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大西一郎『ある視点』

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横浜市鶴見区・ファンタジーサウナ&スパおふろの国のリラクゼーションコーナー「ケアケア」店長を務める大西一郎がカウンターの中から繰り広げる視座の世界。 大西一郎 Twitter … もっと読む
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記事一覧

みかん【大西一郎『ある視点』第36回】

いつもみかんさんを、前からではなく後ろから見ていた。ケアケアの前で、OFR48の一員として、歌って踊る姿も、Villyバルコニーの一人として、ピアノを弾きながら歌う姿も、だいたい私はケアケアの中から見たり、声だけ聴いたりしていた。 「あなたに笑顔のビタミンC〜」というキャッチフレーズ通り、元気で、愛想がよく、変に気取ったり、格好つけたりしない、飾らない人柄が、後ろ姿や声からも伝わってきた。 「永遠の26(ふろ)歳」という設定なのに、「〇回目の26歳の誕生日を迎えました〜!

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湯灌【大西一郎『ある視点』第35回】

「しんどい」と「いたい」と「しにたい」が混ざったような言葉。最期の朝、父は一呼吸ごとに、「いいあい」「いいあい」とつぶやき続けた。 「何?しんどい?」「痛い?」と私が訊くたびに、曖昧にうなずいた。病院から電話を受け、母がとりあえず私を一番に病院に放り込んだので、病室にはしばらく私と父、二人きりだった。もはやぺらぺらと思い出話ができる段階ではなかったので、父の「いいあい」という言葉にうん、うん、と頷いた。もっと手を握りしめながら、優しい言葉をかけ続けたりしても良かったかもしれ

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飛翔【大西一郎『ある視点』第34回】

まずは「ぺいちこ」の説明からしなければならない。ぺいちこは、元おふろの国の熱波師、現在休業中のOL「宮川はなこ」と、この月刊サウナに連載を持ち、粘土人形を作る「サウナのサチコ」と、おふろの国リラクゼーションケアケアの歌う店長、私「大西一郎」の3人のことだ。去年、なにわ健康ランド湯〜トピアに、同じ日に呼んで頂いたことをきっかけに、急に仲良くなった。 ちょうどその頃、サチコが音声配信をやってみたいと言い出して、何の媒体でやるかとか、せっかくだから3人でやろうとか、とにかくノリで

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父、死にそう。【大西一郎『ある視点』第33回】

私は今忙しい。宿題が山積みだ。だけど何もしていない。やる気が起こらない。こんなにゆったりのんびりして、あれは明日やろう、あれはあさってにしよう、来週にしよう、月末にしよう、と永遠に後回しにしている。 後で困ることはわかっている。どんどん自分を追い詰めている。これはまさに、夏休みの宿題だ。私はもちろん、毎年毎年、8月31日に泣きながら宿題をしていた類の子供だった。かと言って、夏休みに何の後悔もないほど、思いっきり遊んだわけでもなく、毎日を無意味に、無気力に過ごした。 今、私

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エーワン東京【大西一郎『ある視点』第32回】

私の自宅からおふろの国まで徒歩5分。その道のりの上にさえも、一軒ある。例えば、うちのセラピスト、竹内が大田区から通う道のり、小林が埼玉から通う道のり、私の地元、兵庫県から新幹線に乗ってここまでやって来る道のりの間に、一体何軒あるだろうか。 今やっていることと同じこと、望めば働かせくれるところ。リラクゼーションの店。それなのにここで働く理由。それはもう、「縁」としか言いようがない。 個人的な話をすれば、私が今勤めている「おふろの国」のリラクゼーション「ケアケア」にたどり着く

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ワナバス【大西一郎『ある視点』第31回】

「もしも明日世界が終わるとしても、私は今日もおふろに入るの。」という歌詞の曲を書いた。 書いたのは二年ぐらい前だ。コロナ禍の真っ只中だったか、少し落ち着いた頃だったか、私は夜な夜な暇を持て余して、この歌の、作りかけのメロディーと伴奏をいちいち携帯に落として自分で聴きながら、鶴見川の土手を散歩していた覚えがあるので、時間短縮営業期間中か何かだったのだろう。ある日おふろの国の林店長から、「OFR48の曲作ってくれないかなあ、こんな時代だけどがんばろう的な。」と言われ、とても張り

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依存【大西一郎『ある視点』第30回】

「歌を歌う人なのにタバコ吸っていいの?」とよく言われるけれど、どうだろう、いくらか悪いのだろうか。 そもそも私は歌を歌う人なのか。いや、歌は歌うけれど、それは私の職業なのか。いや、確かに仕事の一貫ではあるけれど、でも歌はどこまで行っても私の一番の趣味だ。一番の趣味なんだったらやっぱり吸っちゃダメなんじゃないか。いや、ずっと吸ってるけど声が変わったおぼえはない。影響ないんじゃないか。だいたい私はもっとハスキーな声に憧れがあって、タバコ吸ってたらいつかハスキーになるんじゃないか

