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「魔王だけど大好きなお姫様を守るために見習い兵士やらせていただく」第41話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)

第41話 貞操の危機

「違う!」

 焦りから、声を張り上げて否定した。
 そんな俺を冷やかすようなカゼマルの視線に、背筋がゾクっとした。

「よし! 決まりだな。よーしよしよし。それじゃあ簡単だ。俺の魔法でおまえに惚れさせてやるよ。何なら、この場で犯しちゃいなよ。それで女もおまえもハッピーだ」

 その言葉を聞いた瞬間、俺はこいつに殴りかかっていた。
 だが虚しくも返り討ちにされて、吹き飛ばされてしまう。

 それでも俺は、すぐさまやつに突っ込んでいき、再び拳を振るう。
 悔しいが返り討ちに会い、壁に激突した。
 その俺の腹に、追い打ちの蹴りが飛んでくる。

「うがー!」

 腹を足で踏みつけながら、カゼマルがニヤニヤした顔で俺を見下ろした。

「がははは! おまえ、まさかとは思うが。魔王のくせにアレか? まさかまさか。おいおいおいおい。ははは、まさかとは思うが……アレなのか?」

 言いながら、カゼマルが足の裏をさらに俺の腹へめり込ませてくる。

「があああぁぁぁあああああ!」

 痛みと苦しみが腹の奥から込み上げ、口から血反吐が出た。

「童貞か?」
「死ね、クソが!」

 カゼマルが足をどけた後、その足で俺の横顔を蹴り飛ばした。
 全身の力が抜けて、身動きが取れない。

「冗談きついぜ。魔王様ともあろうお方が童貞とか。さすがにそれじゃ恰好つかんだろう」

 あきれ顔で、転がる俺の元へと歩いてくる。
 そして顔を近づけてきて、耳打ちしてきた。

「知ってる? 一発ヤレば自信がついて、女にもモテるようになるんだぞ。ほら、ちょうど惚れてる女を犯すチャンスなんだぜ。初めてってことは、俺とおまえの秘密にしておいてやるからよ」

 こいつのクソったれな言葉に反吐が出る。
 殴り飛ばしたいのに、体がいうことをきかない。
 ただ、睨み返すことしかできない。

「はぁ、これだから童貞は……。仕方ねぇなあ。俺がやり方を実演してやるから、しっかり見ておけよ」

 カゼマルが横たわるレイナックへと向かっていく。

 こいつ、絶対に許さん!
 くそ!
 なんで俺の足が動かない!
 這ってでもやつを止めねば!

 手で床を這いずり、やつの足にしがみつく。
 しかし顔を蹴り飛ばされ、地面に転がされた。

 カゼマルはレイナックの前に立つと、彼女に手のひらを向けた。

「まだガキくせぇが、なかなか整った顔じゃねえの。たまにはこんな女も悪くねえかなあ。がははは!」

 やつの手のひらから放たれた赤い光が、レイナックの体に流れ込む。

「や、やめ……」

 声を出すと、口から血が吐き出された。
 そんな俺を見ながら、やつがレイナックの上半身を腕で抱き起こし、嫌らしく笑みを垂れる。

「ほうら。これでこの女は感度ビンビン。全身性感帯だ」

 反吐が出るような台詞を口にし、レイナックの首筋を人差し指でなぞる。
 彼女の体が、ビクッビクッと痙攣しだした。

「な、便利だろ。俺の色欲魔法。誰の肉棒だろうが、欲しくて欲しくてたまらない体になっちまうのさ。ほうれほれほれ」

 そう言ってカゼマルが、レイナックの腕や胸を指でつつく。そのたびに彼女の体が反応していた。

「はーい、それじゃあ本番入りまーす。よぉおおく見ておけよぉ童貞君! 大先輩の俺様が女を喜ばせる手ほどきを、しっかり見せてやるからな」

 カゼマルが舌を出して上下に動かし、レイナックの唇に近づけていく。
 それを見た瞬間、俺はキレた。

 意識がぷっつり途切れて、時間が飛んだような感覚だった。

 気付いたら俺は、レイナックの側に立っていた。カゼマルの姿が見えない。
 どうやったか自分でも覚えていないが、右こぶしに感触が残っている。

 カゼマルを殴り飛ばしたのか。

 グレインが麻薬漬けのレイナックを連れてきたときと同じだ。
 あのときも意識は途切れ、気が付くと倒れているグレインを見下ろしていた。
 そういえばあのとき意識が戻ったのは、レイナックのおかげだった。彼女が放つ暖かい光を感じ取り、そのおかげで意識を取り戻したのだ。

 そして今、あのときと同じ暖かさを感じる。

 自分の体をよく見ると、黄金の光が包み込んでいた。
 幼いころ、魔獣どもに追われて死にかけていた俺を助けてくれたのも、この光だった。

 しばらくして、俺の背中にぬくもりを感じた。
 この暖かい感覚はレイナックか。
 彼女が今、俺の背中に身を寄せているようだ。

「タロウ……さん……」

 背中からレイナックの声がした。
 しかも、俺の名前を。
 まさか彼女は、俺の正体に気付いているのか。

 振り返ると、レイナックがうつろな目で俺を見つめていた。
 この目、はっきり意識があるわけじゃない?

