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DX の心技体【7】戦略的に考えてみること(シナリオ・プランを練って先を見据えて動こう)

そもそも「戦略的に」とは?


今回着目すべきは、前回までのテーマのDXロードの加速化をどう正しく進めていけばよいか。そこに必要となる戦略的思考とその実行についての話です。これは、「心技体」の全てに関わる重要なテーマになります。

まずは、ビジネスにおける「戦略」とは何なのかを整理した上で、DXロードにおける戦略思考について改めて考えてみましょう。

そもそも戦略とは、戦いに勝つための大局的な方法や策略であり、ある目的を達成するために大局的に事を運ぶ方策と言えます。戦争やスポーツ、対局、ビジネスなど命を懸けてしのぎを削る戦いにおいて用いられます。国家レベルから、企業・組織・個人単位まで、様々な領域(分野、地域、時代など)でIT戦略やデジタル戦略が思考・設定され実行・評価されているのです。

DXロードを確実に前進させるためにも、こうした大局的な視点での戦略なるものが必要となります。なぜなら、デジタル戦争における潜在的なライバル・競合は、必ずこうした戦略を持って、色々な仕掛けを仕込んできり、戦いに挑んでくるからです。それに負けない(打ち勝つ)ための戦略を持っていないと、気づかない間にいとも簡単に負けが込んでしまう状況に立たされることに成りかねません。
私も外資系企業に長く居たこともあり、当たり前のように戦略で生きる世界の厳しさは身近に感じてきました。

デジタル・ディスラプターといった存在も頭に入れておかなければなりません。新しいデジタルソリューションにより、既存の製品やサービスが駆逐され、高性能、利便性のある新しい製品やサービスに置き換わるデジタルディスラプションが数多く登場してきています。Amazon、Uber、Airbnb、Spotify、Netflixなどの事例が有名です。デジタル・ディスラプターの多くはデジタル技術を前提としたデジタルネイティブ企業であり、デジタル時代に最適化したビジネスモデルで各業界に参入することにより、驚くべきスピードで業界のシェアを奪っていくのです。
これに対して無暗に恐れを抱く必要はありませんし、むしろ同じ立場で戦うこともありなのですが、そうした勢力にも対抗できる方策を考えておくこともやはり重要になります。一人で対応することが難しい場合も、取引先・仲間内・関連組織などと連携・協奏して打ち手を考えることもあり得るでしょう。

DXにおいても、「攻めのDX」「守りのDX」など領域やテーマを絞った取り組みもあります。戦略的思考とは、成功するためになすべきことを「考える力」であり、「知恵を絞る」ことです。それは誰にでもできることなのです。

最近の大河ドラマを見ていても、昨年の『鎌倉殿の13人』から今年の『どうする家康』へと戦国武将による群雄割拠の世界の話が続きます、この展開の中でどういう思想でどういう戦略がとられてきたのかを見るのも面白いでしょう。
鎌倉幕府の公式レポートと言われる歴史書の『吾妻鏡』が、家康の愛読書であり、源頼朝が築いた武士政権となる鎌倉幕府の成功と失敗の歴史を研究した成果として、15代将軍まで続く徳川幕府の政治の礎を築いてこれたのかという視点で鑑賞してみるのもいいですね。

孫子の兵法から語り継がれてきた戦略論

兵法からビジネス戦略へ!

「孫子の兵法」がビジネス戦略としても多く語られてきました。中国春秋時代の将軍、孫武が著したとされる最古の兵法書である『孫子の兵法』には、軍略の時代から戦争の記録を分析・研究して書き継がれてきたものであり、ビジネスの世界にも通じる重要なヒントとなる言葉が数多く残されています。あらゆる局面も視野に入れ、13編から構成される体系的な戦略論です。変化に対応して『勝ち』を得るという戦いの遺伝子が現代にも生きており、それ故にビジネス世界の論客をも魅了して止まないのでしょう。

ちなみに、大河ドラマ『どうする家康』に登場する織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の「戦国三英傑」の皆が「孫子の兵法」を習得し、戦国乱世から天下取りの偉業をなしています。ドラマの中でどんな苦悩や決断が見られるかとても楽しみです。

「孫子の兵法」で具体的な内容としてよく知られているところでは、戦わずして勝つことが一番であることや、情報戦こそ戦いの要であるといった点になるでしょうか。(以下ポイント抜粋)

  • 「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」

  • 「彼を知りて己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」

  • 「善く戦う者は、人に致して人に致されず」

  • 「凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ」

  • 「これを経るに五事を以ってし、これを校ぶるに、を以ってして、そのを索む。一に曰く、二に曰く、三に曰く、四に曰く、五に曰く

「ビジネスに活かす孫子の兵法」(Mark McNeilly 著)では、孫子兵法の上の基本戦略六原理を以下にまとめられており、大変参考になります。

  1. 戦わずに敵を屈する戦略 ー 力を磨き勢いを増して市場を掴め!

