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読書遍歴

私の最初の本の記憶は、幼稚園の卒園式でもらった児童書だ。
こぎつねの男の子の話で、詳しい内容は忘れたけれど、こぎつねのコンチの兄弟が生まれる話が印象的だった。幼いこどもの感情の揺れ動くさまを、この本から感じた。

私は小さい頃から本や漫画が好きだった。
今思えば、本を通して人の感情に触れて、心はどんなものかを知りたかったのかもしれない。私の家族は分かりやすい愛情表現、感情表現をしなかったので、なおさら気になる部分だったんだろう。ミステリーやSFよりも、どちらかというとエッセイや、日常的な、心の機微を描いた作品が今でも好きだ。

中学生の頃、教室の片隅に小さな本棚があった。先生も本が好きだったんだろう。自分で買った本や漫画をその本棚に置いてくれていて、生徒は自由に持ち出して読んで良かった。私はよくその本棚から本を持ち出して読んでいた。その中の1冊が、私に大きな影響を与えた。
それは、島本理生のナラタージュという本で、卒業後の生徒と先生の恋愛を中心に描いた作品だ。私が衝撃を受けたのは、文章の瑞々しさだった。ひとつひとつの文章がしなやかで、綺麗で、惹きつけられるものがあった。主人公の感情がすなおに伝わってくるし、美しいなと思った。途中、後輩の女の子が亡くなってしまうシーンでは、嗚咽するほど泣いた。小説を読んでこんなに泣いたのは、人生で初めてだった。


この経験から、本に対する気持ちが変化した気がする。本は娯楽である以上に、沢山のものを与えてくれるものだと実感した。中学生という多感な時期にこの本に出会えたのは、私にとって特別な出来事だった。

高校生になってもよく本を読んだ。高校の図書館や本屋さんで様々な本に出会った。意識はしていないが、読むのはもっぱら女性作家の本だった。島本理生や江國香織やよしもとばななが好きで、あとはタイトルの書体や表紙が好みの本を気まぐれに読んでいた。村上春樹のノルウェイの森に出会ったのも高校生の頃で、それ以来何度か読み返すくらい気に入っている。

高校生のある時、私は駅の本屋さんで暇つぶし用に読む本を探していた。部活で受付をする用事があり、暇な時間に読もうと思っていたのだ。そこで出会ったのが朝倉かすみの「ほかに誰がいる」だった。
この本もまた衝撃だった。かわいらいい表紙とは相反して、人の狂気に迫った部分が書かれていた。それでも主人公の感情は涙が出るほと切実で、愛おしい。何より文章がおもしろく、あっという間に読み切った。私にとって純粋に「おもしろい」と思える本だ。同じ作者の「感応連鎖」も大好きだ。少し毒っぽい、センスのある愉快な本だった。ちょっとこわい。

大人になってから出会った本で印象的だったものは、吉本ばななの「ハチ公の最後の恋人」それから、その後日談にもなっている「サウスポイント」だ。
これらの本は人生というものにかなり寄り添って書かれていて、それがとても私を元気づけた。
人生の中で起こる不遇な出来事、悲しいこと。小さな人間ひとりではどうしようもない。それでも巡り巡って、変化していく。出会う人には出会うし、別れる。悲しみも喜びもすべて包括して、時が流れていく。これは吉本ばななの作品の多くに共通している気がする。重たいテーマでもあるのに、口当たりはさくっと軽い、不思議な感じだ。幼い心を残したまま大人になった人なのかなあ、と想像している。

数はそれほど多くないけれど、今まで読んだものが自分の中に蓄積されている気がするし、やっぱり出会った本は私が求めているものだった場合が多い。
本が自分を形成しているのか、私と本が呼応しているのかはわからないけれど、とても良い出会いがたくさんあったのは間違いない。
好きな本がたくさんある。また本について色々書きたいな。


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