訴に関しては苦手を克服した経験をもとに、民訴を理解する上で必要な思考法についてかなり丁寧に説明しています。他方、商法は得意だったので、自分が商法を勉強する際のコツをいくつか紹介しています。
②司法試験の勉強法では、短答と論文に分けて、それぞれの勉強法とコツを紹介しています。2章しかありませんが、分量は3万字弱あるので、かなり具体的に踏み込んで書くことができたかなと思っています。
短答については、ただ単に暗記するだけでなく、条文の趣旨・理屈を考えたり、知識をわかりやすい形で整理することが大事であることについて、実際の問題を通して丁寧に説明しています。また、憲法は刑法・民法の短答と比較するとやや特殊なところがあるので、憲法に関しては別途勉強法を詳しく説明しています。
論文については、自分の過去問の使い方を説明した上で、誘導の乗り方・問題文の読み方について、これも実際の問題を通して説明しています。さらに、時間配分の仕方や、当日の所持品など、細かい部分についても紹介をしています。
③では、「論証・定義は丸暗記すべきか?」という点について、自分がこれらにどのように向き合っていたかを説明しています。目次を見るとわかるように「丸暗記すべきではない」というのが持論ですが、具体的な論証・定義を通して、自分の理解の仕方を紹介します。
ほかに、基本書・演習書・判例集の使い方についても紹介しています。これらは①②の各論の中でもちょこちょこ紹介していますが、改めて一般論として丁寧に説明するようにしています。
記事全体を通してとにかく意識したのが、抽象論に終始せず、できる限り具体例を用い、実際に使える知識になるよう噛み砕いて説明することです。分量は10万字を超えていますが、これは多くの具体例を用いた結果だとご理解ください。
加えて、具体的なイメージがわくよう、自分の作成していたノートや参考書の写真を掲載していたりします(恥ずかしいですが笑)。この記事の最後には、民法のまとめノートも載せているので、そういった付録も是非活用してもらえたらと思っています。
ひとまず、民法に関してはほとんど無料公開しているので、まずは民法を読んでみて記事のイメージをつかんでもらえたらと思います!
(3)記事のばら売りについて
この記事は、初学者から司法試験受験前の人まで、全ての人に参考になるよう作成していますが、かなり学習が進んでいる方にとっては、科目別の勉強法は不要だという人もいるかと思います。
そこで、この記事の8~12章だけを収録した記事も用意しているので、それぞれのニーズに合わせて読んでもらえたらと思います(内容は全く同じです)!
(4)お知らせ欄
noteは記事の公開後も編集が可能なので、内容面での変更を加えた場合や、何かしら報告がある場合には、ここに随時追記をしていくことにします。
なお、note内のファイルをダウンロードできない等の不具合が生じた場合には、TwitterのDMで連絡していただければ対応いたします(Twitterアカウントはプロフィール欄にリンクが張ってあります)。
1 民法
(1) 初学者段階①ー簡単な事例に法律を適用する
さて、民法から紹介していこうと思いますが、民法は分量も多く、中々難しい科目だと思います。
まずは使っていた教科書を紹介します。
民法総則
物権法
担保物権法(物権も入っています)
債権総論
債権各論
不法行為法
家族法
これらのテキストで十分司法試験まで対応することができると思います。ただ、プラクティス民法債権総論はややレベルが高く、正直潮見先生の解説無しで、初学者が解読するのは困難なところがあります。
自分は、プラクティスでよくわからないところは新ハイブリッド民法を用いて対応しましたが、むしろ最初はこれくらいの平易なテキストを基本書にするほうが良いと思います。
さて、初学者段階でやるべきことは、とにかく法律を簡単な事例問題にあてはめていくことだと思います。
法律の勉強をする際には、法律が具体的な場面でどのように運用されるのかイメージを持つことが重要ですが、そのイメージをつけるためにはとにかく具体例にあてはめてみることが大事です。
そこで、僕は初学者段階では、ひたすら教科書に載っている具体的な事例に法律を適用するという作業をやっていきました。
ただ、上に挙げた教科書には、民法の基礎以外は、教科書の中に具体的な設例が載っていない(プラクティス債権総論や親族・相続の有斐閣アルマには設例はありますが、答えは載っていないので使いづらいと思います)という問題があります。そのため、教科書を読むのと併用して、何かしら短文の事例演習テキストを用いるとよいです。
僕はロープラクティス民法を使っていましたが、これは少し難しいので初学者にはやや向いていないと思います。今は民法演習サブノートという教材が短文の事例問題集としては評判がよさそうです。
そして、初学者の段階では、法律を簡単な事例にあてはめていく作業のやり方でけっこうつまずいていると思います。大学でもこの点について詳しく教えてくれないので、予備校に通っていないとつまずくのは当然と言えます。
そこで、以下では法律の基本とも言われる民法を通して、基本的な法律の適用の仕方を説明していこうと思います。
(2)初学者段階②ー「条文からはじめる」とはどういうことか?
