姉弟喧嘩を目撃した話

劇団のミーティングの帰り、近所の商店街を歩く幼い姉弟が静かに喧嘩を始めた。

持っていたぬいぐるみで互いを殴打。弟は効かないアピールで姉を挑発。

横断歩道を渡ったところで、姉貴が弟を突き飛ばして弟スッ転ぶ。(あぶない!)

うずくまったまま、ひぃーん……と静かに泣く弟を放置し、ズンズン先を行ってしまう姉御。

弟の泣き声とうずくまったその見た目があまりに可哀想に見えて、世界中が声を掛けるべき雰囲気だった。

おろおろする目撃者達。一番近くにいたおじいさんは、涙に暮れる弟に今にも声を掛けそうで、でも出来ずにいた。

弟はすぐに泣き止んで姉を追おうとしたが、少し歩いたところで思い改め、座り込んですねてしまった。

近くで井戸端会議をしていたおばあさん達が、幼い二人のことをひそひそ話していた。

そんな光景を見ながら、自分ならなんて声を掛けるだろう、と考えながら歩いた。

帰る方向が同じようで、ぷんすか歩く姉を追う形に。

 

一時は学校の先生を志したものの、性格が向いていない、と自己判断して閉ざした。

自分は何かと見返りを求める性格だし、思考が幼いので小さな子供と本気で喧嘩をしてしまうのだ。

学習塾でアルバイト講師をしていた時は、主に不良の卵たちに懐かれたものだった。

あのくらいの距離感がよかった。

 

“泣くな、負けるな、立ち上がれ”

“おねえちゃんも泣いてたよ(嘘)”

 

うーん、どれもしっくり来ない。

自分は、姉の方に声を掛けるべきだなと思った。掛けないけど。

姉の弟への怒りは、もしかしたら、家庭で弟ばかりが親に相手されて、寂しくていらいらして…… みたいな話もよく聞くし、実際よくあることだ。

そして見ていた感じ、喧嘩は弟の方から吹っ掛けていたっぽいし。

いわば姉は、自らの明確な加害者を買って出て喧嘩を終わらせたのだ。

小さな加害者の後ろ姿は、100の言葉を投げ掛けてくるようだった。

 

せいせいした、これでいい、あいつが悪い、私は間違っていない、知るもんか、どうしよう、大丈夫かな、怪我してないかな、大丈夫だろう、そんなに強く押してない、誰かを巻き込んでないかな、誰かが追いかけてきてないかな、つかまったらどうしよう、叱られるかも、ちょっぴりこわい、パパとママになんて言おう、めんどくさい、etc……

 

なにぶん大勢が見ている前だし、わたしのようにたまたま後を追う形になっているモブも多いし、姉も弟も決まりが悪そうだった。

いわゆる”劇場型喧嘩”はこういうところがある。

姉は振り返らずズンズン歩いていたが、ちらりと振り返った。

徐々に振り返る回数が多くなり、足取りも緩やかになっていく。

あっという間にわたしとの距離が縮まり、姉を追い抜く段階になった。

“だめでしょ、あんなことしちゃ! 車が近くを通ってて、もしあのまま車道になんたらかんたら”

って人は言うんだろうか。如何せん自分は、加害者の方へ頭を回してしまう。これは間違いなくあの人の影響か(笑)

 

“大丈夫だよ、公園に座ってた”

 

かな、声を掛けるとしたら。掛けないけど。

でもなんか気になったので、メール打つ振りをして立ち止まり、壁にもたれ掛かって二人の結末を見届けることにした。

声は掛けなかったけど、アイコンタクトはした。内容は上のやつ。子供には伝わる。

姉はついに踵を返し、元来た道を戻っていった。

弟の方も向かっていたのだろう、二人はすぐに連れたって戻ってきた。

目も合わせず会話もせず、二人の間には人1人分の隙間。

仲直りの一歩手前。

姉がじっと見てきたので、”いや、知らんし”って感じでわたしは退散。

“よかったね”と背中で語っておいた。

“せめてお名前を!”と背後から声を掛けられることなんか無かった。(当たり前じゃ)

 

でも、よかった。

あのまま帰ってたらたぶん一生気に掛かってた。

実際、弟を置いて先を行く姉の後ろを歩いている間、嫌な想像が止まらなかった。フィクションに浸りすぎか。

「あれが最後に見た弟の姿だった。あの日以来、私はずっと重い十字架を背負っているのだ(姉談)」とかよくあるある。

現場は車道のそばだったしね。

 

小さな子供の日常、その中のちょっとした事件。

二人にとっては、本気の怒りと、悲しみと、優しさの物語。

世界は子供のためにあるんだよ。

大人は子供のために生きて死ぬんだよ。

不謹慎だけど大いに癒された。だからこうしてわざわざ書いてる。

 

でも、親御さんにしてみりゃ毎日が大変だろうなぁ

恋人は要らんけど子供は欲しい人間です。出会いの一つもない生き方をしてるけど、叶うかなぁ。

働いて結婚して家庭を持つことが、こんなに難しいとは思わなかったよ。

実は、子供の名前はもう考えてあるんだよね~

 

わたしの話はどうでもいいや。

以上です。

世界中のがきんちょに、リスペクトだっ!

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