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埼玉で私とあなたがととのうまで【サウナのサチコ『裸の粘土サウナー』第20回】

サウナ支配人や熱波師をかたどった粘土造形を手がけるクリエイターにしてサウナー・サウナのサチコのサウナ訪問記。「ととのった」と感じるまで半年かかったという不器用サウナーならではの独自目線で、サウナ施設とそこに働く人々の魅力を切り取ります。

春がきた。

2023年はnoteを頑張りたい。それが年初の目標であったが、1記事も書けぬまま4月を迎えてしまった。「文章を読んでもらうために粘土を作っています」という私の自己紹介時の枕詞も、今では言い訳にしか聞こえない。

私は2020年1月から、noteという媒体で自分のサ活記事を書いている。要するにブログである。以前は「埼玉で私とあなたがととのうまで」というタイトル、コンセプトで、地元埼玉にある様々な温浴施設を巡っていた。

「私とあなた」のあなたとは、私の記事を読んでくださる奇特なサウナーのこと。きっとその人も私と同じように孤独で、体調がすぐれず、虚無感に苛まれて生きているのだろうと勝手に思い込んで、一緒にととのうまで頑張りましょう的な、意味不明のおせっかいを堂々とブログで展開していた。見えない「あなた」に向かって、私は自分が面白いと思うことを懸命に書き、これといった目的も理由もないくせに「ととのう」という曖昧なゴールを目指して、サウナに通い続けていた。

しかし私はある日突然、本当にととのってしまうのである。それは貧血のようなものであったが、これがととのいだと私は信じて疑わなかった。ちっともととのわなくて焦っていたのもあるが、とにかく私はととのったのである。ただ問題なのは、そのととのった場所が埼玉ではなく大阪だったこと。批判されるのを覚悟で、私は正直にその旨をブログに書いたが、誰も「埼玉じゃないんかい」と突っ込んでくることはなかった。

そしてそのまま私は「埼玉で私とあなたがととのうまで」シリーズを終了した。「あなた」がととのったのか知る由もなく。

2023年。私はあの頃に書いていたような記事を、もう一度書こうと決めた。春になってしまったけれど、その気持ちは今でも同じだ。特別な出来事も出会いもない、温浴業界の有名人など誰も出てこない、なんとなく行ったサウナの記事をどうしても書きたい。

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