ここでは、以下の事例を通して、法律を事例に適用していく方法を確認していきましょう。
この事例では、CはDとの間で乙を購入するという約束(=売買契約)をした上で、CはDに500万円を支払っており、Dは乙をCに渡しています。
しかし、乙はXの作品だと思って買ったのに、本当はYのものだったということが判明してしまいました。Cとしては、Xの作品じゃないなら、Dとの間の売買はなかったことにしてしまいたいと思っています。
そこで、Cが、CD間の売買契約を取り消すことができるか検討していきましょう。
ここで気持ち的には、「誰の作品かで価値が変わるんだから、売買をなかったことにできるのは当然だ!」と思うかもしれません。しかし、そういった感情でルールを作ることができるなら、みんなが好き勝手に都合のいいルールを主張してしまって、大変なことになってしまいます。
じゃあ日本の法的なルールはどういう形で決定されているのかというと、それはまさに法律の「条文」に規定されているわけです。なので、法学におけるルールを考えるときには、常識からスタートするのではなく、まずは「条文」にルールがないかを探していくようにしましょう(異なる見解もありうると思いますが)。
では、さっそく民法の条文を探していきましょう。今回、CはDに対して、「乙を購入したい」という意思表示をしているわけですが、民法の目次(民法の条文の一番最初に目次が掲載されているはずです)を見ると、意思表示に関する規定は、第1編第5章第2節(93条~98条の2)にあることがわかります。
今回、Cは、「Xの作品だと思っていたのに本当はYの作品だった」という形で錯誤(勘違い)が存在します。詐欺も検討の余地はありますが、Yは明示的に「これはXの作品だ」と騙しにきているわけではないので、一旦今回は考えないことにしましょう。
そうすると、今回使うべき規定は、民法95条ということになります。
このように、まずは使えるルールを探す必要があるわけですが、ルールは基本的に条文に書いてあります。条文を見つけることができれば、次に検討するべきは、今回この条文(=ルール)が使える場面かどうか?、ということですね。この点について、次の項から見ていきましょう。
(3)初学者段階③ー条文から要件を導き出す
民法95条を使えばよいことがわかったので、ここからは95条のルールについて詳しくみていきましょう。初学者の頃は、条文を読むのは本当にしんどいと思いますが、頑張って95条を読んでみてください。
今回、Cは、Dとの間の売買契約を取り消したいと思っていました。
そこで、95条1項の規定を見てみると、「意思表示は」「次に掲げる錯誤」、「に基づくものであって」、「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは」、「取り消すことができる」、と書いてあります。
ここから、意思表示の取消しをするためには、①「次に掲げる錯誤があること」、②「意思表示が錯誤に基づくものであること」、③「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること」、が必要であるとわかりますね。
「次に掲げる錯誤」と「に基づくものであって」を分割することについては、最初は思いつかないと思います。ただ、錯誤の有無と、錯誤→意思表示の因果関係の有無は内容的には別物なので、分割するのが通常だと思います。
こういった分割の仕方は、基本書等で分割の仕方を見ていくうちにだんだんと慣れていくと思うので、現段階ではこういうものかと思っておきましょう。
このように、条文の文言から、「取消し」という効果を得るために必要な条件(=要件)を導きだしていきます。
では、①については「次に掲げる」と書いてあるため、もう少し詳しく見る必要があります。
ここで、1号の「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」と2号の「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」、という2つの選択肢があることがわかります。
次の項で説明をしますが、とりあえず今回は2号の「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」のパターンだと思っておいてください。
さて、2号のパターンの場合には、95条2項により、更なる要件が追加されています。
「前項第2号の規定による意思表示の取消し」とは、95条第1項第2号の錯誤を理由とする意思表示の取消しを指しています。
これをするためには、④「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと」が必要であると条文には規定されていますね。つまり、2号のパターンのときには、追加の要件が存在するわけです。
このように、条文を読み解いていけば、取消しという効果を得るために必要な要件を導いていくことができます。「条文を読み解いていけば」という部分が非常に重要です!