  2. 強を避けて弱を撃つ戦略 ー 力を束ね主導を握って意表を叩け!

  3. 先知して計略を練る戦略 ー 情報を手に詭計を策して敵を操れ!

  4. 準備を整え機動する戦略 ー 備えを密に素早く動いて敵を倒せ!

  5. 奇正を用い制御する戦略 ー 正道と奇導を仕組んで戦意を奪え!

  6. 組織を率い統御する戦略 ー 仁徳を積み言動一致で陣頭に立て!

以降、戦略思考としてまず大事だと思うところを説明していこうかと思います。

(1) シナリオプランニングを取り入れる

作戦会議・絵にして考えよう!

シナリオプランニングとは、将来的に起こり得る可能性を複数のシナリオとして描き、組織の進むべき道や具体的な対処を決めるための手法です。
ある程度未来のことを予測していないと、いざというとき適切な対応ができません。企業を取り巻く環境はどんどん変化しているため、さまざまなシナリオを描き戦略を立案する必要があります。
現代がVUCA(変動性が高く、不確実で複雑、さらに曖昧さを含んだ社会情勢を示す)の時代といわれているのも、シナリオプランニングが重要な理由になります。先行きが不透明で将来の予測が困難だからこそこれが求められるのです。

企業を取り巻く環境(顧客・市場・競合・制度など)がこの先どう変わっていくのか、未来の変化を予測したうえで、どう動けばいいのかを考えるためのフレームワークになりますので、この戦略思考は欠かせないものと言えるでしょう。

(2) フォーキャスト経営で進める

将来を見通し、先手を打つ!

事業の営業目標や予算計画を立てる際に、予想・予測・見込みといった意味合いで「フォーキャスト」という用語がよく使われます。情勢判断をする際に先を読んだ動きが重要なのですが、それを重視した経営手法が「フォーキャスト経営」になります。

それを強く感じた経験として、IBMのPC売却の話を聞いたことがありました。
IBM社は高収益体質を維持するため、儲けの少ない事業を次々に売却し付加価値の高い事業にシフトしてきた歴史があります。例えば、2002年にプライスウォーターハウスから企業コンサルティング部門を買収し、2004年にはノートパソコン部門を中国のレノボ・グループに売却しました。「ThinkPad」というIBMブランドは非常に人気があった中での出来事であり、驚きのニュースとして見ていました。

その後に関係者から聞いた話では、予め設定された基準に則り、フォーキャストされたデータからの判断結果に基づく戦略的決定であった、全く合理的なものであるとのことでした。それができるデータの収集・分析と戦略に基づく判断基準が設定されマネジメントされる仕組みがあるからこそ、このような大胆かつ迅速な意思決定ができるのだと理解しました。これらのM&Aはうまくいき、今や経営コンサルティングを含む総合(IT)サービス会社として業績向上を続けています。

経営におけるフォーキャストとは、各フェーズの早い段階でフェーズの業績着地をできるだけ正確に予測し、そこで見えたギャップ(差異)を埋めるために先手で対応策を計画・実行することによって、ギャップを最小化していくマネジメント行動です。結果を見てから判断するのではなく、結果が出る前の先読み情報を基に結果を推測し、早めの判断ができるようにすることに意味があります。これにより意思決定が驚くほど速くなり、ドラスティックな判断についての説明力がアップするのです。

EVMなどの進捗管理の仕組みでも、SPIやCPIなどこれまでの予実や生産性といった指標から将来要するであろうコストや期間を予測し、それに対するコントロールを行うマネジメントが実施されたりします。それと同様に、「これまでの実績から今後起きることを先読みして、それに対するアクションを打っていくことができるのです。まさに先手先手のアクションということで、「結果が出てからじっくり丁寧に議論を重ね必要な対策を検討します」といった話とは対極になるのです。

(3) ゲームプランを練っておき爆速対応する

どのプランを選択する!

以前、コンサルティングファームで働いていた時代は、組織・チームごとに各期のゲームプランをよく作成していました。
対象とする領域(事業・サービス)を、どういった戦略で攻めていくのか、いくつかのシナリオを描き、条件に応じていくつかのプランを設定しておくのです。楽観的なものから悲観的なもの、たとえどんな最悪な状況になっても、慌てず騒がず「これも想定内のこと」と言いつつ、想定済みの手を素早く打つことができるのです。これをゲーム感覚で行うことになります。そうしたシナリオに沿って局面ごとに探りを入れたり、あの手この手で仕掛けたりするのです。成り行き任せで思い付きでやっているのとは違って、これもそれも作戦に則った行動であり、その作戦がまんまとはまると確実に成果を上げられることになるのです。

プランBとは、これまで続けてきた計画が頓挫したときに発動される次善の策(代替プラン)となります。本来の計画や作戦(プランA)がうまくいかなかった場合のためのバックアップとしてあらかじめ用意された2つ目のプラン(次善策・次の手)もしくはプランBomb(爆弾)の略と言われています。
さらに第2の手(プランB)が有効でなかったときに用いられる第3の手がプランCとなることもあります。

全く最悪の状況を想定して、どうしたら生き延びれるのかといった、プランを検討したりもしました。このあたりの発想は、BCP(事業継続計画)の作成においても通じるものがあります。

(4) 戦略と変革(Strategy&Change)の実行へ

戦略と実行の波間を進め!

