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金子光晴 反対

反対    金子光晴

僕は少年の頃
学校に反対だった。
僕は、いままた
働くことに反対だ。

ぼくは第一、健康とか
正義とかが大きらひなのだ。
健康で正しいほど
人間を無情にするものはない。

むろん、やまと魂は反対だ
義理人情もへどが出る。
いつの政府にも反対であり、
文壇画壇にも尻をむけてゐる。

なにしに生まれてきたと問はるれば、
躊躇なく答へよう。反対しにと。
ぼくは、東にゐるときは、
西にゆきたいと思ひ、

きもの左前、靴は右左、
袴はうしろ前、馬には尻をむいて乗る。
人のいやがるものこそ、僕の好物。
とりわけ嫌ひは、気の揃ふといふことだ。

僕は信じる。反対こそ、人生で
唯一つ立派なことだと。
反対こそ、生きてることだ。
反対こそ、じぶんをつかむことだ

20代の金子光晴の詩です。

最初に読んだときは、偏屈人間の根性がねじ曲がった詩だと思いました。

今回、再めて読むと、違った印象を持ちました。金子は、自分のこころにいつも正直であろうとしただけです。たとえ、周りと違っていても、自分のこころが反対せよと命じたなら、それに従おうと決めたのです。それが、生きていることの証であり、自分に自信を持つことにつながると考えたのでしょう。ちなみに、金子は、同調圧力が強力な日本社会で、反対する姿勢を終生貫きました。カッコイイ生き方ですね。

しかし、同調圧力に屈せず、日本で生きることは、難しいのも事実です。それでも、金子のような人がかつていたことを知れば、勇気が湧いてくると思います。




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