初学者にありがちなのが、基本書に錯誤の要件は4つ書いてあった、だからこれを丸暗記すればいいんだ!、という発想です。
これをやっていると、暗記量が膨大になり、また次に述べる「論点主義」に陥ってしまいがちになるので、絶対にやめましょう。最初は条文を読むのは苦行だと思いますが、基本書を頼りにしつつ、頑張って条文を解読する作業を行うようにしてください。
というわけで、今回取消しをするための要件をまとめておきます。
①次に掲げる錯誤があること=95条1項2号の錯誤があること
②意思表示が錯誤に基づくものであること
③その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること
④その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと
※本当は95条3項の検討も必要ですが、ややこしくなるため今回は省略します。また、実際に取り消す際には、取消しの意思表示が必要となります(123条)。
(4)初学者段階④ー「論点主義」を避け、条文に事例のあてはめをする
これで取消しをするための要件がわかったので、次はこれらの要件を満たしているかどうかを検討していきましょう。
まず、①次に掲げる錯誤があること=95条1項2号の錯誤があることから見ていきましょう。
とにかく、条文の文言に事例をあてはめていって、要件を満たしているかどうかを確認していきます。
今回「表意者」は、売買の意思表示をしたCです。
そして、Cは、売買契約という「法律行為」をするにあたって、乙がXの作品であることを「基礎とし」ていました(=乙がXの作品であることを売買契約締結の動機としていた)。つまり、「法律行為の基礎とした事情」とは、乙がXの作品であること、ですね。
しかし、「乙がXの作品である」というCの「認識」は、本当は乙はYの作品なのですから、「真実に反する」と言えます。
以上より、Cには「法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤」があると言え、①の要件を充足しています。
次に、②意思表示が錯誤に基づくものであること、です。これはほぼ明らかで、Cは乙がXの作品だと勘違いして売買の申込みをしているので、錯誤が理由となって売買契約を締結したと評価できます。
そして、③その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること、についてです。
花器の売買においては、それが誰の作品であるか?ということによって大きく花器の価値が変動することになります。そのため、花器の売買というCD間の法律行為の目的や、取引上の社会通念から考えて、花器の作者の錯誤は重要なものであると評価できるでしょう。
最後に、④その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと、です。
さて、法律行為の基礎とされていることが「表示されていた」と言えるのはどのような場合かについて、学説上様々な見解が主張されています。
ここまでは条文の文言に愚直にあてはめてきましたが、条文によっては、文言の意味を適切に解釈する必要がある場合があります(条文解釈)。ここでは95条2項の解釈について詳しく見ることはしませんので、詳しい内容が気になる人は、基本書で確認しておきましょう。
というわけで、今回は、「表示されていた」の意味は次のように解釈しておきます。
このように、条文を解釈する場合には、原則として【理由+解釈の結果】を示すようにしましょう。
今回で言うと、理由部分は、「意思表示の基礎となる事情については原則として意思表示者が情報を収集する責任を負っていることから」という部分です。
解釈の結果は「単に行為基礎事情の表示をしたというだけでは足りず、行為基礎事情に関する認識が法律行為の内容(合意の内容)とな」ること、ですね。
こうして、条文の文言の意味が明らかでない・争いがある場合には、文言の意味を明らかにするために、解釈という作業をする必要があります。
ここで重要なのは、あくまで条文の文言の意味を明らかにしているということを忘れないことです。
初学者にありがちなのは、「行為基礎事情の錯誤のときは、それが法律行為の内容になっていることが必要である。」、みたいな形で、95条2項の条文と全く関係のない形で話を捉えてしまうことです。これがいわゆる論点主義と呼ばれるもので、避けるべき状態と言えます。
繰り返しになりますが、今回は95条2項の「表示されていた」という文言の意味は「行為基礎事情が法律行為の内容になっていた」というものだ、と解釈しているわけです。条文とは別のところで論点が発生しているわけではないことをしっかりと確認しておいてください。
※ただ、条文とは別のところで、原理原則・趣旨等から考えて、新たな要件が必要とされることはあります(特に刑訴法・民訴法に多いです)。ただし、それはあくまで例外的な場合と捉えておきましょう。
というわけで、長くなりましたが、最後に本件で④要件が充足されているかどうかについて検討しておきましょう。
ここでは、乙がXの作品であることが合意の内容になっていたかが問題となります。今回の事例の事情だけではこの点は明らかではないですが、代金が500万円と高額な値段となっていることからして、Xの作品であることを前提として合意がなされた可能性はあると考えられます。
というわけで、①②③の要件は充足しているため、④の要件をみたしていると言える場合には、Cは売買契約を取り消すことができるということになります。
ここまでかなり長く検討してきたので、次の項で全体像を把握しておきましょう!