「人違いだ。俺はタロウという者ではない」

 そう言うとレイナックは悲し気に微笑み、うつむいた。
 俺にしがみつき、立っているのもやっとといった感じだ。

「そう……ですよね。ごめんなさいです。あなたに似た人がいて、いつも私を守ってくれて……笑わせてくれて、優しくしてくれて。もしかしたら、あの日の魔族の男の子が、私に会うために来てくれたのかもって……期待して。もしそうなら、嬉しいなって」

 息を荒くし、途切れ途切れな声でレイナックがつぶやいた。

 そうだよ。君に会いに来たんだ。
 彼女にそう伝えてしまいたかった。

 だが俺は、彼女の言葉を黙って聞くしかなかった。
 魔族と人間の恋は、悲劇しか生まない。歴史がそう証明している。

 そのくせ会いに来てしまったのは俺の罪か。
 でも俺はただ、側で君を守ってあげたかっただけなんだ。

「そんなはず、ありませんよね。あのときの男の子は魔族で、タロウさんは人間。そんなはずない」


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『第1話:プロローグ』https://note.com/gakira_note/n/n71af2c4f65e5
【第一章 人間の姫を守りたい見習い兵士の魔王様】
『第2話』https://note.com/gakira_note/n/nd19f582c62cb
『第3話』https://note.com/gakira_note/n/n379d45c671b9
『第4話』https://note.com/gakira_note/n/ne5f92378302b
【第二章 魔王様が願うは姫の幸せのみ】
『第5話』https://note.com/gakira_note/n/nf03d8e14137e
『第6話』https://note.com/gakira_note/n/ne9f2364900c8
『第7話』https://note.com/gakira_note/n/nb39275ba0bba
『第8話』https://note.com/gakira_note/n/nd58d972672c8
『第9話』https://note.com/gakira_note/n/n12bea975be18
『第10話』https://note.com/gakira_note/n/n9d1cd1f069ff
『第11話』https://note.com/gakira_note/n/n4c5cc5645a9d
『第12話』https://note.com/gakira_note/n/n9be5c2cf3219
『第13話』https://note.com/gakira_note/n/n639c535c0758
『第14話』https://note.com/gakira_note/n/n6b2d0a4c27dd
『第15話』https://note.com/gakira_note/n/n88a98a19a2a6
『第16話』https://note.com/gakira_note/n/n7ca4c2a1698d
『第17話』https://note.com/gakira_note/n/ne6f7e4c90a76
『第18話』https://note.com/gakira_note/n/na01643de128d
『第19話』https://note.com/gakira_note/n/nca4ddc0dc6f2
『第20話』https://note.com/gakira_note/n/n0256a773ad72
『第21話』https://note.com/gakira_note/n/n7b93da8e0049
『第22話』https://note.com/gakira_note/n/n20cd340894e5
『第23話』https://note.com/gakira_note/n/n75d24149a911
『第24話』https://note.com/gakira_note/n/nc7847ca9ba58
【第三章 魔王の壮大なる野望】
『第25話』https://note.com/gakira_note/n/n28baf5b3286e
『第26話』https://note.com/gakira_note/n/n88d6cb858f71
『第27話』https://note.com/gakira_note/n/n246a2605ccbb
『第28話』https://note.com/gakira_note/n/n7cb55dcaa3d0
『第29話』https://note.com/gakira_note/n/na283616076fc
『第30話』https://note.com/gakira_note/n/nc2903accc598
『第31話』https://note.com/gakira_note/n/n9ba77ca59ddd
『第32話』https://note.com/gakira_note/n/n69678c2db8aa
『第33話』https://note.com/gakira_note/n/n0f1cb38577ee
『第34話』https://note.com/gakira_note/n/na62a832c125b
『第35話』https://note.com/gakira_note/n/nb5947240010e
『第36話』https://note.com/gakira_note/n/n81d94db5b327
『第37話』https://note.com/gakira_note/n/n1466958c2aec
『第38話』https://note.com/gakira_note/n/na90cc57db9cd
『第39話』https://note.com/gakira_note/n/ndf95e6872d75
『第40話』https://note.com/gakira_note/n/n72c3acb4891d
『第41話』https://note.com/gakira_note/n/na0b4a2eabb25
『第42話』https://note.com/gakira_note/n/ndef263e40da5
『第43話』https://note.com/gakira_note/n/n110b6c0b4b91
『第44話』https://note.com/gakira_note/n/n9da0c98e3b1e
『第45話』https://note.com/gakira_note/n/n9cd5685fc1ad
『第46話』https://note.com/gakira_note/n/n6dad08805153
『エピローグ』https://note.com/gakira_note/n/n2b1194319595

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