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価値【大西一郎『ある視点』第29回】

「女優の価値は、見ていたいか、見ていたくないか。」昔、よく通ってくれた劇団員のお客さんから聞いた言葉に、ひどく納得したおぼえがある。それは、演劇の世界の通説なのか、それともその人の個人的な考えだったのかはよくわからないけど、本当にその通りだと思った。 「映画とかドラマとかを見ていて、演技が上手い、下手っていうのが、いまいちよくわからない。」というようなことを私が言ったのだと思う。それに対する返事だった。「あー!」とか言って叫んだ気がする。 それは例えばこういうことかと、具

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知らない言葉 【大西一郎『ある視点』第28回】

私は毎月、第一日曜日の午後9時から、おふろの国のリラクゼーションコーナー「ケアケア」の前で、30分程の歌謡ショーを行っている。自分の持ち歌を歌うことも、他人の歌を歌うこともある。喋ってばかりであまり歌わない時もある。それはその日の気分次第だ。 この日はこの歌を歌う、ということに対して、いつもなにか理由を作る。それはこじつけだったり、つまらないダジャレだったりする。何か抽選会が行われている時には、「皆さんに良い景品が当たるように、わたし祈ってます。」とか言って、「わたし祈って

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はなちゃん 【大西一郎 ある視点(第27回)】

おふろの国の熱波師、はなちゃんこと宮川はなこが熱波をお休みすることを決めた。 はなちゃんと、今みたいに仲良く話をするようになったのは、ほんのここ半年ほど前からのことだ。何年も前からおふろの国で顔を合わせてはいたけれど、「あ、お疲れ様です。」 とか、ほとんどそんな会話しかした記憶がない。一年ほど前には、「承知しました。」「よろしくお願い致します。」などと、今見るとものすごくよそよそしいダイレクトメッセージのやりとりをしていた形跡が残っている。 私の社交性に問題があるのか、同

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【大西一郎 ある視点】第26回「冬来たる」

寒い。私はとても寒がりだ。だいたい私は10月にはダウンを引っ張り出して雪だるまのような姿で出かけて、「これからどうやって生きて行けばいいんだろう……。」と言う。これ以上温かい衣服なんて持ってないのだ。11月、12月、1月、2月……。ただでさえ狭い私の行動範囲はさらにせばまる。外にいると、家に帰りたくて仕方がなくなる。そしてこたつから出なくなる。 だいたい横浜って寒いと思うのだ。真夏でも、毎日ユニクロのUVカットパーカーを着て、昼間は紫外線を防いでいますみたいな顔をして出かけ

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【大西一郎 ある視点】第25回「なにわの迷宮」

子供の頃、ファミコンが大好きだった。私が小学校高学年の頃、スーパーファミコンが発売され、それまでのファミコンとは全く違う、画面や音の美しさにものすごく驚き、感動した。 高校生ぐらいの時にプレイステーションが発売され、それはそれで感動したのだけれど、ファミコンがスーパーファミコンになったときの衝撃は超えなかったし、段々ゲームが複雑で面倒になり、大人になる頃にはゲームそのものに興味がなくなった。 私の中でゲームは2000年前後で時代が止まっており、いまだにプレステ2の画面の美

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【大西一郎 ある視点】第24回「くりりん」

「手に職を付けたい。」と言って、OFR48くりりんこと栗原がケアケアにやって来たのは4年前。おふろの国からの紹介だった。 そのもっと前、私がおふろの国に来るよりも、おふろの国にケアケアができるよりも前に、おふろの国の清掃スタッフとして働いていたくりりんは、おふろの国の中の多くの人達と顔なじみで、「くりちゃん」と親しまれていた。 私がくりりんに初めて会ったときの印象は、今、OFR48として歌って踊るはつらつとした印象とはちょっと違っていた。「こういう子が居るんだけど。」と呼

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【大西一郎 ある視点】第23回「開く人閉じる人 サウナ体癖論3」

ある日、熱波甲子園に出場する代表者を決める予選会に、おふろの国お抱えの熱波師が集まった。ずらりと並んだ熱波師達は大変個性豊かだった。大きい人、小さい人、四角い人、丸い人、細長い人……。私はその人達を、「体癖」という考え方に照らし合わせて、「あの人は何種、あの人は何種。」と考えながら眺めていた。 (体癖とは、人が持って生まれた体つきや運動の傾向、身体の諸器官の反応、性格や行動パターンに一貫した法則性があるという考え方で、過去の連載も併せてお読み頂ければ嬉しいです。いつも同じこ

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