(5)初学者段階⑤ー小括・法的三段論法
ここまでの総括をしていきます。
まず、ルールは条文からでてくるため、売買契約を取り消すために使える条文を探していきました(ステップ1)。
次に、95条の条文を読んで、取消しのために必要な要件が何かを導いていきました(ステップ2)。ここで、95条2項のように、要件によっては文言の意味を明らかにするために、【理由+解釈の結果】という形で、文言の解釈をする必要がありました。
その上で、各要件を満たしているかどうかについて、本件の事例にあてはめていきました(ステップ3)。
ステップ1~ステップ3を踏むことで、取消しができるか否かの結論が判明します(ステップ4)。
このように、一定のルールに対して(ステップ1・2)、事例をあてはめて(ステップ3)、結論を出す(ステップ4)、これがいわゆる法的三段論法というものです。名前がいかついため、ものすごい複雑な論法かのように思ってしまいがちですが、実際は大したものではありません。
初学者段階は、まずは民法の事例問題を通して、条文のルール→あてはめ→結論、という思考の流れに慣れていきましょう!
最後に、参考までに答案を書くとしたらどうなるかを掲載しておきます。読んでみると、ここまでに検討してきた内容を単にまとめただけということがわかると思います(つまりここまでの流れをつかめば、答案も書けるようになっていくということです)。
(6)初学者段階⑥ー条文からはじまらない場合は例外
さて、ここまで、ルールは条文からでてくる、条文と離れて論点を検討しないように、ということを何回も繰り返し述べてきました。
しかし、実際には条文とは関係ないところからルールがでてくることがあります。そして、それを初学者の段階で学ぶことになるため、条文から検討するという意識が薄くなり、「条文から検討せよ!」「論点主義になるな!」という指摘が飛び交っているのだと思います。
そこで、ここでは条文以外からルールがでてくる事例を確認し、あくまでこれが例外であることを強調しておきたいと思います。
条文に直接規定されていないルールの代表的なものとして、物権的請求権があると思います。
例えば、自分が所有権を持っている土地に勝手に自動車を駐車している人がいたとします。物権的請求権とは、このような場合に、所有権者が自動車の持ち主に、自動車を土地から動かすよう請求できるというものです。
さて、所有権者が、自分の所有物の利用が妨害されている場合にこれを排除する権利を有するということについては、民法上、直接これを定めた規定が存在しません。
しかし、よく考えてみると、民法206条で、所有者は自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有すると規定されています。自由に利用する権利を有しているなら、その利用が妨害されている場合にこれを除去することができるのは、ある意味当然であるとも言えます。
このような、法律上規定されている所有権の性質からすると、所有権に基づいて妨害排除請求をすることができるというルールを導くことができるはずである、という形で物権的請求権が導かれているわけです(他にも物権的請求権の根拠は主張されています。なお、物権的請求権は所有権に限った話ではないですが、話の便宜上所有権を例に出しています)。
この場合も、先ほどのように文言の解釈をしているわけではありませんが、法律の規定からルールを導き出していると言えます。
そして、こういった技を使うことになるのは、あくまで例外事例です。先ほども述べたように、法的なルールを決めるのは、基本的には国民の代表たる国会の役割であり、裁判所がルール決定の第1人者ではありません。
このように国会の定めた法律を基にして物権的請求権のような不文のルールを導くこともありますが、それを裁判所がやりまくってしまうと、国民の代表者でない裁判所が勝手にルールを作ってしまうことになり、問題が生じてしまいます。
なので、初学者の段階では、物権的請求権のような不文のルールはあくまで例外事例であると理解し、ルールは条文から導くという姿勢を身につけていきましょう。
(7)初学者段階⑦ー教科書を読んで、演習をしていく