戦略(Strategy)が重要なのか、いやいや変革実行(Change)こそが重要なのか?というテーマもよく議論された記憶があります。
戦略が良くできてもその実行が伴わないと意味がないということで、戦略コンサルタントも戦略の実行現場にも伴走するサービスを提供する形が多くなっています。
DXの『X』は「トランスフォーメーション」ということで、まさに変革実行にその本質があるということになるのですが、そこには確かに「戦略」があり、それに基づく「戦術・計画」があり、「実行・評価」のプロセスが回っていくことでうまく機能することになります。
ただ「戦略~実行」の関係は振り子の動きに例えられて、タイムラグをも持ちながら揺れ動き、最適なところには留まらない動きをすることがあります。そうしたメカニズムをよく理解した上で、コントロールしていく必要があります。

振り子が揺れていることが重要!

戦略的に考えてみる、ことのまとめ

戦略理論を理解し、現場にもうまく持ち込もう!

近年の社会環境の変化やIT・デジタル技術の進展を受け、「シナリオプランニング」「コア・コンピタンス経営」「ブルー・オーシャン戦略」「協調・競争戦略」「プラットフォーム戦略」「フリーミアム」「オムニチャネル戦略」「ドミナント戦略」「パーパス経営」「デザイン思考」など様々な領域・レベルの戦略論がビジネスの現場で活躍しています。
時代が変われど変わらないもの、時代に応じて新たに生まれるもの、変わっていくものなどがあります。新たなビジネスモデルを考える際にもこうした新たな取り組みを観察し、その規模に関わらず自分の組織への適用を考えてみると面白いと思います。

ところで、戦略的に取り組もうといっても具体的に何をどうするればよいのかと悩むこともあるでしょう。孫子の兵法に学ぶことも良いですし、デジタル時代ならではの戦略論を試してみるのも良いでしょう。基本としては、以下のような事柄を意識して、できる範囲で自組織の活動に取り込んでいきましょう。

  1. 環境分析する(SWOTなど)

  2. 仮説を立てる(構造化する)

  3. ゴール設定する(KPI、KGI)※長期・短期

  4. シナリオ・プランを検討する(条件に応じて複数)

  5. 対応方針を定める(戦略マップを絵にしてみる)

  6. 戦略と実行のGAPを分析評価する(コントロールする)


繰り返しになりますが、VUCAの時代の複雑で不確実な世界にあって、変化を的確に読み取って素早く対応することこそが『勝ち』を得ることになるという意味で、戦略的思考を持つことが必須になるでしょう。過去の失敗経験や成功体験を踏まえ、そこから得た戦略に基づいた行動することで、デジタル化社会で戦い勝ち抜いていける心技体に更なる磨きがかかることでしょう。

最後に、TOKIOの楽曲「遠い日のメロディー」に、「詰めの甘い戦略でも時に胸は高まる」という歌詞があります。たとえ正解のないゲームだったのとしても、遠い日のメロディーが聞こえたなら覚悟を決めて、僕らが見つけた楽園に迷わずに行ければいいですね。

この先は、「No.8 の気力・体力を維持し、流されないこと(絶えずゴールを見据える)」といよいよ後半へと繋がっていきます。


DXの心技体【8】~はまた以降の投稿で!

【再掲】DX推進の心技体(10選)

DXを進めるための心技体!
  1. まずは自分なりのDXを語ること(自身の言葉で定義してみよう)

  2. 未来ビジョンに向けたJourneyとすること(ありたい形、なりたい姿を追求する)

  3. 顧客志向で提供価値を表明すること(「ならではの価値」を提供しよう)

  4. 手っ取り早くデジタル武装すること(低コスト・短期間で効果を実感できるものがあります)

  5. Small Start で始めて、失敗と成果を積み上げて進めること(勇気を出して1歩踏みだそう)

  6. 最新技術・ソリューションをうまく活用し、新しいビジネスを作ること(デジタル技術の活用で経営課題の解決へ)

  7. 戦略的に考えてみること(シナリオ、プランを練って先を見据えて動こう)

  8. 気力・体力を維持し、流されないこと(絶えずゴールを見据える)

  9. 変革・変化に対応するものを巻き込むこと(抵抗勢力に対するチェンジマネジメントも必要)

  10. 組織力を上げること(横断組織、俊敏性、爆速、Agile)