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恋するサテライト【短編SFラブファンタジー】

わたしはサテライト。地球を回る人工衛星。正式な名前は、えーとなんだっけな、確かHST-Ⅳって言ったかな。自分のことはハビーって呼んでる。地上の管制官がそう呼んでいるから。

いつからこの地球を回っているのか、よく思い出せないんだ。気がついたらロケットに乗せられて、この真空の宇宙空間に放り出されてた。来る日も来る日も、この星の周りをぐるぐるぐるぐる回ってる。(来る日も来る日もって、言い方が正確じゃないけど、まあ細かいことは気にしない)

ずうっと昼と夜との繰り返し。退屈っちゃ退屈。でも遠くを見ることができる望遠鏡を積んでるから、時々地上からの指令で遠くの星を見たりする。その時はなんかドキドキするよ。銀河系の外のアンドロメダ星雲や超新星爆発、ブラックホール、それから宇宙の果ての、この宇宙ができたばっかりの頃の、生まれたての赤ちゃん星を一生懸命覗いたこともあった。可愛かったな。

この眼の前に広がる蒼い星を眺めているのだって、嫌いじゃないよ。ずっと飽きずに見てられる。緑色のジャングルや真っ赤な砂漠。あーもう、ちょっと手を伸ばせば届きそうなのに!雲の形はいつも違うし、まあるい水平線から太陽が昇る時は、とっても綺麗。夜には地上もところどころキラキラ光ってる。あれはなんの光なんだろう。もっと近くで見てみたいなあ。

…でももう諦めてる。勝手に軌道を変えちゃいけないって、管制官にはきつく言われてるんだ。このまま朝が来て夜が来てを繰り返して、時間が過ぎていくだけ。いったいいつまで周り続けていればいいのかな…

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うとうとしてたら、地上からの声で目が覚めた。管制官が誰かと話してる。なんか只事じゃない雰囲気。それとなく聞いてると、なんでも他のサテライトが、わたしにとっても近い軌道に打ち上げられたんだって。えー?!やめてよ。ぶつかったら怖いじゃない。

周りを見渡してみたら…いた。あいつかな。少しづつ近づいてくる。なんかゴツいけど、最新型というのはすぐわかった。一定の距離を保って飛んでるので、ぶつかることはないみたい。

ちょっとほっとしてたら、パルスが飛んできた!え?なに?いきなり話しかけられても困るんですけど…

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…彼の名前はテリーっていうんだって。本名はTRSAT-Ⅶ。地球観測衛星とかいうらしくて、リモートセンシングがどうのこうの…んー難しいことはよくわかんないけど、わたしとは逆に、地上のことを調べるのが仕事みたい。

緑のジャングルの名前がアマゾンっていうことや、紅い砂漠の名前がサハラっていうこと、ちょっと気になってた、地上にうねうねと伸びているアレ…万里の長城っていうんだって!なんか物知りよね。

一緒に地球を何周も回りながら、いろんな話をした。空から見る地球のこと。この蒼い光に包まれた美しい星は、とても豊かな自然に恵まれているけど、本当はとても繊細で壊れやすいこととか。わたしも今まで見てきた、遠いところにある星の話をいくつもしたよ。宇宙は気が遠くなるほど大きいってことも。彼は感心しながら聞いてくれた。

なんか嬉しかった。だって、ずっと寂しかったから。そう、今わかった。わたしは寂しかったんだ…

このままいつまでも一緒に飛び続けていられたら。そう思ったよ。本当に。心の底から、ずっと一緒に…

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ある時突然彼が言い出した。

"決めた。帰ろう。もう帰ろう。僕たちが産まれたあの星へ。美しい楽園がある地上へ。二人で一緒に。"

え?ちょっと待って、なにそれ、そんなこと考えたこともなかったよ。帰るってどういうこと?一緒に堕ちていくってこと?

彼は一生懸命話してくれた。地上はとても素敵なところだと。こんな何もない冷たい宇宙空間とは比べ物にならないくらい、暖かくて優しい世界なんだと。知ったかぶりをしてるのはなんとなくわかった。でもわたしもずっと、あの遠くに見える海や山や緑に、触れてみたいとは思ってたんだ。そして、彼の言うことなら信じてもいいと思った。それがたとえ嘘だったとしても…

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彼が叫ぶ。

"姿勢制御エンジンを吹かすんだ!もっと強く!地球との遠心力に負けないように!そうだ、もっと!もっとだ!"

地上の管制官からの悲鳴が聞こえる。

"いったいぜんたい、どうしちまったんだ!何を勝手なことをやってるんだ!このままじゃ大気圏に突入しちまう!進入角度が深いと燃え尽きてしまうし、浅いと大気に弾かれて宇宙空間に飛ばされてしまうぞ!適切な進入角度などプログラムされていないし、そもそも耐熱シールドが…!"

ごめんなさい、わたしは彼と一緒に地上に帰りたいの!許してください!もう少し、もう少し頑張ったら…だけどわたしのエンジンの出力はこれがもう…限界かも…!

彼との距離はどんどん離れていく。そして火の玉に包まれながら堕ちていく彼の姿を遠くに見ながら、強い衝撃と共に、わたしはいつの間にか気を失っていた…

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強い寒気で気がついた。酷く眠い… ここはいったいどこなんだろう…

見渡すと、離れたところに蒼く美しい星が浮かんでいた。間違いない、あれはずっと今まで周回していた地球だ。本当に綺麗… そして今までエネルギーを与え続けてくれた太陽も、なんかどんどん小さくなっていく。太陽電池パネルを目一杯広げてるのに、もらえるエネルギーはほんの少しだけ。

赤い星を横目で見ながら通り過ぎた。そしてその先にある、きれいな輪っかがある星の方に向かってる。でもそれも通り過ぎるのは時間の問題みたい…

眠い…このまま飛び続けたら…どこまで行くんだろう…どうせなら…アンドロメダまで行きたいな…

地球に縛られていた自分が…ずいぶん昔の事に思える……そう…わたしは自由なんだ……どこまでも……飛んで………いける……………

=了=

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オリジナル曲のために書いた歌詞を自らノベライズしました。読んで聴いてもらえると嬉しいです。


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