ここまで(2)~(6)までひたすら法的なものの考え方の基礎について解説をしていきました。
最後に、実際に(1)で挙げた教科書や演習書のうち、初学者がどの単元を重点的に扱えばよいかについて紹介しておこうと思います。
というのも、法律の勉強は(法律に限らないですが)、全体を学んでからの方が理解が深まることが多いのですが、民法は他の科目と比べて分量が膨大なので、一通り勉強するだけでも非常に長い時間がかかるからです。
そこで、以下を参考にして、できるだけ効率的に1周目の勉強を終わらせてしまいましょう。以下に挙がっていない単元はしっかりと理解し、挙がっている単元はざっくり理解、あるいはとばしてしまってください。
また、各単元の中には、他の単元の知識を前提とする論点が登場することがよくあります。
例えば、総則の代理の範囲では、無権代理と相続という論点があります。このような総則と家族法が融合した論点については、家族法を勉強してからでないといまいち理解ができないと思います。
なので、1周目の段階では、こういった論点はどんどん飛ばし、2周目に理解すればよいと思っておきましょう。教科書の読み方は再度10章で詳しく解説したいと思います。
このようにして、1周目は主要な単元の基本書を読み、短文事例を用いて具体的なイメージをつかみ、アウトプットをするという作業を行ってください。
1周目の段階では、短文事例を扱うのは具体的なイメージを持つことが目的なので、あまり答案を書くことにこだわらなくてよいと思います。どの法律が問題になるか、要件は何か、要件を事例にあてはめたらどうなるか、といった先ほどのステップを踏む練習さえしていれば、それを完全な文章に起こさなくても大丈夫です。
このようにして、一通り全体像をつかむことができたら、次は飛ばした論点を埋めつつ、答案を書く練習をしていきましょう。
自分が勉強していたころは改正民法に対応した答案付きの演習書がなく、かなり苦労したのですが、今は予備校の問題集も改正法に対応しているようです。伊藤塾の試験対策問題集が、難易度的にもちょうどよいのではないかと思います。
まずは問題を解く前に該当する分野の基本書を読み、そのあと自力で答案作成をしてみましょう。
最初はなかなか日本語がでてこなかったりして苦戦すると思いますが、基本書の言葉の使い方や、答案例の言葉遣いを真似して、徐々に日本語での表現力を向上させていってください。
(8) 中級者段階①ーやや複雑な事例問題を検討する
このようにして、民法の短文問題に対して法律を適用できるようになってきたら、その時点でかなりの実力がついていると言えます。今年の司法試験もそうでしたが、司法試験では単に条文を適用するだけの、基本的な問題も多く出題されるからです。
とはいえ、司法試験も年度によっては複雑な事例がでることも多く、もう少し実力を伸ばす必要があります。
ここから先に必要な能力とは、1つの条文だけでなく、複数の条文を組み合わせて事例問題を検討する力です。そのためには、やや複雑な事例問題の演習をすることと、民法の体系的な理解を深めることが必要になります。
まずは、複雑な事例問題の演習についてです。
京大ローでは、授業で現在改訂中の民法事例演習教材が扱われ、これを中心に勉強を進めていきました。
このテキストと京大の授業はかなり有用で、問題演習に関しては京大の授業を丁寧にこなしていれば十分な力が身に付くと思います。
ただ、京大ロー生は授業があるのでいいのですが、他大学の人や予備試験経由の受験生の方にとっては、このテキストは改訂中かつ解答がないので全くおすすめできません。
そこで、やや複雑な問題を扱ったテキストとしては、平野先生の考える民法が挙げられると思います。
また、最近出た実践演習民法は予備試験論文を題材にし、参考答案もついているので、かなり有用なテキストなのではないかと思います。
「新考える民法」は解説も詳しく、これを全て解けば京大ローの授業と同等の効果が得られそうですが、4冊あるので分量が非常に多いです。なので、実践演習民法の方が演習書としては現実的なのではないかと思います。民法を得意科目にしたい、かつ時間がある場合には「新考える民法」を使ってもよさそうです。
