19.目的なき面談という落とし穴
産業保健現場では様々な面談があります。例えば以下のようなものです。
※記事中では、"面接"ではなく、あえて"面談"としています。それは、"面接"という言葉が、"医師による面接指導"という法的な言葉に通ずるからであり、医師・産業医のみに適用される言葉と捉えられかねないからです。産業保健職全般(産業医・産業看護職・産業心理職・衛生管理者等)向けに作成しておりますので”面談”という言葉で通していきますのでご承知おきください。
患者が何らかの主訴(困りごと)があり、医療者には治療(解決)を行うことが求められる臨床現場の面談(医療面接)と違い、産業保健現場の面談はとても複雑です。まずは面談に至る経緯として、労働者側によるもの、上司や人事によるもの、産業保健職側によるもの、残業時間・ストレスチェック・質問調査票・スクリーニングなどの仕組みによるものがあります。そして、面談によっては対象となる労働者が、面談の趣旨を十分に理解していない、産業医が何を判断してくれるのかといった産業医の機能・役割・権限を十分に理解していないこともよくあります。上司や人事からの依頼面談においても、産業医に何を判断して欲しいのかが曖昧なまま振ってくることもあります。そのような場合は、関係者間でボタンのかけ違いが起きてしまうこともありますし、労働者の職場での情報や勤怠情報が十分にないため、適切な判断をくだせないといったことにもなります。産業医の判断はときに大きな影響力を発揮しますので、現場理解が不十分な意見、現場と解離した非現実的な意見、実行可能性の低い意見、セーフティすぎる意見を産業医が出してしまうことによって、企業に大混乱を引き起こすこともあります。産業保健現場の面談は、労働者や上司、人事などそれぞれのニーズ・利害関係(就労、雇用、給料、配慮、人間関係上の問題)も様々に絡むことがあり、ときに訴訟問題といった大きなトラブルにつながる懸念もあります。そのため、面談の目的を理解・設定することがとても重要です(さらには、それを関係者間で合意形成することも重要です)。目的なき面談は、面談が的を射ない、面談が冗長になり面談時間が長くなる、産業保健職に対する不信感がうまれる、必要な情報収集や判断ができない、面談の本来の目的を達成できない、そして、結果的に安全配慮義務の履行(の補助)が十分に果たせないといった事態に陥ります。(参照「安全配慮義務の落とし穴」)
面談の目的設定は状況により変わってきますが、例えば以下のようなものが挙げられます。
面談の目的は事前に設定できるものや、面談中に設定・変更されるものもありますし、面談対象者次第でも変わることもありますが、一番大事な目的は決まってきますし、それを達成する必要があります。特に重要な以下の2つの面談について、主な面談の目的を示します。
【過重労働面談】
・脳・心血管系疾患リスクの判断
・MH不調リスクの判断
・受診の必要性の判断
・職場環境調整の必要性の判断
(参照「過重労働面談の落とし穴」)
【高ストレス者面談】
・MH不調リスクの判断
・高ストレス者に対するセルフケアの指導
・受診の必要性の判断
・職場環境の調整の必要性の判断
・上司や人事連携の必要性の判断
(参照「高ストレス者面談の落とし穴」)
それぞれの詳細は、また別の記事でもご説明しています。目的無く、なんとなく面談しておく、なんとなく会っておく、なんとなく話を聞いておく、とならないようにご注意ください。
就業判定の類型と優先順位の考え方の例
参考資料
・職場面接ストラテジー(産業保健ストラテジーシリーズ 第4巻)
おまけ
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