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本を読み進めるには信頼が要る

「読んでもらって」シリーズの一人目は、NPO法人Collableの代表理事・山田小百合さん。
インクルーシブデザインを活動の軸に据え、障害を包括する社会のあり方を探り続けている彼女。学生の頃に出会い濃密な時間を共に過ごしてから、直接会う機会は多くないもののSNSを通じて刺激をもらっている、戦友のような存在です。

6月上旬、東京の本郷にある彼女の事務所に顔を出したところ、事務所に同居する通称「地理人」こと今和泉隆行さんとも再会を果たしました。今和泉さんは実在しない都市の地図「空想地図」を小さい頃から書き続けているユニークな人。

まだ一章に足を踏み入れたばかりだけどさ、と前置きをしつつ、これは信頼できる本だよときっぱり言い切る山田氏。そこで、まだ目を通していない今和泉さんに拙著の良さを伝えるプレゼンテーションをする流れに。
歯に物着せない爆速山田節に、適度に相槌を挟んでリズムをつくる今和泉さん。これは録音しておかなければとすかさずiPhoneを取り出し、愉快な二人のやりとりを特等席で楽しませてもらいました。

障害のある人々に対して一方的な支援ではなく、ともに育つ機会や環境をつくっていきたいと考える山田さんの視点から、本書はどのように映るのでしょう。

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今和泉)どのような本なんでしょう。

山田)あえてすごく雑に言うとね、「地方創生」と「高校改革」みたいなことが融合されてるテーマなんです。

今)はいはいはい。

山)わかるでしょ、なんとなくね。
まどかは神山という場所になんか地縁があるのかなってちょっと思ってたんだけど、全然ないのよ。まどかのいいとこって、地縁のないとこに地縁あるように入っていけるスキルなのね。九大にいた時も、なんか福岡の人っぽかったもん。

今)元々どこの人だっけ?

山)岡山。で、九大生だった時に私たち知り合ってるの。私が自分の母校でカタリバやるために九州の学生を集めなきゃいけなかった時に、キーになる学生の1人がまどかだったわけ。で、福岡の人なんだって思ってた。
そのあと、福岡でティーチフォージャパンの支部の立ち上げをやってるんだけどさ。教育で地域入るって、ちょっとした地縁っぽい雰囲気必要なの。地方って。

今)なるほど。

山)それをしれっとやるんだよ。その後、しれっと神山に移住して、しれっと神山の人になってる。まどかのナチュラルボーンな感じが出てるなと。

山田さんは障害のあるなしに関わらないワークショップを開発・研究している(Collable提供)

で、ここからが大事というか、いいなと思ったこと話すね。
言うても(神山で活動して)6年でしょ。6年しか、とも言えるわけ。6年間活動してるだけで十分すごいんだけどさ。たかだか数年のプロジェクトを「やりました」ってドヤ顔で話すことはできるし、そういう人もいると思うんだけど、まどかは内省の人だなと。「自分はヨソから来た、しかも6年しか関わってない」という内省のもとにこの本があるんだってことが伝わる前書きなの。

今)はいはいはいはい。

山)こういうのってスペシャリストがやってるように見えるけど、自身はスペシャリストを自負してるわけでもない。このまちの熱意とか人に惚れ込んで自ら入って行って、でも自分はあくまでヨソ者としてこの場所はあると考えている。気持ちもあるけど、淡々と見つめる、みたいなバランス感を自分なりに葛藤してるんだなって。前書きを読んで「信頼できる」って思った。

今)ほう。

山)30代前半で教育関係の本書くと、「若い女の子が何言って」って切り取られてもおかしくないと思うんだけど、そういうことを突っ込ませない感じがある。内省を前提に、記録を淡々と残していって、他の地域にもエッセンスが届くように、っていうのが、なんかすごい伝わる。

今)確かにそれはすっと入ってくるわな。「自己顕示欲がちょっと強いな…」って思いながら離脱していく本はたまにあるから。

山)あるね。
例えば高校魅力化プロジェクトって、海士町の事例があるからバーって広がっていった側面はあると思うわけよ。あれを真似したいっていう自治体は増えたと思う。やっぱ日本っていい事例出るとみんな真似したがるからさ。ゆるキャラと同じで。
だけどさ、「なんで高校なのか」っていうのを各地域は考えなきゃいけないと思うんだよね、中学校でもいいやん、小学校でもいいやんとか、もしかしたら大学でもいいやんって。地域の事情によって絶対違うけど、ここは高校でなきゃいけなかったんだよね。でも一方で、高校への着眼点が地域的には薄いって事情もある。その全体の状況を見て、地域の事情も汲んで、まどかの観点から見つめてるんだよね。

今)うん。

山)そういう思考プロセスも垣間見えてるのもいいなって。

今)確かにそこは知りたいところだわ。

山)「あ、そこ考えたんだな」っていうのが、この前書きから一章に入るところで分かったわけ。

今)そう。全く同じことが気になっていて。その他の学校と高校だと、何が違ってくるのかな。そうか、そこでわかるんですね。

山)そう。…って、ちょっとしか読んでないのにすごい語ったわ(笑)