さて、長文の事例問題を解くときのコツですが、必ず何の権利に基づいて請求をするのか?というところからスタートするようにしましょう(京大ではこれを最初に徹底的に叩き込まれます)。
例えば、AB間で売買契約を締結し、AがBに対して1000万円を支払っていたが、AB間の契約がBの債務不履行により解除され、AはBに対して1000万円の返還を求めたいとします。
この場合、Aの請求は、民法545条1項の原状回復請求権に基づくものになります。最初の段階は、「解除すればお金返ってくるのは当然やろ」みたいな感じで、何の権利に基づくのかをおろそかにしてしまいがちなので、必ず権利を確認するようにしましょう。
このように、権利を確定することができれば、次は権利発生のための要件を認定していくことになります(初学者段階と同じ話です)。
売買契約解除に基づく原状回復請求権が発生するための要件は、①売買契約の締結、②売買契約に基づく代金支払い、③売買契約の解除、です。そして、③の解除の要件は、例えば541条に基づく解除の場合には、(a)債務不履行、(b)催告、(c)相当期間経過、(d)債務不履行が軽微でないこと、という形になります。
このように、要件に1つ1つ当てはめていくことで、請求の可否を判断することができるわけですね。
このようにして請求を立てられるとしても、民法には様々な抗弁を定めた規定があります。そこで、次は何らかの抗弁が成立しないかを検討していきます。
今回でいうと、AがBに対して1000万円を支払っていると同時に、BもAに対して売買の目的物を引き渡している可能性があります。その場合には、Bは民法546条・533条に基づき、同時履行の抗弁を主張し、目的物の引渡しと引き換えでなければ1000万円の返還をしないと主張できることになります。
抗弁の場合にも、請求権の検討と同じように、(1)何の抗弁を主張しうるか、(2)抗弁の要件を充足しているか、という順番で検討していくことになります。
今回は、533条の条文を見ると、①AもBに対して原状回復義務を負っていること(双務契約性の代わり)、②相手方が債務の履行を提供していないこと、③相手方の債務が弁済期にあること、④同時履行の権利主張、が要件となります(なお、②③については再抗弁に回りますが、司法試験の答案作成上は要件事実的な整理にこだわる必要はないと思います)。
そして、その後、更なる反論がある場合には、再抗弁→再々抗弁と進んでいくことになります。あるいは、抗弁に反論不可能な場合には、元の請求を諦めて、別の請求権に基づく請求を考えることになります。
こういった、①請求権の確定、②請求権の要件認定、③抗弁の検討、④抗弁の要件認定、⑤再抗弁あるいは別の請求権の確定、⑥再抗弁あるいは別の請求権の要件認定、、、といった整理ができるようになるために、やや複雑な事例問題演習をする必要があるわけです。
では、次の項では司法試験過去問を用いて、この点を詳しく見ていくことにします。
(9)中級者段階②ー令和2年司法試験問題を題材に
もう少しきちんとした事例で説明したほうが良いと思うので、令和2年司法試験過去問の設問1を題材に検討していきましょう。一度自分で起案・答案構成をしてみてください。
契約不適合、債権譲渡、相殺あたりの複合問題になっていますね。
今回はBの反論が問われていますが、反論をするための前提として、まずはCの請求権の内容を明らかにする必要があります。
Cは契約①の残代金5000万円の支払を求めています。契約①は売買契約ですから、売買契約に基づく代金支払請求権がCの請求の根拠ですね。
ただ、契約①はAとBの間で締結されたものなので、契約①の存在だけではCは代金支払請求をすることはできません。今回は、契約①の存在に加えて、AとCの間で契約①に基づく代金支払請求権の債権譲渡がなされたことを理由に、Cは代金支払請求をしているわけです。
このように、Cは売買契約たる契約①の存在+代金支払請求権の債権譲渡を理由として、Bに対して5000万円の支払いを求めているわけですね。
では、これを前提として、Bが支払額を少なくするための反論を検討していきましょう。
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