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福井県の、あるいは越前松平家の思い出

この記事を投稿したまさに今日、福井県は敦賀市まで北陸新幹線が延伸された。大阪へ行く際に30分の時短と引き換えに敦賀での乗り換えと数千円の値上げを求められるのは釈然としない面もあるが、甘んじて受け入れる他はない。

北陸三県、とは言うけれど福井を訪れた記憶はそこまでない。富山にはちょこちょこ行っているのとは対象的である。確かに富山の方が近いとは言え、所詮20~30kmの差でしかないのだから、ここまで差がつくのは我ながら少し不思議である。

福井は確か、魯山人展を見るために行ったのが最後だ。コロナ前だったから、少なくとも5年はご無沙汰である。ヨーロッパ軒のソースカツ丼を食べ、塩雲丹と黒龍を土産に買ったのを覚えている。

撮影日を見ると2019年6月22日だった
そういえば秋山徳蔵も福井県の人だったか

越前の雲丹と言えばカラスミやコノワタに並ぶ珍味として名高い。というのは聞いた事があったが、福井駅前をぶらついていて偶々入った店が塩雲丹発祥の老舗というのは嬉しい偶然だった。彼の店では塩雲丹を汐うにと書く。これが大変美味で、名物に美味いもの無しなんて箴言に対する貴重な反例と言わざるを得ない。米粒大ほども取って口に含めば塩気に濃厚な旨み、その中に感じる仄かな甘み、そして雲丹特有の磯の香りが口腔内にぶわっと広がる。飲む方の米にも食べる方の米にも実に良く合う。店頭で試食させてもらって以来虜になり、正月などのハレの日にはお取り寄せして口福を楽しんでいる。

酒がいくらでも飲める

その時買った汐うには、福井城本丸の地図をあしらった包装用紙で覆われていた。同店はなんでも越前松平家の御用達であり、その縁で使用を許されたのだとか。越前松平家、福井藩は祖に結城秀康を戴く堂々たる親藩である。花の慶次的には「ゆ、許された」の人と言えば通りがいいだろう。あの結城秀康である。

画像引用:隆慶一郎/原哲夫『花の慶次 雲のかなたに』

汐うにを買い求める1時間程前、やはり福井駅周辺をぶらついていた私は北ノ庄城跡の資料館にいた。解説パネルを眺めていると観光ガイドと思しき翁に「どちらからお越しに」と尋ねられた。私が「石川です」と答えると、その翁は「ああ、外様の……」と返してきた。その時眼前にあったパネルは賤ヶ岳の戦いに関するものだった。前田利家の裏切りを詰りつつ、藩の格でマウンティングしてくる高等テクの前には苦笑するしかなかった。所詮はおらが殿様自慢、一々目くじら立てるほどのものではあるまい。それにこの人が越前に封ぜられなかったら、塩雲丹だって生まれなかったかもしれないのだ。

おらが殿様(画像引用:山田芳裕『へうげもの』)

さて、新幹線開通に便乗してビュー数を稼ごうとするならこの辺りで「どこそこに行ってみたーい(きゃるるん)」とか言ってみるべきなのだろうが、差し当たって行ってみたい場所はない。芦原温泉も独り客はどうせ予約サイトの段階で門前払いだろう。古越前にしても名品は既に収まるべき所に収まっていて、越前町に行った所でその残香しか感じられないだろう。

「焼き物が見たいなら焼き物の産地には行くな」というのが私の経験則である。優れた古陶磁が見たければ特別美術展の開催を待つのが良く、尖った美術工芸品が見たければ作家の個展に行くのが良い。分けても「焼き物まつり」になんて絶対に行かない方がいい。伝統ブランド頼みの土産品ばかり見せられてどれ程興醒めしたことか。

強いて言えば、新しくなった敦賀駅へ行くのは少し楽しみである。関西出張の際は同駅で乗り換えという強制イベントが発生するようになってしまった。大阪延伸にはまだ20年以上かかる。ならばその間ずっと面倒だ面倒だと嘆くのではなく、その面倒の中から楽しめる何かを見出してやろうと思う。まあ、気に入った駅弁やフードコートの1つでも見つかればしめたものだろう。

(ヘッダー画像:福井県・福井市『福井城史料調査委員会報告書』より引用)

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