最後に撮った記念写真。それっぽくサインしてみた

(一息ついて)

山)教育に関わる人って、教育で何かを変えられるって漠然と思ってるけどさ、変わんないのよ、大体。

今)正義感が過剰に出てるタイプの人が割と多い印象はありますね。

山)うん、学校つくりたいとか言ってる人とかいるじゃん。ソーシャルな起業家やってると、いずれ学校つくりたいとか言いはじめる人が一定数いる。最近聞かなくなったけど。あれはマジで意味ないと思ってて。
地域に何があり、何が求められてるのか、どんな子どもたちがいて、その子たちが何を求めてるのか、みたいなことをちゃんと考えなきゃいけないと思うんだよね。地域に教育の課題は、もう既にあるわけじゃん。
「やりたい」って言ってる人は子どもたちのことを見てるのかって話なわけですよ。高校魅力化をやりたいのは大人の事情だったりするじゃん。

今)はいはい。

山)でもさ、子どもたちがそこで教育を受けたいと思うかっていうのは全く別だし、一番の受益者は子どもたち。つなぐ公社の立場からすると、いろんな思惑のステークホルダーが多分いて、多分大変なんだけど、そこをちゃんと大事にしたいというのが、伝わるんだよ。それを思った箇所があったんだけど、どこだっけ。ああ、見つからない。

(しばし探す)

森山)はじめのところかな。人材育成っていうのは大人側の考えであって、子どもが担い手になりたがっているのかって。

山)ああ、そうだ。さすが著者。そりゃそうか(笑)

地域側の逼迫した焦りや、子どもたちへの願いが、ストレートに表現されること自体は、責めるべくもありません。しかし、それはあくまで地域と学校にとっての命題です。育てられる側にとってどうか、という視点が欠けているように思います。

『まちの風景をつくる学校 神山の小さな高校が試したこと』より

ここのフレーズだけで、私は結構ゾクゾクっと来たよね。言うのは簡単だけど、意外と抜けるんだよね、この観点。教育の人、なぜかそういう人多い。私の偏見かもしんないけど。
例えば私は障害を持つ学生のキャリア支援をしてるけどそこで一番大事なのは、この子たちが適切なキャリアを自分で選べたり、考えられたり、挑戦できたりするのかって観点だと思ってて。一番の受益者は障害のある学生たちなわけよ。でも、企業は「新卒採用で障害のある学生を雇いたいです」って、自分がいい採用活動したいって発想になっちゃうんだよね。

今)ああ、そういうことか。はいはい。

山)採用するためにこういう風に設計した方がいいよね、とかって話になりがちだけど、でも「そもそも学生たちはこの会社に行きたいと思ってますか」みたいなところが大事じゃん。

今)うん、うん。

山)そういう社会をつくっていかなきゃいけない。それって時間もかかるし、コストもかかるんだけど。一番の受益者は誰なんだっけっていう視点はめちゃくちゃ大事。それが冒頭に出てきたのはすごくいいなと思った。

これは私自身の反省です。高校生と地域をつなぐ授業を受け持つことになった時、計画書上ではありますが、深い考えもなく「地域の担い手を育てる」ことを目的に掲げていました。けれどあるときから、その言葉の窮屈さと都合の良さに違和感が生まれ、使わなくなりました。「誰のための授業か、わからなくなってしまう。協力してくれる大人へのご機嫌取りはやめよう」と。

『まちの風景をつくる学校 神山の小さな高校が試したこと』より

これいいよね。そうなんですよ、つい(わからなく)なっちゃうのよ。

今)そうか、なっちゃうんだね。

山)なっちゃうと思う。理想の学びの環境をつくることが一丁目一番地で、ちゃんとそこに視点を置こうってなってるのがね、とてもいいなと思ったんすよね。これがあれば、この後信頼して読めるって思ったもんね。
まだ一章までしか読んでないけど、いい本です。だから全部読んで、いい本っていうのをそのうち書きますから。

森)やった。

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当事者の声が直接社会に届きづらいという意味で、障害のある人や未成年にはある種の共通項があるように思います。前書きに書いてあることを山田さんがしっかり咀嚼してくれたのはそうした背景もあるからかもしれません。

前書きは自分の姿勢の表明でもあり、何度も何度も書き直したところです。ほんの数ページからそこに込めた想いを読み取ってくれるというのは、なんともうれしいものです。

さゆ、ちりちゃん、ありがとうございました。
読み終えたあとの感想も楽しみにしてますw


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障害のある学生さん向けオンラインセミナーがCollable主催で8月5日に開かれます。実際に働いている人たちから話を聞けるそう。とても素敵な取り組み。

今和泉さんが晶文社(『まちの風景をつくる学校』の出版元)から出している本はこちら。高校生向けのワークショップもしているそうで、いつか覗いてみたい。


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